そんなこんなで俺は王都に来ていた。
すでに俺はぞろぞろ歩く行商人にまぎれて、王都の中に入り込んでいた。
ゲームでは所詮世界最大の街といっても数えるほどしか家の無いセコイ町だったが、それが今では様々な家が立ち並び、通りには露天がでて肌の黒いのから白いのまで老若男女人が溢れてごった返す巨大な都市として栄えている。
そしてその全ての道の行き着く先には王都の中心、小高い丘の上にそびえたつ荘厳な白亜の王城がそびえ建っていた。
聖母の予言を聞くまでもなく、次の目的地は目の前にそびえる白い城壁の内側、王都の中心にそびえるこの王城にいる国王に会うことだ。
そこで、ゲームスタートの金や、武器それに次のレベルに必要な経験点が聞けるはずなのだが…
「なんだ、きさまこの先は一般人は立ち入り禁止だ、帰れ帰れ」
むさいスキンヘッドの門番が声高にさけぶ。
「おい、おっさん,俺はこの先に…」
「なんだ、きさまこの先は一般人は立ち入り禁止だ、帰れ帰れ」
また、おっさんは同じことを同じアクセントで繰り返す。
「いや、俺は勇者だよ、ほれこの剣みな」
「なんだ、きさまこの先は一般人は立ち入り禁止だ、帰れ帰れ」
がーーーー!!無限ループかぁ!
俺がじろりとにらみ返してもおっさんは在らぬ方向をみて同じ台詞を繰り返すだけだ。
やれやれ、どこかでフラグを立て忘れたのだろうか?
俺が記憶の片隅を弄繰り回している時、遠くの方から盛大な歓声が聞こえてくる。
「おい、あの声なんだ?なんかあるのか?」
「なんだ、きさまこの先は一般人は立ち入り禁止だ、帰れ帰れ」
「くそっ、一生言ってろ」
俺はうざい門番の腹に蹴りをくらわすと、後も見ずに歓声の聞こえる方に走り出す。
そこは王城に通じる最も大きなメインストリート―だった。
路地に集う無数の人々を掻き分けるように豪華な馬車の一団がゆっくりと行進している。
その馬車をがっちりガードする数十機の騎馬の騎士達。
そして、金銀で飾られた豪華な馬車の上にはためく金絹の旗。
どうやら、国王の行列らしいな。
「よっと」
俺は側にいたおっさんの肩をふんづけ、さらにその向こうのガキを薙ぎたおし、観衆の中を無理やりすすむ。
途中、街娘の胸を一揉みしたり勝手に人の食い物いただいたり、露天から物をちょろまかしたりと、どさくさにまぎれて色々しながらも、俺はなんとか最前列に来ることができた。
ちょうど、その時、目の前を王室の馬車が横切っていく!
俺は首をのばしてその小さな窓を覗きこんでいた。
そこには、王と王妃が並んで腰掛けている。
王はすで老齢だろう髭は白く伸び、目も手もすっかり老け込んでいる。
そして、隣にはよぼよぼの王とは対照的に艶やかな魅力を振り撒くその王妃がいた。
『うおーーー王さま、王妃さま、王国万歳!!』
「うわっ」
その王と王妃の美顔がのぞいた途端に俺の周りにいた群衆達が歓喜の声をあげ万歳三唱しだす。
すごい人気だな…どんなに無策でも王ってだけでこの人気だ。
まぁ国っていってもここしかないしな……。
興奮した人々押し合いへしあいしながら、道へと溢れ出す。
パレードはみんなのあこがれうるわしの王妃の登場で最高潮を迎えつつあった。
「こら,貴様ら王のご前だぞ、列にもどれっぇ」
ヒュン
穂先を布で覆った槍が空を切ると、その剣圧で俺の周りのパニックった群集が吹き飛ばされ慌てふためいている。
「たく、男って生き物はこれだから困る」
スタッと槍を構えなおすと馬上の白銀の鎧を身に着けた女騎士がはき捨てるようにつぶやく。
「まぁまぁミランダ団長おしずまりください、ここは私達が……さぁ、あなたたち王の前です、静粛になさい」」
そういうと、ミランダと呼ばれた女騎士よりも飾りの少ない鎧をきた女騎士達が群集と馬車の間に列をつくる。
「すまん、後はたのむぞ」
ミランダが馬の首をめぐらすと王妃の乗った馬車に続いて駆けて行く。
んっ、この白銀の鎧の女騎士どもは…。
たしか王族の護衛をする白狼騎士団だったはずだ。
伝統的に貴族の子女を集めて作られる騎士団でゲームでは主人公の引き立て役とういか、まぁ飾りの花のような感じだったはずだ。
俺の目の前でまだうら若い乙女達が鎧に身を包み騎馬を駆って走り去っていく。
むう、全身を白銀の鎧で覆って見えなかったが…それでもなかなかいい体つきをした美女ばかりだった。
さすが、貴族の高尚な乙女の中でも選び抜かれただけのことはある。
とくにあの団長のミランダはちらりと覗いた引き締まった筋肉がおいしそうに汗をしたたらせ、一房流れ出た白銀の髪の毛が印象的だった。
それに、王の横に優雅にたつ王妃もなかなか気の強そうな美貌で落としがいがありそうだ。
凛と前を見据えたあの意思の強い眼差しを俺にだけ向けさせたらきっと気持ちがいいだろう…。
俺はぼんやりと立ち去っていく王の馬車とその一団を見ながら考えを巡らせていた。
どうすれば、あの王妃や護衛の女騎士達と会うことができるんだ?
ゲームではほとんど王の後ろにいて、「がんばってくださいね」「頼みましたよ勇者」の台詞しかないただのNPCだったのに…。
それになにより、いま俺は王城に入ることができないらしい。
なにかのバグだかわからんが、門番が同じ台詞をリフレインしてるからなぁ。
なんか王都にかかわるイベントがまた勝手に始まっているんだろう…。
それは、いったいなんだ?
女盗賊がくるやつか?それとも黒コショウ探しか?下水道のモンスターか?
それとも、えーと…。
「ん?」
その時、俺の足元に一枚の紙切れが風に吹かれまとわりついてきていた。
「なんだ?」
何気にそれを拾うと、そこには、
「え〜と、なになに『第十回王都武道大会開催 参加資格:制限なし 優勝者には王より直々にいかなる褒美も与える、集え魔王を倒す戦士よ…』だって」
これは武道大会イベントじゃないか!
王にも会えるし、優勝すれば確か王直属の聖騎士になって城にも出入自由になるんだよな。
しかし、このチラシこのタイミングのイベント発生、なんてご都合主義……ごほっ。
いや!何も言うまい、これが勇者効果!そうしとこう!
深く考えたほうの負けさ!
さてと、確かこのイベントは中盤であるはずだったよな。
俺は頭の中の必勝本を紐解いていく。
選択ミスが命取りだからな、いくら最高レベルでの最強勇者でもフラグミスでのバッドエンドからは逃げられない。
ここは慎重にだ。
確か、武道大会はレベルが50あれば楽々優勝できただよな、ここは問題ない。
次に大会に出るために街の武器屋で登録しないとダメなんだよなぁ
ここで寂れたジジィのいる武器屋で登録すると魔剣の情報がもらえて「帰らずの森」に取り行くって一連の連鎖イベントの始まりだったはずだ。
ふむ、ここで
俺は……
無難に申し込んでみよう。
俺は勇者だ、王に直訴してやる。