既に形ばかりとなった妻との行為を終え、汗ばんだ体をベッドに横たえていると妻の晴子がシャワーを終えて戻ってきた。

 タオルを巻き付けただけの風呂上りの肌は僅かに上気し、仄かな石鹸の香りを放っている。

 妻は一人子供を生んで結婚当初の肉体ではなくなっていた。

 手折れそうな細身の肢体はたっぷりと腰周りに肉が付いて不恰好に見えるが、それでも夫婦生活に支障を来すほど崩れていない。

 逆に今の方が痩せぎすだった以前よりも抱き心地が良くなっているように感じる。

 しかし…

「最近マンネリだわ…」

 化粧台の前に座り、髪を漉く妻の口に何気なく上った言葉は夫婦共通の思いを代弁する。

「ああ…」

 夫婦生活は良好だった。

 私との行為で妻は感じていない訳でもない。

 先ほども隣室に眠る娘に聞こえるのではないかと心配するほど大きな喘声を上げ、私の体にしがみ付いて一瞬気を失ったかと思うほどの激しいアクメを感じていた。

 私も何度も妻を抱いたが、飽きた訳ではない。

 何度も挑み掛かり、精液を含んだコンドームもゴミ箱に三つを数える。だが、最近妻が言うように何か単調で物足りない。

 互いに知り過ぎた所為か刺激が希薄に感じられるのだ。

 妻もそれを感じての言葉だろう。

「ねえ…アナタ」

「ん?」

 妻はバスタオルを外し、もう一度全裸で私の体に圧し掛かり、潤んだ瞳で切り出した。

「スワッピングって…興味ない?」

 妻は言うと言葉に反応して僅かにエレクトした私のペニスを掴んで躊躇いも無く口に含んだ。

 フェラチオをしながらの上目遣いが無言で私に是非を問い掛ける。

「………」

 妻にペニスをしゃぶらせながら、私はその夫婦の倫理観を突き崩すような提案を無言の内に受け止めていた…



 『交姦』



「じゃあ…行ってくる」

「あっ…待って、アナタ」

 出社前に声を掛けると朝のメールをチェックしていた妻が頬を紅潮させて私を呼び止める。

「今日は帰りは遅いの?」

「いや…無理をすれば定時で帰れると思う」

 忙しい時期が続いたが、最近は仕事も谷間に入ってさほど忙しくも無い。

 今まで上司の無理を聞き続けたのだからそれ位は許されるだろう。

「良かった…ネットで勧誘していた夫婦がご近所らしいの。だから…ね?」

 『分かるでしょう?』と、目で了解を求める妻。

 以前から話していた『スワッピング』に関する事らしい。 

 出勤間際の忙しい時間に呼び止めたのは娘に聞かれたくなかったからだろう。

「…分かった。じゃあ、行ってくる」

「行ってらっしゃい!」

 軽く手を上げて私を見送る妻…太股をもじもじとすり合わせている様子は彼女の股座が今ひどく濡れてしまっていることを想像させた。

 彼女ほど関心の無かった私は晩に行われる淫らな行為に捉われることなくその日を過ごす。

 そのスワッピングの相手が自分にとってどんな存在であるかも知らずに…


 
 今日が結婚記念日だということを私は待ち合わせた喫茶店で妻に教えられるまですっかり忘れていた。

 妻は少し膨れたが、注文のデザートが来るとすぐに機嫌を取り戻す。

「ん〜っ、来た、来た!」

「……!?」

(何だ、この…『山』は?)

 クリームとフルーツがうず高く積まれたスペシャル・パフェが妻により見る間になくなっていく。

 太ったのは子供を生んだせいばかりではない…のかもしれない。

 娘には記念日に二人で食事すると言って出て来ている。

 妻の愚痴を聞きながら僅かな時間を過ごすと顎鬚を蓄えた壮年の男が声を掛けてきた。

「あの…『あんぎらす妻』さんですか?」

「は、はい!そうです!貴方が『やぷーる』さん?」

 妻は挨拶をしながらその男を頭の先から足の先までジロジロと検分していく。

 窘めるべきなのだろうが、それも仕方ない事だろうと思い直す。

 何しろ今夜、妻はこの男と肉体関係を持つのだから。

 男の方もその妻の無遠慮な視線を受けながらもにこやかな表情を崩さない。

 大分こういう集まりに慣れているように見受けられた。

 しかし…

(…あんぎらす?)

 私は男の仕草を確認しながらも妻の言葉に眉を顰めていた。

 特撮怪獣の名前なのだろうが、言い得て妙なハンドル・ネームだったからだ。アンギラスと聞いて喧嘩した時の妻を思い出し、違和感を覚えなかった。 

 『それも少し問題だな…』と苦笑すると男の背後に隠れるようにして彼の妻と思しき女性の姿が目に入る。

 美形だった。黒い艶やかな髪をアップに纏め、縁無しの眼鏡を掛けている所為か、知的な印象を受ける。

 ピッチリとしたスーツを着こなす姿は上流の匂いを漂わせ、とても『スワッピング』を了解するような女に見えなかった。

 髭面の男は私の視線に気付くとそれに応えるように彼女を前に立たせ、紹介する。

「妻です」

「どうも今晩はよろし…く?」

 一度は頭を下げた女だったが、彼女は私の顔を見ると目を見開きひどく動揺した様子で唇をわなわなと震わせた。

 私は…彼女を知っていた。

 遠き日、僅かばかりのしこりを心に残した相手…

「安浦君?」

「久し振り、片桐さん」

 旧姓・片桐由美、中学の時の同級生。

 私の…初めての女だった。 



 中学時代の同級生…妻にも彼女の夫である髭面の男・城嶋にもそれ以上の話はしなかった。

 喫茶店を出て軽く食事を摂ると私たちは城嶋が予約していたホテルへと向かった。

 本当は他に二組の夫婦を伴っての乱交スワップ・パーティーだったそうだが、その二組に相次いでキャンセルされて困っていたところを妻が入り込んだらしい。

 見ただけで高級そうなホテルに宿代は如何するのかと思っていると向こうの方から声を掛けてきた。

「済みませんが、ホテル代は折半って言うことでお願いします。私も会社に使われるサラリーマンなんで懐具合が寂しいんですよ…」

 城嶋はその大柄な体を丸めて私に耳打ちした。

「当然でしょう。で…金額は如何ほど?」

「□0,000でして…」

「□0,000っ!?うっ…大分張り込みましたね?」

 私はその金額に目が飛び出そうだった。

 面喰らった私の耳に妻の嬉々とした声が届く。

「素敵なお部屋ですね〜!?」

「ええ…本当に…」

 元々人懐っこい妻は僅かの間に相手の奥さんと仲良くなって和気藹々と部屋の装置をあれこれ動かしている。

 これも男の甲斐性か…妻の目を輝かす姿を見てその金額を聞かせるのも忍びない。

(営業の賞与を貯めた臍繰りを使うか…しかしなぁ)

 車検の事などが頭を掠める。顔を曇らせる私に城嶋は心底申し訳なさそうに言葉を続けた。

「もう一組来る筈だったんです…でも、離婚しちゃって」

「離婚?」

「相手の奥さんとデキちゃったんですよ」

「ははぁ…そりゃまた」

 『そういう事もあるだろうな…』と、冷静に割り切っている自分に気付く。

 妻を愛していない訳ではない。だが、それほど執着もしていない。

 私は友情や愛情等の情が薄い性質だった。

 妻がもしこの男と逃げたとしても私は何も感じないだろう。

 そう…あの時もそうだったのだから…

「じゃあ、如何します?服、脱いじゃいますか?」

 城嶋は仕切り屋らしく大胆な提案をした。

 こういう場を仕切る男が居ると段取り下手な私の方は助かる。

 すると妻がおずおずと手を上げてその提案に返した。

「あの…私、先にシャワー浴びたいんですけど…」

「じゃあ一緒に入りましょう。相手を知るスキンシップには最適ですから…」

 城嶋のあっけらかんとした提案に妻は面食らった様子だったが、此処まで来て拒否する理由も無い。

 妻はチロリと私の方を見て意見を求めてくる。

「…行っておいで」

 私の言葉を後押しにして妻は決心すると城嶋と一緒にバス・ルームに連れ立って歩いていく。

 妻の肩に馴れ馴れしく手を回す城嶋を見ても、やはり何も…感じなかった。

「本当に久し振りね…安浦君」

「ああ…」

 二人っきりになると城嶋夫人、いや、由美は身の置き所ない様子で俺に話し掛けてきた。

「………」

「………」

 それっきり無言になる二人。

 相手を見詰める視線が交錯する。

 由美は私の視線を受け止めて暫し表情を無くした後、みるみる憤怒の表情を浮かべると私に向かって言葉を叩き付けた。

「私っ、あの時も言ったわよねぇっ!そんな風に“物”を見るような目で私を見ないでって!?」

 確かに彼女はあの時私にそう言った。

 憶えている…

『私をそんな“物”を見るような目で見ないでよ!』

 それとこうも言った。

『不気味なのよ!そんな恐い眼で私を見ないで!』

 彼女との関係はさほど深くない。

 私は後に落ち零れたが、その当時は所謂有名私立に在籍していた。

 彼女の父親は大手商社の経営者であり、大切に育てられた彼女はお嬢様然として近寄り難い雰囲気があった。実際、取り巻きを多く引き連れた彼女は近寄る事すら難しかったと思う。

 二人の関係が交錯したのはほんの僅かな期間だけ。 

 彼女が自棄になっていた一時期に私が近くに居て、なし崩しに一度きりの関係を結んだだけのことだ。それが互いに初めての行為だったとしても…

 悪くない初体験だった。だが、行為を終えた後彼女がそう言った。

 普段周囲から羨望や愛情を注がれる彼女にとって私の何の感情も映らない空虚な瞳は不気味な物以外なかっただろう。淡白な態度は嘲りにも感じられたかもしれない。

 しかし、それも仕方が無い。初体験の感慨も彼女に対する愛情も私には無かったのだから…

「慰める男の選択を誤ったんだ」

「…そうね」

 ゴシップに興味が無かった私は知りもしなかったが、彼女はその時既に高嶺の花ではなくなっていたらしい。

 全てを失った彼女が求めていたのは不安から逃れる安息の場としての男と慰めの優しい瞳だったのだ。

 多額の負債を抱えて父親が経営する会社が倒産し、彼女はその行為の後すぐ逃げるように学校を去っていった。

 その時、私の胸には一瞬僅かな寂寥感が過ったが、その後の私の感情や行動に何ら影響を及ぼす物ではない。

 何も感じず、彼女の事など会うまでスッカリ頭から消えていた。
 
『アッ!ア〜ン!ア〜ン!』

 二人の沈黙を破るように妻の甘い喘ぎ声が浴室から聞こえてきた。

「いいの?城嶋はああ見えてもスケコマシよ。奥さん、骨抜きにされちゃうかも…」

「いいさ…こっちも割り切ってセックスしよう」

 私はそう言うと彼女の体をベッドに突き倒した。

「城嶋とは水商売をやっている時に知り合ったの…」

「そうか…」

 首筋に舌を這わせながら私は彼女の独白に似た言葉を聞いた。

 彼女がコレまでどんな人生を歩んで来たかなど興味が無かった私はそれを聞き流した。しかし、それが由美の気に触ったらしい。

「ハァ…ン。自分で脱ぐからどいてよ…」

 私の体を僅かに押し退けると不機嫌そうに自ら服を脱いだ。

 由美は甘い声を上げながらも頑なな態度を取り続ける。

 服を脱ぎ全裸になると梓はベッドにその身を沈め、股を大きく開いて足を抱えた。

 其処は既に恥しいほどの水気を湛えていた。

 股間を丸出しにしながら彼女は私から顔を背けている。

「子供…産んだんだな」

 たっぷりと肉の付いた豊満な肉体は自然に熟れた印象が強く、妻の晴子とは違い、絞るような括れが残っている。しかし、子供を生んだ体であることは感じられた。

「…二人産んだわ」

 彼女の答えを聞きながら私は彼女の体に覆い被さった。

 そのまま体重を掛けてペニスを挿入していく。

「アッ!アウッ…お、大きい」

「う…」

 私は由美の膣内の熱さに思わず呻きを洩らす。

 由美の肉体は二人も子供を生んだとは思えないほど素晴らしいものだった。私は我を忘れそうになるのを自制しつつ、腰を激しく突き動かす。

「アッ、アゥッ、アッ、アッ!アッ!」

 昂ぶってたのは私だけではなかった。由美もまた昔の男を受け入れる事に興奮して悶え出す。

「おや、もう始められているんですか?」

 背後からの声に振り返ると城嶋が全裸の晴子を伴いニヤニヤと口元をいやらしく歪めて此方の様子を窺っていた。

 晴子は風呂場で散々嬲られた所為か頬を紅潮させ、うっとりと城嶋の胸に体を預けている。

「では、こちらも…」

 此方の熱に中てられたのか城嶋も息荒く晴子の体をベッドにうつ伏せに寝かせるとそのまま尻をを抱えて背後から侵入していった。

「アハッアァン!アァン!アァン!」

 パァンッ!パァンッ!と、小気味良い音を鳴り響かせながら城嶋は荒々しい腰使いで妻を蹂躙していく。

 晴子もそれに合わせて熱い吐息を含んだ喘声を上げる。

 私もそれに導かれるように腰を激しく打ち振るい由美を追い詰めていく。

「アッ!アッ!嫌っ、これイヤァッ、大きい!大き過ぎるぅぅぅっ!?」

 由美は欲望に膨れ上がった私の巨根に堪らず悲鳴を上げる。

 それを聞いた晴子が目を潤ませながら由美に声を掛ける。

「ね?ね?大きいでしょ…ウチの人のおちん●ん。淡白なくせにいっぱい…いっぱい感じちゃうのぉっ!?」

「すごぉい!すごぉい!」

 女達の嬌声が高まっていく様子に城嶋は晴子を貫きながら軽口を叩く。
 
「いやぁ、安浦さん、凄いですねぇ。僕…自信なくしちゃうなぁ」

 彼の声に僅かな嫉妬の色が混じっているのが感じられる。

 それをフォローしたのは妻の晴子だ。

「城嶋さんのもイイわぁ…あの人はこんなに乱暴にしてくれないもの」

「乱暴にされたいんですね、奥さん?」

「そう…そうよ。もっと激しくぅっ!」

 晴子の言葉に城嶋は狂ったように挑み掛かっていく。

「あ、アナタ…見てぇ!私を見てっ!」

「晴子…」

 悶え苦しむ自分の妻を見て興奮はすれども私の心に嫉妬の感情は浮ばない。

 多分私の瞳には欲望の色は無いだろう。

 何も映さないガラス玉のような瞳。

「そう…その目が好き。何も感情の無い、私を蔑むような視線がゾクゾクしちゃう」

「目?蔑むような…視線…」

 由美は目の前で繰り広げられる晴子の媚態に圧倒されている。そして、私に貫かれながら妻の言葉を何か心に思い当る様子で反芻していた。

「ああっ、あなたぁっ、好きぃ、すきよぉ。アナタぁ…」

 他人に犯されながらも私に愛を囁く妻…

 空虚な私を嫌った女と愛する女…

 妻の晴子とは見合い結婚だった。

 見合いはさほど盛り上がりを見せなかったが、晴子の叔母が妙に乗り気で半ば強引に結婚したようなものだ。

 私が寡黙な分余計に喋る帰来があるが、家での彼女は万事おとなしめで、スワッピングを提案した時も僅かな驚きを感じざる得なかった。

 夫婦交換の場で妻の隠された性癖が曝き出される。

 妻は…マゾヒストだったのだ。

 私は城嶋と同じく後背位に変化し、由美を晴子と向き合わせと互いのカップルが線対象になる。

「あっ…お、奥さん?んっ…チュッ、チュパ…」

「は、晴子さん…チュッ、チュル…んん…」

 すると女たちは一瞬見つめ合ったかと思うと互いに貫かれたままで頬寄せ、両手を絡めて唇を貪り始めた。

 妻達のレズ・プレイに二人の男達は興奮で体が熱くなる。

「あぁんっ!いいっ、イイッ!」

「奥さぁん!おくさぁんっ!…う、うおっ!?締まるぅぅぅっ!」

「アアッ…駄目ッ、まだダメェェェッ!?」

 アブノーマルなセックスに余程感じたのか妻は私との行為では見せた事の無い痴呆のようなだらしない顔を見せ、善がり狂う。

「だ、だめだぁぁぁ…うっ!うっ!」

 城嶋は妻の締まりに負けてもう中で果ててしまったようだ。

「ああっ、安浦く…やすうらさぁん!」

「晴子…由美…」

 私の前で他の男に犯される妻を見、そして今尻を抱えて犯しているのは童貞を捨てた女…私の興奮は嫌が上でも高まっていく。

 普段では考えられないほど熱を持ったペニスは由美の膣内で容積を大きく増し、エラを広げた亀頭部が彼女の膣璧をゴリゴリと擦り上げる。

「ヒィッ、すごぉっ…すごぉい!あっ…アッ!アァァァッ!?」

「おっ…おおぉっ!」 

 私の頭の中は真っ白に塗り変わる。何時しか私は由美の中で果てていた。

 その後、相手を何度も替えて交換セックスを楽しんだが、夫である城嶋を相手にする時の由美の反応は何故か鈍かった。

 一夜を明かした私たちがホテルを出た時、由美は欲情に潤んだ瞳で私の目を見詰め…

「そう…そうだったのね…」

 由美は何かに納得した様子でそう言うと、私に歩み寄ってしなだれ掛かり、晴子や城嶋が見ているのも憚らず私にネットリと別れのキスをした…



 その後…城嶋夫妻からの再三の誘いがあったが、私と妻はその誘いに乗ることは無かった。

 確かに夫婦交姦は衝撃的であったし、興奮もしたがその発端である夫婦生活のマンネリ化がなんとなく解消されてしまい、別に必要を感じなくなっていたからだ。

 妻が言うには私で正解だった事が確認できて良かったそうだ。

 私も少しばかり妻に対しての関心も増した気がする。だが、夜、求められる回数が極端に増えたし、行為中の喘声が辺り憚る事無く大きくなった事には大分辟易している。

 困った事に最近○学6年生の娘が私たちの行為を影から覗きに来るのだ。

 妻もそれが分かって興奮しているようで一層激しく行為に没頭する。

 果ては鞭や縄・ディルドーを何時の間にか購入し、それを使用して蔑みの言葉を言うように強要する有様で、娘も覗きがバレているのを知りながら公然と自慰をし始めている。

 愛娘のかわいらしい喘ぎ声が聞こえてくると私もつい興奮してしまう。

 娘を寝所に招き入れるのも時間の問題のように思われた…

 そんなある日。

「じゃあ…行ってくる」

 夜の生活が増えてから朝、妻が中々起きなくなった。

 娘も毎夜の覗きで寝不足の所為か遅刻が多いようだ。

(満足はさせているつもりだがな…)

 妻に対する僅かばかり感じるむなしさに溜息を吐いて玄関を出ると一人の女が門扉に寄りかかるように待っていた。

 その女は…

「由美…」

「安浦…さん」

 彼女の様子は熱に浮かされたように…いや、何かに取り憑かれたかのように不安定に見えた。

 ただ立っているだけでも足元がおぼつかず、フルフラと今にも倒れそうだ。

 何かひどく興奮した様子でその美貌を真っ赤に紅潮させ、まるで情事の後のように荒い息を吐いている。

 由美は潤んだ瞳を私に向けると固く閉じていたコートの前身ごろを大きく開いて見せた。

「ほ、欲しいの。抱いて…アナタの事が…あなたの“目”が忘れられないのぉ…」

 コートの下に何ら衣服を着けていなかった。

 股間には何か蠢く物が埋め込まれ、太股にはその股座から溢れ出た愛液がしととに伝う。それはさながら痴女の風情だった。

 私たち夫婦の間にそれなりに悪影響を与えた夫婦交姦の行為であったが、相手方の夫婦にはより強い変化を与えたようだ。

 出勤・通学で人通りが多くなる時間を前に私はこの事態を如何するか冷静に考えていた。

(抱いてやるべきか?事の発端は晴子の提案だから家に招き入れても文句は言うまいし…)

「おねがぁい…抱いてぇ」

 涙を浮かべて性交を懇願する美貌の牝犬…

 壊れゆく女に前にしても私は己の感情が驚くほど醒めていくのを感じていた。電車の時間ばかりが気になる。もう直ぐ娘も出てくるだろう。

(さて…どうする?)

 私は何も感じない空っぽな自分に問い掛けた…



(終)



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