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武道大会は滞りなく始まっていた。

「それでは竜牙騎士団所属ベルト・クライン対、一般参加、の試合を始める」
審判の声におれは武器を無造作に構える。
「うおぉおおお」
俺の目の前で、いかにもと言った板金鎧に身を包んだ大柄な男がウォーハンマーを振り回して雄たけびをあげる。
「我輩は、竜牙騎士団の突撃隊長ベルト・クライン!貴様の様なひよっこ一撃で砕いてくれるわ」
たく、弱い奴ほどよく吼えるといったもんだ。
うわっ唾が飛んでくるよ。
「……きたねぇな」
「黙れ!いざ勝負!」
土煙をあげて地面をける屈強な戦士。
目は血走り、一撃必殺の戦槌は数多の生き血をすすってきたのか赤黒く汚れている。
「死ねぇええ」

「……しょ勝者、
「ど〜も」
俺はお気楽に手を振りながら闘技場を後にする。
しかし、少しやりすぎたかな。
ちらりと後ろを振り返るとそこには俺のオーバーキルぎみな一撃を受けて根元から真っ二つにされたウォーハンマーと小便を漏らして気絶する大男の姿があった。
まぁこの分なら楽勝だな。
俺の圧倒的な強さにようやく場内がどよめきだす。
くくく、決まったな、
俺は背中から聞こえる大歓声を受けながら、控え室に戻むかって歩き出していた。

それから……
「勝者、
素早さを武器にする軽装備の戦士の後ろに軽く回りこむとその首筋に手刀を叩き込む。

「勝者、
熟練らしい魔法使いの防御結界をやすやすと切り裂くと、召還されたデーモンを逆に操り襲い掛からせる。

「勝者、
正統派のロングソードをもった騎士の剣をへし折り、その首筋にやすやすと魔剣の切っ先を突きつける。

まさに連戦連勝。

『おおおぉおおぉおぉぉぉぉぉっ』
沸き起こる大歓声を聞きながら、俺は順当にトーナメントを駆け上がっていた。
まぁ当たり前といえば、当たり前だがな。
はっきりいってここら辺の奴らとは強さの桁が違う。
勿論、相手はむさいおっさんばかりではなかった。
「いくぞ」
そう言ってハルバードを構えて突撃をかけてくる元傭兵の女戦士。
頬に刀傷があるその大柄な戦士を俺はなんなくねじ伏せると、押し倒しついでにボリュームのあるヒップを触ったり
「参るぞ」
そう言って魔法でできた氷の鞭を振るう魔法戦士の美女のブレストプレートを弾き飛ばして、そのプチパイを拝んだりと役得もあるにはあったのだ。
まぁそうはいっても出てくる敵を順番に倒す単純作業だ。
俺はもう最後の方は、やる気もなくなり、開始の合図とともに無造作に剣を一振りするだけでバサバサと相手も確かめずぶったおしていた。
まぁ言うなればOKボタン連打状態って感じだろうか、もうナレーションの文なんて読んじゃいない。

そんなこんなで、いつの間に俺はトーナメントの頂上、決勝戦へと駒を進めていた。
長かったぁ、まぁこれに勝てばようやく王様にあえて通常の王道ルートになるわけだ。
たく、めんどくせ。
はぁっと大あくびをする俺に
「余裕だな、だが、私を甘く見ないほうがいいぞ」
そう言って対戦者が闘技場の上に上がってくる。
『うおおおぉおおぉ』
『バルザス様ぁ〜』
その途端会場中が湧き出した。
それもそのはず、俺の決勝の相手は、この国随一といわれる王直属の近衛騎士の紋章をつけた大男だったのだ。
細工の細かい意匠が彫られたごついフルプレートメイルに真っ赤なマント。
つるりと剃りあがった頭はピカピカと輝き、猛禽類のような瞳が俺を見据えている。
と言うらしいな、ここまで戦い見させていただいた、そうとうな腕前のようだがこのバルザス負けるわけにはいかん、お互い正々堂々戦おうではないか!」
腰の無骨な鞘からしゅっと引き抜かれた諸刃のバスタードソードは真っ赤な軌跡をかいて揺らめくオーラを放っている。
ふむ、太刀筋もなかなかだし、持っている武器もそこそこの魔法剣、そして何より……
暑苦しいほどの熱血な顔。
鎧に隠れて見えないが、その下の体もそうとうなモノなのは間違いないだろう。
うむ、これはある意味強敵だ!むさ苦しいという意味で!
「どうやら、俺も本気でやらねばならんようだな」
俺はニヤリと笑うとわきわきと両手を動かす。
うげ〜、こんな野郎と一秒だって一緒にいたくねぇ。
「ふっふざけるな貴様、剣を抜け、剣を」
真っ赤になって激昂して叫ぶ近衛騎士。
やれやれ、そうとうお堅い性格らしいな。
俺はしぶしぶ腰から剣をおざなりに抜くと、かちゃと構えてみる。
「くっこれだから礼儀を知らぬ者は嫌いなのだ、不潔で野蛮で……見ていてください我が王よ、私が必ずや、優勝してみせまそうぞ、王国万歳ぃいいいい」
正眼にバスタードソードを構えたまま、なぜか観客席の上段に設けられた貴賓席を見上げる号泣するバルザス。
「おい、あんた大丈夫か?」
「うっうるさい、いくぞ!」
涙だか鼻水だかわからない液体を近衛騎士は翻すと、そのクソ熱い性格には似合わずコンパクトな素早い振りで俺の剣を下から叩き上げようとする。
「ほうぅ」
さすがに決勝まで残っただけあって、踏み込みの間合いも剣速も見事だ。
普通の人間だったら、余裕で武器を手放しで首筋に手痛い一撃を食らっていただろう。
だが、すでにMAXレベル俺にとってその剣の軌道は蝶が止まるほど遅く見えていた。
ガキィン
鉄と鉄がぶつかりあい、鼻の奥がつんとするような汗臭い匂いが漂う。
「どっりゃああぁっ」
俺は裂ぱくの気合とともに繰り出されると剣戟を弾くと、やすやすと間合いをとる。
「ていやぁ、うおりゃぁ、ちぇすとぉおおお」
鋭く切り裂き、俺の急所めがけて襲いくる力の乗ったバスタードソード。
フェイントをからめた見事な連続攻撃も、力任せの必殺の突き。
だが、そのどれも俺の目の前で弾かれ叩き潰されていく。
やがて、バルザスは俺に対して打つ手がなくなったのか、クリンチするように鍔迫り合いにもってくる。
お互いの刃がギリギリとぶつかり火花が飛び散る。
「はぁはぁはぁ……やるな」
ぐいっとロングソードに力をこめて押し込んでくるバルザス。
「……うげぇ」
俺はというと、図らずもはその熱苦しい顔を間近で見せられ胃がムカムカしていた。
う〜〜げ〜、なんでこんなおっさんと組み合わないといけないんだ!。
しかも息が臭い!
げんなりとする俺とは対照的に、バルサスの顔はテカテカと油がのり、顎先からボタボタ汗を流れ落としながら、割れんばかりの大声をだす。
「やるなぁ!だがこれでどうだぁあああああ」
どうやら、バルサスはとっておきの奥の手をだすつもりらしい。
良かった、とっと離れてくれ。
「いくぞ!でやあああ」
野太い掛け声とともに、くるっとバルサスの巨体が回転すると俺の刃の力を逃がし、近衛騎士のマントをはためかせる。
瞬間俺の視界が、そのマントに覆われる。
それと同時に微かに聞こえる呪文の詠唱の声。
「今だ!貫け!我が熱い魂ぃいいい!根性火弾っ」
びゅっんと風を切る音ともに、目の前に広がるマントの裏から、魔力というより、なんだかむさ苦しい気合を込め熱球が矢のように次々と俺に向かって降り注ぐ。
何十と言う爆発音とともに身を切り裂く衝撃波が辺りを破壊する。
「まだまだ、食らえ!我が熱い叫びにこたえよぉぉおおお、英霊招来ぃいいい」
近衛騎士は追い討ちをかけるようにロングソードを天に掲げると、何だか死んだ祖先やら師匠やらが空に浮かび上がり「バルサスよフォースを信じよ」と言わんばかりに魔力を宿らせる。
「でやあぁぁ」
そして、渦巻く煙の中心に先祖伝来の熱い剣を振り下ろす。
空気が焦げるほどの熱風が闘技場を包み込む、床を補強していた耐熱レンガでさえ黒く変色しひび割れていく。
やがて、熱波と爆発音が収まると徐々に立ち込めていて土煙が収まっていた。
「はぁはぁはぁ……やっ…やったか」
おそらく持てる気合をすべて使いきるほどの大技だったのだろう、魔法を発動させた本人も力なくふらつきながらそれでもバスタードソードを構えている。
「残念だな」
びゅうっと一陣の突風が吹き、闘技場を覆っていた土煙が去ると、そこには先ほどとまったく同じ姿で立つ俺がいた。
「なっ……無傷か」
「そんなわけないだろ、見ろ、前髪が!」
そう言って指差す俺の先は、一本だけ髪が焦げていた。
「んがっ」
呆然と口を開いてこちらをみる騎士。
「そんだけだけど……何か?」
俺はバルザスの鼻の穴をおっぴろげた必死の姿に驚き、避けるのが少し遅れてしまったのだ。
まぁ直接あのクソむさ苦しい技を受けてなかっただけも良しとするか。
だいたいなんだよ、あの英霊招来は……よく見たらペットらしい犬とか家畜のロバとかも出ていたぞ。
「……」
闘技場を吹き抜ける乾いた風。
俺は頬を歪め胃をきりきり痛めながら、目の前の顎がはずれそうなほどショックを受けている大男を見る。
さて、どうするかな……こんなやつに相手に剣を振るうのもおっくうなら、魔法を唱えるのもめんどくさい。
俺が途方にくれていると……
「うむぅ〜〜、参りました」
がばっとバルサスがその場に這いつくばる。
うわっ降参、はやっ
「しょ…勝者、!よって本大会の優勝者は選手となります」
なんとも盛り上がらない武道大会はこうして幕を閉じた。


さてと、俺は……

まぁせっかく優勝したんだし、授与式にでるかな。
マジでもうやってられない、ゲームを終わらせるためにも魔王城に乗り込む。


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