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くくく、無駄無駄、シェスタの攻撃を受け止めてやる、防御魔法だ

「勇者の力見せてやるぜ」
俺はかっと手を天井に突き出すと、素早く勇者の特殊呪文を発動させる。
みるみる俺の体が鋼鉄の輝きを帯び出し、まるで鉄製の彫像のように硬くなっいていく。
これぞ勇者最強の防御呪文だ。
こちの攻撃力や素早さは大幅に下がるが、かわりに相手からの攻撃を無効にする。
「くくく、どうする気だ、シェスタ」
俺はわきわきと指を動かしながらゆっくりと女魔法戦士のほうににじり寄る。
だが、焦ると思われたシェスタは、例の凍えるほど冷徹な表情のまま、まるで俺の行動を予期していたといわんばかりに手に持った杖を天に掲げ、張りのある声で叫び出す。
「大地の杖よっ」
シェスタの声が響き渡った瞬間、俺の上空に真っ黒な力場が発生する。
こっこれは……まさか!
しまったあぁああああああ
「……この勝負…もらった」
俺の目の前でスカイブルーの瞳が鋭利な光を放ち大胆不敵な言葉を吐き出している。
ちっ、こいつは重力系の魔法の最上位魔法じゃねえか!
そうだったあの大地の杖の特殊効果は、この能力を使えるようになること……
そしてこの重力場の魔法の効果は…
「…落ちろ」
物憂げなシェスタの声とともに真っ黒な球体が俺の頭上から落ちてくる。
「うぐぅうう」
途端に物凄いGが体全体にメリメリとかかり、その重さを支えきれず脚が石畳をわってズブズブと沈み込んでいく。
それと同時に俺に凄まじいダメージが襲い掛かっていた。
この最上位の重力魔法の効果は、範囲内にいる全員の生命力、俗にいうヒットポイントの半分を必ず与えるというものだったはず。
そうこの魔法の範囲にいるだけで、敵味方問わずヒットポイントを半分にされると言う恐ろしいものだった。
「……うぅ」
前を見ると大地の杖を唱えた本人もその力場に巻き込まれ、唇の端から血を滴らせている。
だがその瞳は、生気に輝き冷たい光をはなって俺を見つめていた。
「おっお前っ…こっこれを狙って」
「……そうだ、まともにやり合っては勝てないからな」
激やばいぜ。
この魔法の効果は、たとえ体を鋼にして防御力を上げたところで関係ない。
「くそぉっ」
だが俺が悔しがるのはこれで終わりではなかった。
「大地の杖よ、いま一度…ううっ」
シェスタは自らもボロボロになりながら、再度杖を天に掲げる。
「なっなにぃいいい」
またしても生まれた黒い力場が闘技場に落ちてくる。
「うごおぉぉ」
「……うぅぅ」
ベキベキと激しい音をたてて石畳が砕け散り、俺もシェスタも体中の骨がきしみ、その圧力に立っていられなくなって床に倒れ付す。
「……まだまだ、大地の杖よぉ」
「ぐおぉぉ」
しかもシェスタは間髪いれず重力魔法を連発して開放しまくる。
こっこれは…やばいんじゃ…ないか…
この大地の杖の特殊効果は、敵味方問わず、全てのヒットポイントを半分にすることだ。
シェスタは残りヒットポイントが最小値になればもうこれ以上にヒットポイントが半分になることはなく死ぬことはない、だがヒットポイントが多すぎる俺は毎回大ダメージをくらいいつかはシェスタと同じ最小値のヒットポイントになってしまうのだ。
くうぅ普通なら使えないこんなマイナー魔法を道具で発動させて連発してくるとは……
「まずは、回復魔法を…」
俺が急いで回復魔法を唱えようとすると、すかさず倒れ付したシェスタが大地の杖を震える手で天にかざす。
回復魔法の効果はすぐに現れ、みるみる癒されていく俺の体。
だが…
「大地の杖よ!」
それに合わせてまたしても落下してくる暗黒の重力力場。
「マジかよぉおおおお」

数十分後、ガシャッと崩れ落ちる俺はすでにヒットポイントが1桁代になっていた。
そしてシェスタもすでに相当前からヒットポイント1桁の瀕死状態で倒れ付しながらそれでも大地の杖の特殊能力を連発し続けていた。
なんて根性だ。
見た目のクールさとは違い熱い奴だったんだなシェスタ。
「くうぅぅ、まさかここまで押されるとはな」
俺は荒い息をつきながら、ゆっくりと立ち上がる。
まだなんとか動けるだけの力が残っていただけでも奇跡だ。
だが、これで勝ったも同然だろう。
なんと言っても相手は俺と同様、すでに瀕死状態、抵抗すらできないだろう。
何せ完全な状態のシェスタでも俺に攻撃を当てる事は非常に無理だからだ。
「くくくく、さんざん手こずらせてもらった礼をさせてもらうぜ」
俺はボロボロになりながら、崩れた石畳に倒れるシェスタに襲い掛かろうとした。
その時、
こつんっと俺の頭に小さなモノが当たる。
へっと視線を上げると、そこにははぁはぁと荒い息をつくシュスタが、初めてクールな美貌に笑みを浮かべこちらを見つめていた。
「なっ何だ?」
「……魔法の木の実……必ず相手に命中する…」
魔法の木の実!たしか、防具に関係なく必ずダメージを与えるが、低レベルの序盤でさえ使わない珍アイテムだ。
なんせ与えるダメージが低すぎてスライムでさえ殺せない、使えない一品なのだから…
だが…今の俺は…重力魔法で…まさに瀕死…スライム以下の生命力だ……
こっこいつは……
「マジかよぉおおおおお」
そう叫んだ途端、俺の額からピューッと血が噴出していた。

俺は……
意識を失い暗闇に沈んでいった。

ってちょっと待ったああああああ。
こんなことでサクサク死ぬような勇者様じゃねえんだよ。
しかしまあ、死ぬ前なら、万能エリクサーや回復魔法なぞいくつもあるし、仲間がいればバックの中に文字通り山のように入っている世界樹の雫や不死鳥の羽が役にたっただろう。
だが、残念ながら俺は今、死んでいるし、かつ仲間もいない。
と、普通なら慌てるところだが、まぁ俺はそこんところがただの一般人と違うわけだ。
なにせ、どんな危機的状況でも蘇る方法はいくつもある。
そして俺のもつ無数のアイテムの中には「持ち主の死」が発動条件のすげえ一品もあるわけだ。
死の淵に引き込まれる俺の視界の隅で…
秘蔵のアイテムが今動き出す。
砂時計の形をしたそのアイテムがくるりとひっくりかえると、辺りの光景が逆回転に戻り出す。
そうこれぞまさに「リバース・タイム」。
全てがなかったことになる究極のアイテム。
チャラだよ、チャラ、俺が死んだこともなくなるってわけだ。
確かゲームの中だと戦闘の始めまで巻き戻るんだよな。
んで、敵は間抜けにも、巻き戻った事自体の記憶もなくしてるから、さっきと同じことをしてくるわけだ。
相手が何をしてくるか知っていれば、なんなく先手がうてるわけだ。
くくく、シェスタ見ていろよ、同じ手は…
同じ手?まて!まてよ!
ゲームの外ではなく中に入っちまった俺の記憶はどうなるんだ?
まさか!俺の記憶までも…
こっ…こいつは…まず…


そして……

全てが巻き戻っていた


(C)MooLich 2001