そして武道大会当日がやってきた。
王都のはずれ馬鹿でかい巨石造りの闘技場がその舞台だった。
俺は屈強な戦士や重装甲の騎士どもがごったがえす中、闘技場の出場者専用の窓口へやってきていた。
「はい次の方…お名前をどうぞ」
俺はさっと横入りして、列の中ほどに入り要領良くごったがえす人の波をぬって窓口に立つ。
「はい次の方…お名前を…はい、さんね…申し込みの武具店、それに使用する武器を見せてください」
「ああ、これだ」
俺は王都一と自称していた大型店でもらった申し込み用紙と、平均的なダメージの期待できるそこそこな名刀を鞘から抜いて見せる。
「はい結構です…あれ?あの、あなた何処かでお会いしませんでした?」
名もなきNPCの受付嬢が予想外の台詞をしゃべる。
んん?
言われても、よくよく見ても、ただの受付嬢だ。
ゲームならドットでかかれたただのNPC。
もちろん俺がそんな判別もできない脇役キャラの顔なんて知る分けない。
もしかして逆ナン?
「おかしいなぁ…ねぇ何処かであってないかしら?」
「いや、俺は知らないが」
「う〜〜ん、何処かで…」
それでも受付嬢は納得いかないのか俺の顔を凝視しジロジロ眺める。
しまいには隣に座る同僚に確かめる始末だ。
「ねぇこの人見たことない?」
だから、俺はお前なんかしらんちゅ〜に。
「あら?わたしも会ったことあるような気がする」
なに?こいつもか?
すると
「あっ俺もなんとなく覚えが」
「…あたしも」
「拙者も」
何と俺の周りにいたサムライや女戦士、フリーの騎士達までもこちらを見て首をひねりだす。
「おいおい、何だよお前ら、俺の顔がそんなに…あぁ!」
そこで俺はようやく気がついた。
窓口の後ろ、巨大なホールの中央にそびえる巨大な石像。
全身をフルプレートで覆い長大な剣を天にむかって掲げる男性の像だ。
その頬当てが上がった兜の中から覗くのは……俺にそっくり、まさしく瓜二つだった。
よくよく見ればその像の台座には武道大会第一回優勝「勇者の像」とある。
う〜〜む忘れてた。
そういや、設定で先代勇者も若い頃この武道大会でてたんだよな。
しかし、あれはまさしく俺の顔…鎧を着て兜をかぶっているから分かりづらいが毎日鏡で見る顔だ。
確か先代勇者(俺の父)はゲーム上では名前もでてこなかったからな…
顔すら決まってないのは当然だろう。
その時、隣にいた軽戦士風の女剣士があっと口をおさえる。
「あ…あなた…いえ、あなた様はもしかして……ゆっ勇者様じゃ」
「何だって?」
「勇者?」
「おられるのか?あのお方がここに?」
途端に周りがざわめき出す。
「そう言えば西の大聖堂を襲った邪龍が倒されたと聞いたぞ」
「うむ、勇者様が再び現れたに違いない」
あたりは、噂が噂を呼びちょっとしたパニック状態になりだした。
「どうした!何事だ!」
闘技場の奥から警備だろう鎧をきて槍をもった兵士達がこちらに向かって走ってきている。
俺は……
いかにも俺が勇者だ!と宣言する
もう受付はすんだんだ、マントで顔を隠しその場を去る