ドレアム戦記

第一編 玄白胎動編 第13話

 大地の神殿は活気を取り戻していた。魔界12将の一人、淫魔(しかし、ただ一人を除いてレイリア姫が元凶と思われていた)によって荒れ果てた神殿と人々の心が少しずつ回復し、ようやく元の神殿の姿に帰りつつあった。
 加えて、レイリア姫がいつの間にかいなくなったことも、神殿に暮らす人々に安息という感情をもたらしていた。本来ならば、ウエストゴールド王家から預かった姫の行方がわからなくなったのだから大問題と言ってもおかしくない状況ではあったが、それすらも凌ぐほど安堵感、即ちレイリア姫がもたらした(と思われている)神殿の荒淫という災厄が過ぎ去ったという感情が人々の気持ちの中で大きなウエイトを占めていたのである。ましてや、レイリアはその中心人物そのもので、彼女の姿を神殿で見るだけで何らかの負の感情を持ってしまう人々達がいたのも事実であり、その姿が神殿から消えたということでほっとした気持ちを持ったものこそあれ、レイリアの身を案じて心配するものは皆無であった。
 大神官ロダンは、レイリアがジロー達と行動を共にしていることを知っている数少ない人物の一人であった。神殿を離れる前にジロー達から出立の挨拶を受け、レイリア姫も同道することを知らされたのである。ジローの話によれば、レイリアの心の病を治療するためには、神殿の外に出る必要があるとのことだった。ジロー達の正体は良くわからないが、命の恩人でもあり、ロダンの『心触』の力で確認したところジローの言うことに嘘は無く信用に値すると判断できた。故に、レイリア姫を託すことを承諾したのである。
ロダンは、レイリア姫は神殿の奥で慎ましやかに日々を送っているということにし、レイリアがウエストゴールド王家の姫だと知っている上級神官に口裏を合わせるように指示した。そして、彼らを淫魔から救ったジロー達のことは、敢えて知らなかったことにした。
「今は、神殿の復旧に力をかける時じゃ。姫のことで万が一追求されれば、私が一切の責めを受けるつもりじゃ。皆もそのように思うように」
 ロダンの言葉を畏まって聞いていた上級神官達に混ざって、一人の少女がいた。胸まで伸びた草色の髪は両肩に分けて肩先で銀色の髪留めで結び、その先がばらけ無いように髪の先端も同色の髪留めで結んである。憂いのある空色の瞳を伏せ目がちに、他の神官たちと同様に頭を垂れて大神官に敬意を表している。
 しかし、その心は揺れていた。
 少女の名はイェスイ。淫魔に対して最後まで抵抗し、意思を守り通した神官見習い。彼女はレイリアの身の回りを世話する侍女としてレイリアの正体を知っているが故に、ロダンに呼ばれ広間の隅で聞いていたのである。だが、そこにいる人々とはひとつだけ違っていた。この中でイェスイだけが本当のことを知っている。淫魔の存在、そして淫魔に乗っ取られていたレイリア姫の事。レイリア姫には何の罪もなく、姫自身も被害者だという事を。しかし、イェスイの言葉は誰も信じてくれなかった。いや、誰も信じようとはしてくれなかった。
<レイリア様・・・>

 イェスイは礼拝の時間を終わらせると、神殿の奥に歩いていた。ほんの数日前まで、レイリア姫と神殿を救ってくれたジロー達が居住していた一画に。何故、そこに向かったのかは判らないが、更に奥に進んで塔への階段を昇り、気がつくと封印の間の扉の前に立っていた。
 封印の間は、ジロー達が封印を解除してからは誰でも入れるようになっていた。故に、ジロー達がいなくなってからは神官の学者達が室内を物色したため、室内はがらんとしていた。大地の腕輪が置いてあった台座まで持っていかれていたのだから、壁以外にはなにもないと言っていい。
 イェスイは、封印の間の中央に立った。そこは、大地の腕輪の台座があった場所だが、いまは何もない。そのまま、空色の瞳で部屋を見回す。窓のない室内は薄暗く、蝋燭の明かりだけがイェスイの影を壁に映している。
 と。
 イェスイは何かに導かれるように壁に向かって歩き出した。その方向だけ指2本分壁が凹んでいた。その窪みの奥に指を這わすと、僅かに指が入りそうな穴があった。イェスイは少しためらったが、その穴に指を入れる。
カチッ。
 同時に目の前に空間が開いた。下へと続く階段。イェスイは迷わず降りて行く。背後で隠し扉が音もなく閉じるが、動じることもなく一歩一歩、階段を下る。まるで夢遊病の様に。そして、暫く。霧がかかったようなイェスイの意識が不意に明確に戻った。
<えっ!?ここは、どこ・・・?>
 気がつくとイェスイは洞窟の中で倒れていた。礼拝堂に入ったのは覚えている。そこでレイリア姫の無事を祈ったのだ。しかし、その後の記憶が消しゴムで消されたように消えている。
<わ、私は・・・、何故こんなところに・・・>
 あたりを見廻すが、岩肌がほんのり光っているだけ。どうやら岩自体が薄っすらと光を発しているようだ。
<わぁ・・・、綺麗・・・>
 一瞬その景色に心を奪われたイェスイだが、直ぐに現実に戻った。これからどうすべきか思案する。
<と、とにかく進むしか・・・>
 イェスイは心に決めると、洞窟を進み始めた。そして暫く行くと、岩の発光ではない別の明かりが見えた。外の明かりが。
 もうすぐ出られるという気持ちがイェスイの背中を押し、洞窟の出口に着くまでさほど時間はかからなかった。しかし、そこで見たものは彼女の心を萎えさせた。
<え、つ、吊り橋・・・。た、高いところ、苦手なのに・・・>
 だが、他に道がないのも事実であった。元来た洞窟を戻るという選択肢もあったが、それを選ぶ気はしなかった。仕方なく、イェスイは吊り橋の手すりに手を掛け、ゆっくりと一歩を踏み出していった。
 暫く進み、洞窟が見えなくなった頃にそれは起こった。
「えっ?き、きゃああぁぁぁぁぁぁ・・・」
 急激な上昇気流がイェスイを襲い、手すりを掴んでいた手はあっという間に手すりを外された。そして、そのまま身体が宙に浮かんで飛ばされていることを知覚し、イェスイの意識は失われた。

 次にイェスイが目覚めたのは冷たい床の上だった。
 薄暗い苔むした岩の壁に囲まれた一室。イェスイの目に最初に入ったのは少し緑がかった天井だった。光苔なのだろうか、薄っすらと光を発するそれは天空にかかる銀河のようにも見え、まだ事情のわからない感情のみに支配されたイェスイの心に直接降り注いでいた。
<きれい・・・>
 しかし、その感傷に浸っていたのも僅かの間。彼女の意識は別のものに向けられることとなる。そのきっかけは、声だった。揺るぎない精神を持った女性の声が、直接イェスイの頭の中に響く。
<貴女を待っていました・・・>
 突然の問いかけに、イェスイは正気を取り戻し、辺りを見廻した。
<イェスイ・・・。私の姉と同じ名を持った転生の者よ・・・>
 イェスイは身体を起こして辺りを見廻す。
「だ、誰?・・・」
<私はイェスゲン。そして、貴女自身。貴女の心の奥底にあるもう一人のあなた・・・>
「え、な、何を言って・・・」
<混乱しているのは仕方ないですね。でも、聞いてください。私は貴女の中で眠っていました。私の血を継いだ一族の中で延々と。そう、貴女の母上の中でも。そうして長い年月を経ました。一度も目覚めることが無く。そして、今、私は貴女の中で目覚めました。その意味は、私に課せられた役目を果たす時が来たということ。私は、私の役割を果たしましょう・・・>
「え、あ、ま、待ってください・・・。と、突然そんなこと言われても・・・」
 イェスイは、困惑していた。心の中に響いてくる声には何故か親近感がある。しかし、だからといって・・・。
<イェスイ。貴女が混乱しているのはわかります。でも同時に賢い貴女が知るということに貪欲なことも。神殿に仕えたのも知識欲を満たしたいという欲求に駆られたからですね。私なら貴女のその欲望を満たしてあげることができます。私の血を引くものよ。貴女が必要とする答えは全て用意してあります。さあ、杖を取りなさい>
 イェスイは声に導かれるまま顔を横に向けた。その先には1本の杖が床に刺さっていた。一見古そうな木の杖で、上部には緑色の宝玉が据え付けられていた。
 心に響く声を本当に信じていいのか戸惑ってはいたが、それ以上に、イェスイの気持ちの中で知識に対する欲求には勝てなかった。
「あれを、取ればいいのね・・・」
 イェスイは身体を起こし立ち上がると、杖に向かって歩き始めた。そして、杖の元にたどり着き、躊躇いながら杖を掴んだ。
 部屋の中を閃光が走ったのはその瞬間だった。

 ジローと5人の愛嬢達は雪原の中を歩いていた。
 風の神殿で情報を得た白虎の神殿への回廊を進んでいるのだ。ジローの横にはレイリア。流れるような金色の髪に白金色の髪飾りが映え、その髪飾りが淡く光を発している。そう、風の神殿で入手した封印の装具、風の髪飾りである。
 ジローがシルフィードと契約を交わした後、装具である風の髪飾りは必然的にレイリアのものとなった。まあ、瓜二つの石像に装着されていたものでもあり、誰もが当然と納得した結果である。
 風の髪飾りは、どうやら風の魔法をもたらす装具でもあるらしく、魔法など全く使えなかった筈のレイリアが、風の初級魔法である『風壁』や『風刃』を操ることができたのである。そして、このことできっかけを得たレイリアは、本来あった血脈に潜んでいた素質を開花させた。ウエストゴールド王家は金性の血脈、即ち風の魔法を操る能力に適していたのである。
 風の神殿で見つけたものは、もう一つ。白虎の神殿への手懸りである。神殿から更に北へ続く山岳の回廊を進むとその先にあるらしい。しかし、ここで問題が。草原の中に佇む風の神殿は快適な環境であったが、神殿の結界から一歩北に出ると、そこから先は真冬の極寒地。ブリザードが荒れ狂う雪と氷に閉ざされた山岳地帯、白い牙の大地が待っていた。
しかし、ここで風の髪飾りの力が発揮された。レイリアの髪飾りが太陽の輝きを発した瞬間、凶暴なブリザードが消滅し、回廊の雪原に一筋の道が走った。辺りの温度も少し肌寒い程度。これなら進める。
ジロー達は風の神殿に備え付けてあった防寒装備一式を持ち、明るい内は進み、夕暮れには夜営の準備を行うという着実な行程を選んだ。幸い、自然の猛威のおかげで襲ってくる猛獣の姿はなく、無理な行軍を行なう必要がなかったのだ。
野営は、テントが3張り、寝袋が3つ。風の神殿で準備をしているときに、極寒の地で暖を取るには人肌で暖めあうのが一番とアイラが言い出し、2人が入れる大きさの寝袋を持って行くことになったのだ。その分荷物も減って都合はよかったのだが。そんなわけで6人は2人づつのペアで寝ることにした。もちろん、皆がジローと組みたいのはわかっていたので、ペアは毎日交代することとした。ちゃっかり最初にジローとペアを組んだのはアイラだったが。
最初の夜。アイラはジローと同じ寝袋の中でジローの肌を感じていた。手と手、足と足を絡ませ、濃厚な口づけを交わす。
「ねえ、ジロー。こうしているとセロでのことを思い出すね」
「ああ、こっちに来て何もわからない、得体も知れない風来坊を受け入れてくれて、いろいろ世話になったな・・・」
「何云ってんの・・・。ふふ、でも、初めての夜、思い出すわぁ・・・。ジローの瞳を見たら、何かむらむらって来て、そのまま抱かれて、後は夢中になっちゃったのよね」
「ああ、前にも話したけど、『淫惑』って云う俺の力らしい」
「そうね・・・。でも、その力に頼らなくても、ジローに抱かれたと思うな。そして夢中になって。早いか遅いかの違いよ」
 アイラはそう言ってキスをした。
「でも、その後で、ルナちゃん、ミスズ、ユキナ、で今度はレイリア。皆夢中にさせちゃうなんて、あたしの男を見る眼も確かよね、ふふふ・・・」
「悪いな、誰か一人と云われても、選べない・・・」
「ばかね。誰かを選べなんて言って無いの。ジローだったら皆を同じように愛していけるって知っているもの。皆、そんなジローが大好きで、誰も一番になろう何て思っていないから安心して」
「ありがとう、アイラ」
「どういたしまして。それよりジロー。うふふ、後、何人増えるかな・・・、あたしの勘だと3人くらいはいきそうなんだけど・・・」
 そう言ってアイラはにやっと笑った。そして再びディープキスし、右手でジローの肉棒を掴む。ジローも直ぐにアイラの股間に手を伸ばした。その手がアイラの秘部を弄ると、直ぐに反応したアイラの膣内から愛液が滴り、ジローを迎える準備万端となる。
アイラの右手はジローの分身をいとおしげに撫でる。張りのある乳房とその先でこりこりに堅くなった乳首がジローの分厚い胸に押し付けられる。
「ね、来て・・・」
 アイラの甘い声にジローは頷き、腰の角度を調整してアイラに挿入した。
「あっ、あぁん・・・」
 入れただけで軽くいってしまったアイラ。が、そのままジローが動き始めると、更なる快感が身体じゅうを駆け巡った。アイラの声がテントの外まで漏れる。しかし、その頃になると他のテントでも甘い淫靡な饗宴の声が漏れていた。
こうして夜は更け、ジローはアイラの中に3回射精し、アイラと繋がったまま朝を迎えた。

 雪原の行軍は6日目の朝を迎えた。
「ん・・・」
 ジローは快適な目覚めを覚えた。寝袋の中は充分すぎる温もりを保持し、ジローの肩に顔をうずめた少女が、幸福そうにまだ夢の中にいる。艶のある銀色の髪を湛え、肌と肌を触れ合った場所から互いの体温を感じて、両手はジローの背中を抱きしめるように眠っていた。小ぶりな乳房とその頂点の堅い乳首がジローの胸に密着している。そして、ジローの股間の分身は、銀髪の少女、ユキナと繋がったまま朝の昂りを迎えていた。
 ユキナの膣内は、昨晩発射した4回分の精液がたぷたぷに溢れていた。その状態で朝立ちの肉棒が体積を増したことで、ユキナの膣内がいっぱいになる。
「あ、う、う〜ん・・・」
 ユキナが夢の中から戻りつつあった。下半身の刺激が脳を揺り動かしたようだ。ユキナのそこは今ではすっかりジローの分身の形に適合し、膣壁のひとつひとつが肉棒に快感を与えると同時に、自らもそれ以上の快感を得ようと蠢く。
「あっ、・・・」
 ユキナは目覚めと同時に痺れるような快感を知覚した。昨日、さんざん弄ばれ、疲れて眠るまで快楽を与えられたジローの分身が入ったままであったことを知り、顔が赤くなる。しかし、ジローの妻としての自覚は既に充分持っているユキナは、ジローを喜ばせるため互いに快感を得やすいように腰を動かした。
「お早う。ユキナ」
「あ、お早うござ・・・」
 ユキナの言葉はジローの口付けによって途切らされた。互いの唾液を交換するディープキス。ジローの唾液を喉を鳴らして飲むユキナ。それだけで心が満たされ、下半身の刺激がそれを重畳して、快感の嵐が全身を包み込む。
「ん、うぅぅぅぅ・・・、んぅぅぅ」
 ユキナの身体がびくんびくんと跳ね、背中に廻した腕が強くジローを抱きしめた。本日1回目の絶頂だった。
 ジローは口を離してユキナの顔を見つめた。紅く火照った顔、とろんとして半開きになっている目、軽く荒くなった息をついている唇、どれをとっても淫乱な牝の様相を湛えて、更なる快感を求めているようだった。
「行くよ・・・」
 ジローの言葉にユキナの顎が微かに頷いた。ジローは両手をユキナの尻に廻して小ぶりで締まった尻たぶを掴むと、肉棒で膣内を前後させた。肉棒の周りは充分湿っていて、それがユキナの愛液なのか、昨晩出した精液の残りなのかはわからなかったが、反応した膣壁が包み込むように締め付けた。
「あ、あはぁ、あ、あぁぁ・・・」
 ユキナが堪えられずに声を出す。
 と、そのときだった。テントの入口が開いて眩しい光が射し込んできたのは。
「ジロー様。お食事の用意ができましたわ・・・」
 そう言ってテント内を覗いたルナは、ジロー達がまだ取り込み中であることを理解した。が、だからといって立ち去ることはなく、快楽にあえぐユキナの顔を姉のように見つめる。
「まあ、ユキナ。とっても気持ちよさそうね。可愛い・・・」
 といって近寄るとジローの寝袋に顔を突っ込み、ユキナの唇を奪った。
「ん、んぅぅ・・・」
 ユキナもルナに応えるように反応する。その間、ジローの動きはより激しくなっていき、もうじきフィニッシュを迎えんと更に腰とユキナの尻を動かす。
「あ、もう。姫様・・・。ミイラ取りがミイラになってどうするんですか」
 非難めいた台詞を言ったのはミスズ。ジローを起こしに行ったルナが帰ってこないので見に来たらしい。ミスズ自身も前日の朝にたっぷりされたので、ジローとユキナが朝の行為に及ぶことは想像していたが、まさかルナがそれに参加しているとは思わなかったのだ。
 ジローはしかし、ミスズを見ると目で合図した。ちょっと呆れてその光景を見ていたミスズだか、ジローの目を見るとたちまち紅い顔になり、よろよろとテントの中に入って、ジローと口付けを交わした。
 ジローとミスズ、ルナとユキナが唇で繋がり、ジローとユキナは膣で堅く繋がった状態が暫く続く。そのうちに堪えられなくなったのか、ルナとミスズは互いの股間に手を這わせ始め、ルナの指がミスズの膣内を、ミスズの指がルナの膣内を、それぞれに蹂躙するように弄りはじめた。
そして、この状態だと、全員が心で会話が可能となる。
<ユキナ、そろそろ行くぞ・・・>
<あ、あぁぁん、お、おねがいしまぁす・・・。ユキナに、ジロー様の濃い精液をください>
<ユキナ、可愛い・・・>
<ジロー様、大好きです>
 射精の瞬間、全員がユキナの快感を、ユキナの子宮に向けて発射された精液が当たる感覚を感じた。ルナとミスズも、膣内の互いの指を締め付けながら、まるで自分達の子宮口に精液が当るような快感を得ていた。まるでジローの肉棒が入っていて、射精されたのと同じように身体が反応する。膣口から、愛液が分泌して指がびちょびちょに濡れた。
<あぁぁぁぁ、い、いくぅぅぅぅぅん・・・>
<あ、わ、私も行きますぅぅ・・・>
<あ、いぃぃぃ、いっくうぅぅぅぅ・・・>
 ユキナだけではなく、ルナとミスズも同時に果てた。

 朝食を済ませて夜営を撤収し、一行は再び雪原を進んでいた。
 もう既にかなり奥地まで入ったのであろうか、風の神殿を出たときには辺りに散見した雪のついた岩肌の姿はなく、周りの景色は氷そのものとなっていた。足元も雪というよりは氷の粒が敷き詰められていると言ったほうが的確で、氷河の中を進んでいるような感覚である。
 そして、昼前。前方に氷の神殿の姿が飛び込んできた。
「あれが神殿のようですね・・・」
 ミスズがジローに確認するように云った。一見無防備に見えたその全貌だが、よく考えれば今まで進んできた雪原の道が充分すぎる天然の要害となっている。風の髪飾りのおかげで大過なく進んでこれたが、もし何もなかったら、ここにたどり着く前に凍死してしまうだろう。
 神殿は、氷河の西側に面して建っていた。氷河自体が神殿の外装となっていて、外部に面した白い氷の壁、柱、床すべてが氷河の一部からできていた。これも魔法のなすべき技なのか、切り出したような建物全体の形が荘厳に整えられている。
 神殿の中に入ると、全体が白でコーディネートされた内装であったが、コンクリートのようなもので作られていて、建材自体が氷河そのものということはないようである。
 神殿の中は快適で、防寒着は必要なかった。別段暖房の設備があるわけではなく、これも魔法の力だろうとジローは思っていた。
 ジロー達は神殿の中を探索しながら奥へと入っていった。もちろん封印の部屋の手がかりを探しているのである。そして、それは神殿中央の大広間にあった。正確に言うと、大広間の中央の床の上に。
『風の精霊』
『竜巻の塔』
 どうやら竜巻の塔という名の塔で風の精霊を召喚すればよいらしいと、再度神殿内を探すが、塔らしきものがどこにも見当たらない。
「ん〜む・・・」
 ジロー達は悩んでいた。大広間の隣にある応接室のソファに座り込んだままずっとうなっている。それは、他の愛嬢達も一緒だった。重苦しい空気に支配されている中、ただ一人レイリアだけがニコニコしながら皆の顔を覗き込んでいたが。
 そして、そのレイリアがちょっと思案げなそぶりを見せ、ジローの前ではたと立ち止まった。
「ご主人様ぁ。教えてくださぁい」
 重苦しい空気を切り裂くように明るいレイリアの声に、ジローは顔を上げた。
「ん、なんだい?レイリア」
 皆が押し悩む中で、レイリアだけがこの雰囲気に馴染んでいないのは彼女の精神が10代前半に戻り、天真爛漫で興味津々な少女に戻ってしまったからである。しかし、レイリアなりに重苦しい雰囲気はわかるので何とかしようと思ったのだろう。
「あのぅ・・・、『りゅうかん』て、何ですかぁ?」
「りゅうかん?」
「はい。床の中央に書いてあった『りゅうかんのとう』の『りゅうかん』ですぅ」
「ああ、それは『りゅうかん』ではなくて『たつまき』と読むんだ」
「『たつまき』?お空からぐるぐる渦をまいて降りてくる、あの竜巻ですかぁ」
「そうだよ」
「そうかぁ、ありがとうございますぅ・・・。でも、あの渦の中って、どうなっているのかなぁ?・・・」
「竜巻の中は、物凄い速さで風が巻いていて、全ての物が吸い上げられるように螺旋状に上に向かって持ち上げられていくんだ。まあ、竜巻の大きさにもよるけど」
「そうかぁ・・・、上にいくのかぁ。螺旋階段みたいに上に・・・。えへっ、塔と一緒だぁ」
 レイリアの呟きにミスズが反応した。
「レイリア、今何て言ったの?」
 レイリアはミスズの方を向いた。
「竜巻も、塔も、一緒♪」
「そうね。でも何でそう思ったの?」
「ん〜とぉ、螺旋で昇っていくところ・・・」
 ミスズはソファから立ち上がって、思わずレイリアを抱きしめた。髪を撫でると気持ちよさそうなレイリアを見て、思わずその唇に軽くキスした後で、真面目な顔に戻ってジローを向いた。
「ジロー様。もしかしたら、私たちは勘違いをしていたのかもしれません。塔を探してそこで精霊を呼び出すのではなく、先に精霊を呼び出して塔を作ってもらうのではないでしょうか」

 ジロー達は、再び大広間の中央に立っていた。ミスズの言ったことは十分試す価値があると思ったからである。
 ジローは全員が自分の後ろに下がったのを確認すると、風の精霊シルフィードを召喚した。途端、周囲から風が集まるように人型が実体化した。
「主、私を呼んだか?」
「ああ、頼みがある。だが、その前に教えて欲しい。『竜巻の塔』を知っているか」
「うむ。知っている。かつて私の主だったクロウ様の要請で作ったことがある。・・・そうか、主は今、それを必要としているのだな」
「そうだ。白虎の神殿の封印を解く時が来た・・・」
「了解した。主よ・・・」
 シルフィードはそういうとジローに背を向け、広間の中央に向かって両手を広げた。白く淡く光っていたシルフィードの身体が輝きを増し、広間の周りから唸りをあげて風が集まって来る。集まった風は、徐々に紡がれながら実体を現し、次第に竜巻となって天井へと伸びていく。そして、天井の頂点に開いた肩幅くらいの正方形の穴に吸い込まれるように固定されて止まった。
 次の瞬間、今度は逆回しの映像が飛び込んできた。天井の穴から抜けた竜巻が徐々に高さを低く戻っていき、見る見るうちにジローの背の高さまで降りてきた。そのまま竜巻状態が解除されつつある時に、ジローは違いに気付いた。
 風の渦の中に棒のようなものが浮かんでいる。長さはジローの背丈くらい、太さは片手で握れるくらいか・・・
「主よ。これが白虎の神殿に伝えられている封印の武具だ。そして、この武具を扱えるのは・・・」
 シルフィードがジローの後ろを見つめた。そして目的の人物を直ぐに見つける。
「銀髪の聖女よ。これは、そなたの武具だ。ここにきて手にとるがいい・・・」
 突然の指名にユキナはびっくりしていた。が、同じく封印の武具を持つミスズがさりげなく彼女の背中を後押しした。
「ユキナ。さあ、行ってきなさい」
 ミスズに促されておずおずと歩み寄るユキナ。それでも風の塊の中に浮かんでいる棒に向かって着実に進み、手に取れる処まで行くとジローを振り返った。
 ジローは微笑みながらゆっくりと頷く。と、緊張していたユキナの表情が少し緩み、覚悟のようなものが浮かんだ。
 ユキナは封印の武具に向き直り、両手で同時に棒を掴んだ。シルフィードは少し嬉しそうな表情を見せたが、直ぐに全ての風を解除し、ジローに向き直った。
「主。封印の武具と同時に、転送の間へと続く封印も解除されている」
「わかった。ありがとう。シルフィード」
「い、いや。それほどでも・・・」
 最後の方は聞き取れなかったが、照れている表情が可愛かった。しかし、すぐにシルフィードが真顔になる。
「主。それから、これを」
 シルフィードの手の中に珠が浮かんでいた。と、その珠はまるで意思があるようにジローの目の前に移動し、そのままふわふわと浮かぶ。ジローが良く見ると無色透明なその珠の表面に文字が浮かんでいる。『鬼眼』と読めた。
 ジローはそれを確認すると珠に手を伸ばして掴む。すると、珠はジローの体内に溶け込むように消え、ジローの中に新たな力が漲るのを感じた。
「重ねてありがとう、シルフィード。これからもよろしく頼む」
「御意」
シルフィードは今度は照れずに深々と頭を下げた。そして、そのままジローの中に戻っていった。

 封印の武具を手に入れたユキナは、まずじっくりとそれを見た。自分の背丈より頭一つ長く、材質は金属のようだが、重量はユキナが愛用している槍よりも僅かに軽いくらいで、武器として振り回すには申し分ない重さと言える。
「どうやら玄武坤と同じ材質みたいね」
 ミスズがユキナの横で武具を見ながら云った。
 武具の両端には、同じ金属を使った飾りが取り付けられていた。風紋を擬似した飾りは、棒の両端にぴたりと填まっていて、まるで棒に直接刻んだかのようにも見えた。
「白虎の武具だからさしずめ白虎棒とでも名づけましょうか。でも棒じゃなくて槍だったら白虎鎗・・・、この方が格好良い名前なのに・・・」
 ミスズが呟く。ユキナは槍の技に天賦の才を持っている。達人と言っても遜色ない腕前であった。棒と槍は似ているので遜色なく扱うことは出来るだろうが・・・。
「姉さま。でも、封印の武具です。早く自在に遣えるように精進しないと・・・」
「うん、そうね。私も修行手伝うわ」
 ミスズとユキナがそう言っている横で、ジローとアイラは神殿内で新たな封印が解かれたことを確認にいこうと話していた。
 結局、ミスズとユキナは大広間に残り、ジロー達4人が神殿の奥に進むことになった。
 大広間の奥の扉を抜け、廊下を進んでいくと両側に扉の並んだ場所にたどり着く。扉の奥はそれぞれ休憩できる部屋になっている。白虎の神殿に辿り着いてから調べたのはここまでだった。
 その廊下の突き当たりに、新たな扉が出現していた。
 ジローは躊躇なく扉を開く。
 室内は薄暗かった。今まで白い壁に囲まれた廊下から来ただけに、余計暗く感じた。目が慣れるまで真っ暗闇に感じたほどだ。
「ジロー様、誰かがいます!」
 ルナが強く言った。目は慣れなくても、心は制約を受けない。ルナの『心触』の力なら誰かがいれば即座にわかるのだ。その相手の感情も含めて。しかし、今ルナの触れている誰かは、感情はおろか、性別すらも判別できない相手だった。ただ、確かにそこにいることは間違いない。
<気をつけて・・・>
 ジローは直後にいるルナに見えるように頷いた。ルナは水の指輪を装備し防御力はあるものの、戦闘力は『水矢』程度なので、こういったケースは一番安全なジローの後ろにつくことが多い、ルナの後ろがレイリア、最後尾がアイラである。
 そうこうしているうちに、ようやく眼が暗闇に慣れてきた。ルナには及ばないものの、ジローも『心触』の使い手として、部屋の奥に人の気配があるのはわかっていた。但し、気配はわかるが相手の心に触れることは出来なかった。心に堅いガードが掛かっているようで、ジローの力では全く歯が立たない。
 仕方なく、眼と耳から入ってくる情報に集中した。部屋は長細く、奥に誰かが座っている。手元で杖を握っているらしく、その杖の先端から淡い緑の光が輝いていた。
「誰、だ・・・」
 ジローの問いかけに、その人物の目が開いた。空色の瞳が輝いて、ジロー達を見据える。
「皆様をお待ちしていました」
 まだ若い女性の声だった。しかし、声から響く物腰はとても重厚で、年月を経た存在感を感じさせるものだった。
 だが、その姿は彼らの見知ったものだった。胸まで伸びた草色の髪、空色の瞳・・・。
「イェスイ?何故、君が・・・」
「イェスイ?イェスイなの・・・?」
 レイリアがそういうなり、ジローの横をすり抜けて走り寄る。その動きは母に向かって行く幼女のようで、イェスイの胸に飛び込んでいった。
 イェスイは、そんなレイリアに応えるようにはっしと抱き込む。
「レイリア様・・・。ご無事でよかった・・・」
 その姿を見て、ジロー達は目の前の人物がイェスイ本人であると理解した。だが、彼女がどうやって先にこの神殿に来ていたのかは謎のまま。とにかく、イェスイに聞けば何か判るかもしれないと、ジロー達は彼女の元へ歩んでいった。

「ハァァァ!」
 気合と共に棒が突き出される。
「甘い!」
カシィィィィンと軽い音をたてて、棒の軌道がいなされる。
「イヤァ!」
 しかし、いなされた棒はギュンと音をたててしなり、予め棒自体に付与されていた螺旋回転の力を利用して再度元の軌道へ修復をかける。
 ガアァァンと、今度は重い音が響く。しかし、棒の動きは止まり、ミスズの両手に握られた玄武坤ががっしりと受け止めていた。
「ん。今のはちょっと来たわね。でも、まだまだよ」
 ミスズはそう云うなり棒を払った。弾かれた棒はしかし、その遣い手であるユキナの手の中で構えの一部となる。
「行きます、お姉さま」
 ユキナが再び棒を繰り出す。だが、今度はさっきとは違い、突きと引きの速度が段違いに速く、まるで10本の棒が延びてくるように感じる。ユキナが槍を遣う時の必殺技を出してきたのだ。
「くっ」
 ミスズは咄嗟に集中する。と、先ほどまでは10本に見えた棒の先が段々と減っていき、最後は2本だけになる。ジローと交わることで得た『時流』の力をミスズは発揮した。自分の周囲の時間を遅く出来るのである。本家のジローの半分程度の能力ではあるが。こうなると、玄武坤でいなすのは容易だった。
 しかし、第2撃目はミスズの能力が発揮しているにも拘らず、棒の数が5本に増えた。そう、どうやらユキナにもミスズ程ではないが『時流』の力が伝播しているらしい。
 ミスズは寸前で避けながら片手の玄武坤を投げた。高速で回転する刃がブーメランのようにユキナに襲い掛かる。
 ユキナは棒を引くと向かってくる玄武坤をいなそうとする。しかし、玄武坤を巧みに操るミスズは弾かれつつも、直ぐにキャッチして再度投擲する。それが、2個の玄武坤交互に繰り出されて、まるで同時に襲い掛かるような感じを受ける。その攻撃を1本の棒で受け止めるユキナ。しかし、連続した衝撃が少しずつユキナを消耗させていた。
<棒じゃなくて、せめて穂先があればいいのに・・・>
 嵐のように襲い掛かる玄武坤に対し、受身一方になってしまったユキナがそう思ったとき、奇跡が起こった。
 棒の先に気流が集積し、槍の穂先の形状をなしたのである。
<<えっ!?>>
 ユキナとミスズが同時に思ったのと、鍛え抜かれたユキナの身体が自動的に玄武坤を弾いたのが同時だった。
「凄いじゃない!」
 ミスズが弾かれた玄武坤を両手で受け取ると、攻撃を中止して近寄ってくる。
 ユキナは、棒の先端に生じた穂先をただ見つめていた。
 その後、いろいろと試した結果、穂先は風の力を利用したもので、堅さは鋼並み、切れ味は銘刀以上であるばかりか、大きさや形もいろいろと変えられることがわかった。そして、穂先を作るのは、ユキナのイメージだということもわかった。
「うん。やっぱり名前は白虎鎗でいきましょう」
 ミスズが満足そうにつぶやいた。


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