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ある朝おきると、そこはゲームの世界だった。

そうそうめったにない展開だ。
しかも、目の前には見たこともない女が立っている。
「あなたは勇者の血筋なのですよ、さあ、お父様の形見を持って旅立つのです」
あらら、聞いたことある台詞だ。
どこにでもよくある出だしだ。
だがこのフレーズに俺は覚えがあった。
うーんと…そう、確か昨日パソコンでダウンロードした懐かしのRPGゲームの冒頭にそっくりだ。
確か、王道のコテコテ正統派RPGだ。
こまめなレベルアップ、様々な謎解き、勇者と魔王、それに様々な人間関係が混ざり合って物語に重厚さを持たせようとして、さりげに矛盾して失敗している奴だった。
まあ、古き良き定番ファンタジーゲームだ。
すいぶん昔にでたんだよなぁ。
ガキの頃はむちゃはまって何度も何度もクリアーしたもんだ。
友達と最短クリアーなんて競い合ったりして、今にして思えばコアな楽しみ方をしたもんだ。
なんて、なつかしい思い出に浸っている場合ではない。
目の前にはどう見ても日本人とは思えない緑色のカールした髪を揺らす美女が立っている。
すでに、頬をつねる、柱に頭をぶつける、人って字を手のひらに書いて飲み込む、タイガーバームを目蓋にすりこむ等の民間療法を用いた結果、これは夢でも幻でもなく、リアルな現実らしいことは判明していた。
理由としては……
確か昨晩、パソコンで例のゲームのエミュをみつけて喜んでダウンロードしてる時、雷が落ちた。
安直だが、それかもしれん。
いや、その後、まちがえてクリックしたナゾのメールウイルスのせいか?
いやいや、確かキーボードにコーヒーこぼしたし、駅前の奇妙な露天で買った不思議な石をモニターの上に置いた。
あ、去年の短冊にゲームのような面白い人生を送りたいって書いた。
それから、それから……
むう、思い出せるだけでも山のような前科が。
俺がむんむん唸ってると、女がまたいぶかしげに尋ねてくる。
「勇者よ、どうしたのですか?」
むむ、これもどこかで聞いたことのあるセリフ!
俺はまじまじと目の前の女を見る。
おお、寝起きで、ぼーっとして気がつかなかったが、けっこういい女じゃねえか。
俺を起こしにきたこのシュチュエーションから考えると、この美人熟女は勇者の母親、つまり俺の母なのか……
実際、ゲームの時はドットでできた人型だったのに、今では緑のカールした髪の美人さん、なかなかナイスプロポーションの熟女だ。
ぽっちゃりした肉厚の唇、手編みのセーターを盛り上げる大きな膨らみ、巻きスカートの腰はほっそりとし、尻が色っぽく曲線を描いている。
「勇者よ、どうしたのですか?」
その男好きのするぽっちゃりした唇が、また同じセリフを繰り返す!
「おおっ!」
思い出したぞこのセリフ!
これまた懐かしい!
そうそう、確かここで自分の名前を登録するんだ。
俺はキョロキョロ辺りを見回したが、何処にも五十音をかいた表は見当たらなかった。
そりゃそうだな。
しかたない名乗るとするか。
なんて名前にしよう……う〜んと、そうだ!
「……えーと、確か……だ!」
…これはこのクソゲームの中でも最高にバカらしい裏技だった。
なにせ、この名前でゲームをはじめると最初から最強レベル、アイテムコンプリート状態って最強最悪のチートなのだ。
「おお、勇者よ、さあ旅立つのです」
勇者の母親は、未だベッドで寝ている俺にむちゃくちゃいいやがる。
こっちはパジャマ姿だぞ……って布団の中をみると勇者定番のコスチュームを着ている。
しかもさっきまでが嘘のように、体に元気がみなぎってきている。
ついでに、あそこもビンビンだ。
ただの朝立ち?
いやこれこそが、レベルMAXの力だろう!
「さあ、これが父の形見、勇者の剣です」
そんな俺を無視して母親はにっこり笑うと、ストーリー通りにごてごて飾りのついた剣を俺の枕もとのカバンに詰め込みだす。
そうそう、全部の道具はカバンに入っているんだよな。
ちゃんと装備せずにモンスターと戦うとえらい目をみる。
「さあ、旅立つのです、まずは西の大神殿を訪ねるのです、そこで偉大なる……」
もう、待ったなしで物語がスタートしてる。
確か、この後、大神殿で聖母に出会い運命を示され、この国の王様に導かれるまま魔王と戦うのが大筋だ。
まあ色々なミニイベントやら、様々な人間ドラマがあるが。
そうだなぁ、せっかく、ゲームの中の世界にこれたんだ、普通ではできないことをしてやろう!


俺は……

ゲームと言えば、大冒険!さっそく西の大神殿に向かうぜ!
げげっ、なんで世のために働かなきゃならないんだよ、寝てよっ!
くくくくく、まずは目の前にいる美人妻をいただくとするか……
(C)MooLich 2001