【 Perfect Twin 〜Yui〜 外伝】−(前編)

遊園地についた零達は入場してから、しばらく歩いていると千絵が多くの観客で
賑わっている一角を見つけて、足を止めた。
「千絵どうしたの?」
千絵に続いて他の皆も足を止め、千絵の隣にいた唯が尋ねた。
「あそこにたくさん人が集まっているんだけど、何かやっているのかな?」
千絵はその一角を見ながら答える。
唯もその方向に眼を向けると小さな建物に多くの観客が集まり、時々そこから
歓声が聞こえていた。ただ、何をしているのかは観客が多くいるので遠くからでは
見る事はできなかった。
千絵は見えないとなると近くに行ってみたいという興味が沸いてくる。
「じゃあ、ちょっと行って見る?」
唯維が千絵の表情を窺うように聞いてみると千絵は嬉しそうに頷く。
「みんなはどう?」
唯維は零達の方に振向いてどうするか聞いてみる。
「別にいいぜ。」
「面白そうだね。行って見ようか?」
零達、奇面組の面々も口々にそう言って唯維に対して頷いた。
零達がその場所に行ってみると建物の上にあった看板から射的場という事がわかった。
射的場ではまだ誰かが射的を行っているらしくで、パン、パン、と乾いた音がする度に
観客から歓声や感嘆の声があがる。
唯や千絵は背伸びして中がどうなっているか覗き込もうとしたが、目の前にいた観客に遮られ
様子を窺う事ができなかった。
「どうする?ここからじゃ見えないけど…」
「じゃあ、ちょっと中に入ってみましょうよ。」
千絵はそう言うと観客の中をかぎ分けて中に入っていき、後から唯も続いていった。
「あっ…唯ちゃん、千絵さん、ちょっと待って…」
唯維は慌てて手を2人の方に向かって手を伸ばし、自分もその流れに乗って行こうとしたが
2人がすっと観客の中に飲み込まれるかのように中に進んで行くのに対し、唯維は観客に邪魔されて
付いて行く事が出来ない。2人は観客の中に入って行き、唯維の視界からは消えていった。
「もぅ…」
唯維は口の中でそう呟いて少し不満そうな表情をする。
「あれ?…零くん…みんな…」
唯維は周りを見回してみると唯・千絵の2人だけでなく、先程まで自分の周りにいた奇面組の
面々までいつのまにか姿を消しており、唯維1人だけポツンと取り残された形になった。
「もう!みんなして…なんであたしだけ置いていくのよ!」
奇面組にも置いてけぼりにされた唯維はますます不機嫌になり、地団駄するように地面を足で
踏みつけながら叫んだ。

唯と千絵が人ごみの中を掻き分け何とか最前列に辿り着くと射的場には射的の順番待ちをしている
数人が一角に集まっていて、その中の1人が銃を構え標的に向かって弾を撃っていた。
残りの人がそれをじっと見つめている。
「あっ、塊さんに妖さん!!」
唯はこんな所で彼等に会うとは思っていなかったので、多少驚きの混じった声で射的を
していた塊や妖に対して声をかけた。
「おう。久しぶりだな。」
唯に声をかけられた妖は2人に近付き、ぶっきらぼうに答えた。
「こんにちは。今日は皆さん揃ってどうしたんですか?」
「まぁ…前に…遊園地のチケット貰ってな、今日はたまたま暇だったんで連中を連れて…」
と妖が言いかけていると観客からどよめきの声が起きる。
唯や妖達が観客が見ている方向へ眼を向けると腕組の雲童塊が射的を終了して満足そうな表情をして
銃を下ろしていた所だった。
「6番 雲童塊くん 44点!」
という女性の声が上がると観客がまたどよめき、それを聞いた妖は不満そうな表情をして
軽く舌打ちをする。
「どうしたの?妖くん。」
千絵が訳がわからず妖に尋ねると、妖は親指を突き出してとある方向を示す。
唯と千絵がその方向を見るとそこには射的の成績順が表示されており、それまで妖が44点でトップ
だったが先程終了した塊の名前が44点でその上に貼り出される
3位の中須藤臣也が38点で、2人が他の人を大きく離してトップに立っていた。
ちなみに4位以下の名前を見ると、ほとんどが番組と腕組のメンバーで占められていた。
「やぁ、お花見の時以来だね。」
射的を終えて妖の後ろからにこやかな表情をした塊がやって来た。
「こんにちは、塊くん。」
声をかけてきたので千絵も笑顔で挨拶を返し、唯も軽く会釈する。
「これで3回連続引き分けだな。」
「フン!」
塊はニヤニヤしながら横にいる妖に話しかけるが、妖の方は面白くなさそうにそっぽを向く。
「も、もしかして…3回もやっているですか?」
塊の言葉に呆れた千絵は2人に尋ねてみる。
「リーダーったら、最初の勝負で引き分けたからって、何もここまでムキにならなくてもいいのに。」
妖の隣にいた堅作も同じく呆れた表情で妖に代わって答える。
「るせー」
妖はそっぽを向いたままぶっきらぼうに答えた。
「ところであの連中と一緒に来ているのかい?」
塊が2人に尋ねた。
「ええ…奇面組の連中にそれと…」
「それと、って…他に誰かいるの?」
「多分、見たら驚きますよ。フフフ…」
そう言って千絵は唯維を引き合わせた時の2人の顔を想像して、思わず笑ってしまった。
「千絵ったら、無理に紹介させるような事しなくてもいいじゃない。」
唯は困った顔をして横から千絵に注意する。
塊と妖は2人が何の事を言っているのか、理解できる訳もなく顔を見合わせる。
そんな会話をしている唯の肩を後からポンポンと軽く叩くので、唯は後を振り返ると人ごみの中を
やっとの思いをして抜けて来て辿り着いた唯維がいた。
「あっ・・・唯維さん。」
混雑している所を抜けるのが難儀だったのか、唯の方を掴みながら俯いて肩で息をしている。
「ちょっと、唯ちゃん。酷いじゃない、あたしだけ置いていくなんて…。」
「ごめんなさい。別にそういうつもりじゃなかったんだけど…」
そう言って唯は頭を下げた。
唯維は少し落ち着いたのか、顔を上げて目の前に被さった髪の毛を指でかきあげる。
妖と塊の2人は唯維の顔を見て、さすがに驚いたのか少しどよめく。
「この人はね…大阪から来た『河川 唯維さん』で今日、友達になったばかりなの。
一応、言っとくけど双子じゃないからね。顔も声もホント唯にそっくりだけどね。」
「それで…こちらの2人なんだけど。右にいる人が『似蛭田 妖さん』、
高校の時の友達で『番組』ってグループのリーダーをしていて…
そして、左にいるのが『雲童 塊さん』、こちらも高校の時の友達で『腕組』って
グループのリーダーなの。」
千絵は3人に対してそれぞれ相手の事を紹介をしていった。
「河川唯維です。大阪から来たばかりで、皆さんとは知り合いになったばかりなんだけど…
宜しくね、お二人さん。」
妖と塊の2人に紹介された唯維は優しく微笑んで挨拶をした。
「あっ、あぁ…宜しくな。」
2人は唯維の顔を見ないように少し顔を上げて赤らめた顔を隠そうとしながら、挨拶する。
「やぁやぁ、塊くんに妖くんじゃないか。久しぶり〜♪」
「わっ!」
いきなりに塊と妖の後から奇面組の5人が現われ、零が能天気な声で2人に話し掛ける。
2人は不意に後から声をかけられたので、身体を飛び上がりそうな勢いでびくっと震わせた。
「てめ〜、なんだいきなり。驚かすんじゃねー。」
「おい、よせって。」
妖はもの凄い剣幕で零の胸倉を掴もうとする勢いで詰め寄って来るので、慌てて塊や堅作らが慌てて妖を
押さえ込んでなだめようとする。
「ところで塊くん。君達こんな所で何をやっているのだ?」
妖の剣幕に少し驚いた表情で一歩下がった後、まだ後から妖を押さえにかかっている塊を尋ねる。
「何って…見ての通り、射的だよ。」
零の問に対し、塊は妖を押さえ込んでいた手を離して素っ気無く答えた。
「ねぇ…零くん。せっかくだからあたし達も射的やってみない?」
「えっ?」
唯維の言葉に零だけでなく唯や千絵、妖達も一斉に唯維の方を振向いた。
「唯維さん、射的なんてやった事あるんですか?」
「ううん…全然。」
あっけらかんと平然に唯維は答えるので、尋ねた千絵の方が余計に唖然とする。
「おいおい、あんたが参加するのかよ?」
横から塊が割って入ってくる。高得点をあげて3度もトップになっている為か自信有り気に語るのだが、
唯維にはどこかその言い様に、見下されているような感じを受けずにはいられなかった。
「ええ…別に参加資格なんて無いんでしょ?それに射的は初心者だけど、
コツを掴めば何とかなるんじゃないの?」
「別に、俺は誰が入って来ようと構わないぜ。誰とやるにしても今度もトップは俺だからな。」
妖は唯維の方には振り向かず、横を向いたまま淡々と口を開く。
「あら、強気なのね。でも、あたしもするからには誰にも負けないつもりで行くわよ。
こう見えてもあたし、負けず嫌いなんだからね。」
唯維は塊の言い様に少し癇に障る所があったが、心の中に押し隠して2人に向かって笑顔で言った。
唯維自身、自覚しているかどうかわからないが、その瞳にどこか妖しく挑発している
ような光がちらついた。
塊は唯維にじっと見つめられて、慌てて眼をそらす。
「おい、やるんならあそこに行って早く申し込むんだな。堅作、臣也、行くぞ。」
唯維に見透かされ、狼狽している塊をよそに妖はある一角を指差し、また射的に参加すべく堅作等、
番組のメンバーを連れて指差した方向へ向かって行った。
唯維や塊も妖の後を追いかけて指示された場所へ向かって行った。

「あ〜あ、唯維さん行っちゃった…」
「どうする、唯も参加するの?」
「ううん…私はああいうのはちょっと…」
唯はそう言って首を横に振った。
「そういえば、零さん達はどうするのかな…?」
千絵がそう言って零を見ると、肝心の零は他のメンバー4人に無理矢理押背中を押される形で
妖に指定された場所まで連れて行かれ、申し込まれてしまった。
零は4人に抗議するも後の祭りであった。

しばらくして申込みの〆切りとなる時間が過ぎ、申込んだメンバーが1ヶ所に集まった。
集まったのは田打を除く番組4人と塊と一緒に来ていた亜切須 腱の姿もあった。
そして、唯維と他のメンバーに強要される形で参加した零の8人だった。
8人が集まると係員の人がやり方を説明した。
ゲームは西部劇の町並みに潜んでいる悪人をプレイヤーが銃で倒していくというものである。
説明の課程で係員がスイッチを押すと町並みから7人の凶悪そうな表情をした男の絵が描かれている
的が起き上がった。
的には男の左胸に赤い丸があり、両肩と足元に大きな黒丸が描かれている。
説明で人の頭や心臓のある左胸の場所に当たれば3点、それ以外の場所は2点、人に当たらなくても
黒丸に当たれば、自動的に1点が加算されるのだという。
それを3分以内に行うか20発撃つまで続けて合計点を競う。
係員から説明を一通り受けると今度は順番を決める為にくじを引く。
最初に係員に名前を呼ばれて引いたのは妖だった。係員から用意された箱の穴に手を突っ込み、
少ししてから勢いよく引き揚げる。手に取った紙を開くと『2』と書かれていたので、
妖は2番目に行う事が決まった。続いて塊が引き当てる、紙には『5』と書かれていた。
その後も順調に3人引き終わり、6人目に
「では、次に一堂零さん。」
「はーい、」
係員に呼ばれて零は子供の様に手を上げて返事し、箱の中に手を入れてごそごそと動かす。
そして紙を取り出し「はい。」と差し出す。
「えっ…えっと…一堂さんは『4』ですね。」
係員は差し出された紙を少々面食らった表情で受け取り、中に書かれた番号を零に見せる。
「げっ、一堂の後かよ…」
そう言いながら、天を仰ぐように上を向いて苦い表情をするのは5番目に行う事が決まっていた塊で
あった。
(まいったな…あいつの後だけにはなりたくなかったのに…)
過去に何度も零にペースを乱されて結果が伴わなかった経験があるだけに心の中でそう呟かずには
いられなかった。
その一方で、妖は零の順が4番目だという事がわかるとホッと息をついた。
妖も一堂の後に行う事で自分のペースを乱されたくなかったので、この順番の決定には心の内では
安堵していた。
そんな2人が零の順番に一喜一憂している間にも、くじ引きは進められていった。
次は7人目。まだ、くじを引いていないのは唯維と番組の米利堅作の2人である。
「次に…河川唯維さん。」
零の後、7番目に呼びだれた唯維が返事をして前に出る。
そして、箱の中に徐に手を入れていく。まだ引かれていない番号は『3』と『8』の2枚だけだった。
唯維は箱の中でしばらく手を動かしまざくり、どちらを取ろうか考えていた。
やがて、決めたのか一枚の紙を引き当てる。
引き当てた紙を開くと『8』の数字が書かれおり、それに目を通すと係員に手渡す。
「河川唯維さん…8番ですね。」
唯維から紙を受け取った係員が読み上げる。
こうして一度もくじを引いていない堅作が3番目に行う事になり順番が確定した。

会場では既に大勢の人が見物しようと集まっていた。唯や千絵達も既にそれを見物しようと最前列に
陣取っていた。
そんな中、まず最初に『1』を引いた亜切須 腱が射的を行う。
「腱、かんばれよー。」
唯の隣にいた腕組の3人が声援を送るが、腱の表情は冴えず落ちつかなそうで、目が忙しなく動く。
観客の騒ぎが気になっている様で時々、後をチラッと目配せする。
最初に行う者はどうしてもそういった観客の動きを気にせずにはいられなかった。
そして、腱が落ち着かないままスタートの合図があがる。
それと同時に男の絵が描かれた的が2つ現われる。
腱は銃に弾を装填し的に素早く狙いを定め、2発撃つ。
しかし、最初の2発は大きく的をそれてしまい、観客から溜息混じりの声や「なにやっているんだ」と
腕組のメンバーから叱咤の声が上がると更に動揺してしまう。
次に撃った2発も的に描かれた黒丸のすぐ近くを通るが、そのまま的には当たらず消えていった。
5発目に漸く的の右肩に弾が命中し、的が倒れると2点が追加される。
その後、1発当てる事で少し落ち着いた腱は着々と的を当てていき、3点となる赤丸にも5発命中した。
そして、20発撃ち終えると点数が公表される。
「1番。亜切須 腱くん。25点」
と係員から声があがると観客からどよめきの声と拍手があがるが、しかし本人は地面を蹴り
不満そうな表情をしていた。
そして、渋い表情のまま腱が退ぞくと、別の人物が入場した。
そこには、最初に気合を入れる為に声を発し、2番目に射的に臨む妖の姿があった…。


【中編】 へ続く

中編へ リストへ戻る Mainページ