冥皇計画

第5話「告死騎士」


「う〜〜む、どういうルートでいこうかねぇ・・・」

地図を食堂のテーブルに広げ、スプーンをくわえ頬杖をつきながらリディアが唸る。

朝食時の喧噪の中、3人はそれぞれの朝食を摂りながら話し合っていた。

ニウス唯一の宿屋は出立前の旅人、行商人、冒険者などで混雑しており、この目立つ三人組の旅人ですら、その光景の一部となっていた。

「ルートって言っても、2つしかないじゃない。」

隣に座っているエメリアが上品な仕草で紅茶を楽しみながら言う。

テーブルの向かい側にひとり座ったリシュアは、見ている者がつい微笑んでしまうようなひたむきさで、パンとスープを交互に口に運んでいた。

「旧帝国街道を南下してミスタニア王国経由でデル・アザモン王国にはいるほうが安全だと思うんだけど、峠越えがあるから、急いでも12日はかかるんだよねぇ。」

リディアがため息混じりに言うと、

「私はメルアディス、ヴィレル王国を経由するルートの方がいいと思う。急がなくても7日あれば着けるし、街道ルートは峠で待ち伏せされたら逃げ道がないから。」

エメリアが一瞬、厳しい表情を浮かべて提案する。

「そうね、最低二日は野宿だけど、この際最短のほうがいいわね。」

リディアもそう同意すると、食事に夢中だったはずのリシュアも

「日数が少ないほうが二人に負担が少ないし、多少不便でもそのほうがいいとボクも思うよ。イズドマルクにさえ着けばあとは安全なんでしょ?」

リシュアの愛しい女性達は顔を見合わせると微笑み、異口同音に

「決まりね♪」

と嬉しそうに言った。

「さてと、私が立てた具体的なプランを説明するから、ちゃんと聞いてね。」

リディアはまた地図に向かうと、説明を始めた。




その三人を遠くから窺う二人の女がいた。

「あれが冥皇か、あたしにはただの宿屋の親父にみえるんだけど。」

リシュア達の座っている席から離れた壁際の席に座った二人組の片方が言う。

その女は印象的な宵闇色の、腰まである艶やかな髪に、褐色の肌。
妖艶と言うにふさわしい繊細な美貌を、鮮烈に際だたせている卑猥と言っていいような、ぽってりとした紅を引いた唇。
彼女が気だるげに頬にかかった髪をかきあげると、彼女の長い耳にちりばめられたアクセサリーが触れあい、澄んだ金属音をたてる。
そう、彼女は闇長耳族と呼ばれるダークエルフの女だった。

「ソスト姉さん・・・・・その人は・・・・この宿屋「旅の仲間の二つの塔の帰還亭」の御主人のゴンダルフさん(56歳)ですっ!昨日、チェックインしたときに会ってるじゃあないですかっ!」

もう片方の女があきれたような口調で言う。

「ソスト姉さん」とダークエルフの女を呼んだ、もう片方の女もダークエルフであった。
彼女は妖艶な姉のソストラダーニエと違い、髪の色も同じで顔立ちもよく似ていたが、童顔で幾分若く見え、清潔感のある溌剌とした可愛い女の人という印象の女性だった。

「あっ、違うの?わたしはてっきり、あのおぢさんが冥皇かと・・・・。」

ソストラダーニエは妹のエステラダーニエの方を向くと、眉間に皺を寄せながら、

「エッちゃん〜〜どの人か教えてよ〜〜もぅ〜〜意地悪〜〜〜。おねーちゃんわからないじゃないのよ〜〜〜。」

と最期は弱り切った様子で言った。

「仕事中にその呼び方はやめてくださいって、何度もいってるでしょっ!」

エステラダーニエは小さなため息を一つつくと、姉の頭を両手で掴み顔をリシュアの方に強引に向けた。

「エッちゃん痛いよ〜〜首とれちゃうよ〜〜。」

姉が甘えた声で抗議する。しかし次の瞬間には姉は真剣な戦士の顔になり、冥皇の生まれ変わりだと言われる少年を凝視していた。

急に静かになり、彼女の尊敬する一族の誇る戦士の顔に戻った姉を、エステラダーニエは安堵しながら一瞥すると、宿屋代の支払いの為に椅子から立ち上がった。



「エッチャン様、冥皇は見つかりましたかな?」

椅子から立ち上がったエステラダーニエの前には、薄汚れた黒いローブを纏った男がいつのまにか立っていた。

その男は魔皇ラグナが放った冥皇暗殺隊の隊長で、名前をユド・ヴァロウと言った。ミイラのように痩せぎすの体に、アンバランスな妙に脂ぎったのっぺりとした丸顔の男で、ひびのはいった丸眼鏡をかけ、趣味の悪い髑髏の杖を持った不気味な魔導師だ。

 姉には及ばないものの、一流の戦士と自負していた自分に気配も感じさせずに、魔導師とはいえ間近まで近づくことのできるこの男に、エステラダーニエは平静を装ったが、内心戦慄を覚えた。
姉が最初にこの男に会ったときにエッちゃんと紹介したせいで、この底の知れない気味の悪い男に、エッちゃん様と呼ばれることに嫌悪感を隠しきれない妹は

「昨日の夜に城門で騒ぎを起こしてくれたおかげで、すぐに見つけることができました。」

怒気を含んだような抑揚のない声で答えると、きびすを返して宿代を払いに向かう。

一人残された男は、死人のような濁った目で、口だけを笑ったように歪めると、

「それは重畳、まったくもって重畳でございますな。」

ひとりそう呟き、ローブのフードを深くかぶり直すと、宿屋から出ていった。



エステラダーニエが支払いを済ませ席に戻ると 、姉のソストラダーニエが冥皇にむかって、さかんに投げキッスをしたり手を振ったりしていた。

「ソスト姉さん・・・・・・。」

妹はあまりのことに呆然として、昼食用に買ってきた弁当の包みを、ぼとぼとと取り落とした。数秒後、我に返った妹は、脳天気な姉の耳元で小声で囁く

「どこの世界に、殺す相手に投げキッスしたり、手を振ったりする暗殺者がいますかっ!」

見ると、冥皇のほうもまんざらじゃないらしく、頬を赤らめ姉の美貌に見とれている。

エステラダーニエもあらためて、小柄な冥皇の姿をまじまじと見た。
たしかに、冥皇の生まれ変わりとされているリシュアという少年は、美しすぎると言ってもいい少年だ。少年大好きな姉はともかく、自分もこんな出逢いでなければ惚れたかもしれないと思う。その少年はただ美しいだけではなく、なにか母性本能を強烈に刺激されるような愛くるしさと、無条件に忠誠を誓ってしまいそうな不思議な魅力とを持っていた。

エステラダーニエも彼におもわず見とれてしまい、頬を赤らめ、彼との逢瀬を想像してしまった。リシュアとの情事の後、彼の柔らかそうな美しい金髪を撫でながら、抱きしめられながら眠りたい。そんなことまで考えてしまった。

「ぉ〜ぃ、エッちゃん〜帰っておいで〜〜」

姉の呼ぶ声で我に帰ったエステラダーニエが冥皇の方を見ると、リシュアの連れの神官戦士らしい女が、すごい剣幕でこちらに向かってくる最中だった。

その神官戦士が何か言おうとする前に、姉が満面の笑みで

「おはようございます」

と言うと、律儀そうな女神官戦士は気後れしたようで、思わず挨拶を返していた。

「お、おはようございます」

姉はニッコリと微笑むと、腰のポーチから皮表紙の手帳を取り出し、羽根ペンと共にエメリアに差し出すと、、

「ソストラダーニエと申します。ヴァーデン一族の出です。貴女はイスタリアの聖女のエメリア様ですね、サインしていただけませんか?」
「私たちの良人に色目つかって!ど・・・。」

エメリアと呼ばれた女神官戦士は何かいいかけたが、なんと姉の申し入れを受けて差し出された手帳に几帳面にもサインをした。エステラダーニエは瞠目したままその様子を見ていた。
サインをもらった姉は大事そうに手帳をしまうと、丁寧に礼を言った。

「ありがとうございます、エメリア様。噂にたがわずとても良い方なんですね。さて、お礼と言ってはなんですが、私たち二人を含めた30人の刺客がシェレイド領を出たあなた達を襲う手はずになっています。」

「貴方達、ラグナの手下なの!?」

エメリアが鋭い眼光で問う、腰を引き右手が剣の柄にかかっている。

「ご推察の通り、私たちは魔皇ラグナからの刺客です。私たち二人は雇われ兵で、家臣ではないですけどね。後続の刺客はいませんので、殲滅すれば、しばらく安全なはずです。」

「どうしてそんなこと教えるのよ。」

エメリアが怪訝な顔をして問う。それを聞いたソストラダーニエは、同性のエメリアでもゾクリとするような妖艶な笑みを浮かべると。

「わたしが冥界の王ゴーラ・ストーラの騎士だからです。告死騎士と言ったほうがわかりやすいですかね?それに騎士は古来より戦う前に、正々堂々名乗り合うものですから。」

「告死騎士・・・貴女まさか・・・。」

エメリアが言い終えないうちに、ソストラダーニエの右の瞳が赤く輝く。

「次にお会いするときは黄泉で・・・。」

低く小さな声でそう言い終えたソストラダーニエは、エメリアの横をすり抜け、こちらを見ていたリシュアの前に立つと跪いて騎士の礼をした。

「冥皇様、些細あって殿下を討たねばなりません。多分3日後の早朝に相まみえることになるはずです。私個人にとって冥皇様は敵になりたくはない御方ですが、郎党を養っていかねばなりません故、どうか容赦無用にお願いします。」

リシュアは闇長耳族の騎士を悲しそうな目で見ると、一言

「お金の為に命を捨てるの?」

「主なき身ではありますが、わたしにも騎士の矜持というものがございます。」

ソストラダーニエは下をむいたまま言った。
彼女は誇りの為に戦うと言っているのだ。それを聞いたリシュアは胸が痛んだ。
そして激情に身まかせ、それを言葉にする

「・・・・ボク達の仲間になってよ!・・・そうすれば戦わなくて済むよ!!」

と言った。
リシュアの言葉に激しく心が動いていたが、ソストラダーニエは振り切るようにかぶりをふり、

「うれしきお言葉・・・・されど・・戦の前から負けるというのは不吉ではございますが、もし私が生まれかわることができたなら、来世にて冥皇様にお仕えさせて頂きます。」

目に涙をためたリシュアはさらに何か言おうとしたが、リディアがそれを制した。
それを見たソストラダーニエはリシュアに優しく微笑みかけると、毅然とした口調で言った。

「心底いかに士魂を燃やすといえども、形あらわさずば士魂なきに等しと、古来より言います。生まれついての帝王であるリシュア様なら、それをご理解くださいませ。」

そう言い終えると、彼女はリシュアの手をとって愛しげに接吻するとたちあがり、

「次にお逢いするときは黄泉にて・・・・。」

そう言うと立ち去ろうとした、リディアがそれを呼び止め

「もし貴女が死んだら、妹さん達の面倒はみるわ。」

というと、ソストラダーニエは目礼して破顔一笑すると

「リディアさん。こんな出逢いでなければ貴女といい友人になれたかもしれませんね」

そう言うとリディアと握手した。そして彼女は妹を呼ぶと立ち去っていった。




多くの旅人が既に出発し、人がまばらになった宿屋を3人は後にする。
宿屋の主人とその家族に従業員、そして近隣の住民までエメリアの見送りに現れ、いまさらながら彼女の知名度と人望にリシュアは感激した。

 彼女は非常に尊敬されていて、ある老女などは跪き、この国より去らないでくれと涙ながらに懇願した。
それを見たエメリアは馬から降りると、同じように跪いて老女を立たせ、耳元で何か祝福の言葉のようなものを囁いていたが、リシュアの方をみて老女に何事か囁くと老女は破顔して、首に提げていたシェレイドの聖印をリシュアの方に向かって掲げ、祈った。


 リシュアは昨日と変わらぬ、一門の正装だったが、リディアは矢よけの大きな肩当ての着いた蒼いマントの下に金色の縁取りの付いた白く扇情的なデザインの皮鎧を着て、左右の腰には金象眼の見事な拵えのサーベルを1本づつ吊っており、リシュアも初めてみる象牙の繊細な竜の飾りのついた、白い細身の両手杖を手にしていた。

エメリアも完全武装し、白い短めのマントに白銀の騎士鎧、銀色の騎士盾、昨日リリアと戦ったときに使った白鞘の長剣、そして翼の飾りとシェレイド神の紋章の前立てのついた、サレットと呼ばれる顔の上半分を覆う兜をかぶっていて、戦乙女さながらの装束だった。

 完全武装した未来の妻達の凛々しさに、リシュアは素直に感動したが、二人がこれほど本気にならなければならない相手だということに、今更ながら恐怖を感じた。

3人が城門につくと、ニウスに聖女来たるという噂が広がっていて、沢山の領民と神官戦士達があつまっており、その神官戦士達は間をあけて2列に整列し、3人の為に道を作ってくれていた。

エメリアは先頭に立って、左右に居並ぶ神官戦士達に感謝の言葉を言いながら進んだ。

「ヒューヴァ!・ガーダァ!・シェレーダ!!」(偉大なり!豊饒神シェレイド!!)

ひとりの神官戦士が神聖語で叫ぶと、他の神官戦士、領民達までもが同じ言葉を口々に叫びだした。
 聖戦にでも出征するような雰囲気に、魔法使いの師弟は圧倒されていたが、エメリアだけは兜を脱ぎ左脇に抱えると、肘を曲げた右手を掲げ、群衆達と同じ言葉を叫んでいた。



城門を後にしてメルアディス王国に向かう道を進んだ。
王国国境までは2日の道のりである、教団領内はまず安全といってよかった。
シェレイド教団は隣国のリスタニア教団と小競り合いを繰り返す状態で、準戦時であり、したがって領内の警戒態勢はかなり厳しく、ラグナの部下達つまり30人もの武装した集団ならまず、見とがめられずに行動するのは不可能だからだ。
ただ、ソストラダーニエ姉妹が独断で襲ってくる可能性もないではなかったので、普通の旅装ではまずいと二人が判断し、完全武装しているらしい。
 リシュア達の場合は、エメリアが教団の英雄で元高官であったため顔が利くというのと、なにより彼女の親友の神聖騎士団団長シュテッケン卿の直筆の通行証がモノを言った。


「その通行証ってさ、どうやってもらったの〜?」

リディアがいつものニタニタ顔でエメリアに聞く。

「別に。普通に頼んで内緒で書いて貰ったわよ。リシュアちゃんが誤解するから、変なこと言わないで頂戴。」

エメリアはぴしゃりと言い切るとそっぽを向いて少し先を行った。

「ボクは過去のことは気にしないから・・・そのエメリアが女の人と・・とか。」

リシュアがそう言うと、ニコニコしながらエメリアが馬を寄せてきて、兜をとるとリシュアに口づけした

「大好きよリシュアちゃん。これからずっと私はリシュアちゃんのもの。昨日誓ったでしょ?」

彼女は唇を離すと言った。彼女は名残惜しげに自分の薄紅色の唇を指でなぞる。

「あんた器用ねぇ馬で並進しながらキスするとは!まぁリシュアと出会ってから御乱行を改めたのは、たしかに事実だけどね〜♪」

リディアがカラカラと笑い、古い友人の過去を暴露する。

「うるさいわね!リディアがそう言うなら、じゃああのことバラすわよ?」

エメリアは目を細めニヤリとする。

「リシュアちゃん。アンディエラって人しってる?」

リディアに負けない意地悪な表情を浮かべて、エメリアが言う。

「えと、2回くらいしか会ったことないけど、リディアの2番目の弟子だよね?たしか従姉妹だったはず。」

エメリアはまたニヤリとすると

「実はね、その子リディアの実の娘でね〜。叔母のところに養女にはいったから、従姉妹だっていってるだけなのよ。」

観念したとばかりに、エメリアを手で制すとリディアがしんみりと語りだした。


「あたしはこの大陸の生まれじゃなくてね、隣のミニスティリアーレ大陸の生まれなのよ、そこにソーサマギルって名前の魔法使いが治める小さな国があって、そこの王族出身なの。」

そういえばリシュアはリディアの生まれとか、過去とか全然しらなかった。彼女自身語らなかったし、尋ねたこともなかったが。

彼は師匠が姉のように、時には母のように、接してくれたことが只嬉しくて、彼女に喜んでもらう為に修行も洗濯もがんばった。彼女が笑顔で褒めてくれるだけで満足だった。だからリディアの過去のことなんて気にしたこともなかった。

「ずっと独身だったんだけど、クソバ・・・いや、あたしの叔母のサーディアの薦めでね、一度だけ結婚したのよ、夫の名前はディムル・ツバード、同じ王族の出かな。実はねもう顔も覚えてないのよ。270年も前の話だしね、それに結婚生活も一年くらいだったから。」

リディアが話したくないことを無理に話しているように見えて、リシュアは切ない気持ちになったが、二度とこの話は聞けないと思い、あえて何も言わず聞いた。

「10歳も年下で最初はそんなに好きでもなかったんだけど、娘が生まれてからやっと本当の夫婦みたいになれて・・・やっと好きになれたのよ。でもその当時、あっちの大陸では黒鬼っていう魔族が大軍で攻めてきててね、大陸の国々全部で戦ったんだけど、そのうち家族を守りたいって、彼も戦場に出てね、それっきりかな・・・。」

「そうだったの・・・・知らなかったわ。ごめんなさいリディア・・・。」

彼女もそこまでは知らなかったらしく、エメリアが沈痛な面もちで言うと、気にするなとばかりにリディアはエメリアの方を叩いた。
だが、リディアは少し涙ぐんでいて、

「それから娘もだんだん大きくなって、物心つくと当然、父親はどんな人だったの?って聞いてくるのよ。それがわたしにはつらくてね・・・。娘は髪と瞳の色が彼と同じだったんだけど、それしか言うことがないのよ・・・無口な人だったし、あたしもあんまり知ろうとしなかったからね・・・・。そしてその頃、前世の記憶が少しもどってね。それで叔母の所に娘を養女に出して、リスタニア大陸にきたのよ・・・。」

彼女は指で涙を拭うと。

「昔話はこれでおしまい!」

過去を振り切るように、無理に笑顔を作って言った。

その後3人は終始無言で、夕刻には今夜の宿泊地であるモルトリアという大きな城塞都市についた。


 モルトリアはシェレイド教団領モルトリア管区の枢機神官座都市で、ニウスに比べればかなりの大都市だった。固有の人口は3万ほどで、旧帝国街道を外れていたが、教団の東部諸国との陸上交易の中心地で、人口の数倍の参拝者、商人とその利益を目当ての人々でかなりの賑わいだった。

そこで3人は宿をとり、4人部屋を借りて泊まることにした。

 今回はかなりいい宿に泊まった。リシュアが初めてみるような豪華さで、ニウスの素朴な宿とは大違いだった。部屋数にも驚いたが、なによりリシュアが驚いたのは部屋にお風呂があって、蛇口からお湯がでることだった。

3人の入った宿は、金持ちの冒険者や貴族、大商人などが泊まるような宿らしく、行商人やシェレイド大神殿への参拝者はひとりも見かけなかった。
そのかわりに、1Fの酒場には沢山の娼婦がいた。
塔のあったグワリボ村とロートリア、それにニウスにしか行ったことのないリシュアには、娼婦をみるのは初めての経験だった。

シェレイド教団領は教団が娼館を禁止していたのもあったが、豊饒神シェレイドの加護のおかげで食料問題はおこったことがなく、どんなに貧しい人でも身を売るような状態になることはなかったからだ。モルトリアも当然、娼館は禁止だったが、娼婦は宿屋に置いていて、専門の娼館ではないという点でお目こぼしされてるらしかった。

 彼女達は胸や尻の露わなドレスを着ており、リディアの服装よりもずっと卑猥でリシュアには下品に見えた、娼婦達は姿はそれなりに美しかったが、エメリアやリディアに比べると人工的な美しさに感じ、自分の花嫁達のほうがずっと美しいと思ったが。



階下で簡単な食事を済ませると、部屋のある2Fにもどった。

 リシュアは自分だけの寝室を与えられて、ひとりで寝間着に着替えていた。
着替えるために一人でもぞもぞやっていると、いきなり扉が開いてリディアが入ってきた。

彼女はリシュアに歩み寄る寝間着をいきなり脱ぎ、後ろから抱きついてきた。

「ねぇ、リシュア・・・しよ?・・しよ?」

と彼女は熱い吐息をリシュアの耳に吹きかけながら、囁きかけてきた。

彼女はリシュアの返事を待つこともなく、リシュアの着かけていた寝間着を全部ぬがしてしまった。彼女の火照った豊満な体がリシュアに押しつけられ、その拍子にベットにうつ伏せに押し倒された。

彼女はもどかしげにリシュアの下着を脱がすと、すぐにリシュアのペニスを右手でしごきながら、すでに全裸の体をおしつけ、自分の性器をリシュアの太股にこすりつけながら、彼の肩や背中にキスの雨を降らせた。

「あぅリディア・・・・ダメ・・・・」

昨日にも増しての、強烈な愛撫にリシュアは翻弄され、女の子のような声をあげる。
リディアは彼を仰向けに寝かすと、顔にまたがりそのままリシュアの股間に顔を埋める。彼女の柔らかな唇の感触をペニスの先に感じたと思うと、すぐさま根本までペニスをくわえられ、彼女は髪を振り乱しながら頭をふりたくり、ペニスを激しく吸う音と彼女の激しい息づかいだけが部屋に響く。

目の前にリディアの蜜の滴る、ヴァギナがあったが、リシュアはそれに愛撫できないほど、快楽に翻弄されていた、

「リディア・・・でちゃう・・・・・あっ!・・・」

びゅく、びょびゅ、びゅく、びゅぴゅ、 

 彼女は口を離さす、そのまま射精を口で受け止めた。そして貪るようにリシュアの大量の精液を、味わうように喉を鳴らして嚥下する。
リシュアの精液を味わった彼女が身を起こすと全身は汗で光り、欲情でピンク色に上気していた。リディアはいままで見たこともないような淫靡な表情で目を細め舌なめずりをして微笑むと、彼女はリシュアの腰を跨ぐような体勢に動き体を前後に入れ替え、今度は上から抱きついてきてキスを貪りはじめた。

彼女のほうがかなり身長が大きいので、キスをしながら抱き合うと、ペニスは彼女の臍のあたりにあたるが、それを気にする風もなくリシュアの唇を貪る、舌をからめ、吸い、しゃぶる。頭をかかえられ息苦しさにお互いが喘ぎながら、唾液を交換し飲み込む。
彼女の紫色の口紅がリシュアの顔中についているが、それに気づくこともできず、一人の雌になっている師匠とのキスに溺れてしまう。

彼女は息をあらげながら一度口を離すと、髪留めを外し放り投げた。
彼女の腰まである灰色の髪が広がり、それと同時にさらに彼女の生々しい体臭を感じたリシュアはさらに興奮がたかまる。

「リシュア・・・好き・・・大好き・・・」

切なげな表情でそう言うと、リディアがまた、噛みつくように唇を押しつけてきた。

濃厚なキスを数分間堪能したあと、彼女はやっと唇を離してくれた。

「ねぇ・・・・おちんちん頂戴・・・・・・。」

それだけ言うと、彼女は自分が下になるように体をいれかえた。

「ね・・・早く・・早く・・エメリアみたいに貴男のものしてよ・・・・早く・・。」

彼女は欲情に潤んだ目で哀願する、リシュアが彼女の凄絶な美しさに見とれていると、彼女は待ちきれないという風に唇を噛み、涙を零しながらさらに哀願する。

「ねぇお願い・・・・リシュア・・・早く抱いて・・・・お願いだから・・・・。」

我にかえったリシュアは、すでに堅く反り返った肉棒をリディアの膣口にあて、一気に貫いた。リディアの背が反り返り、リシュアの背中に爪が立てられる。

二人は、愛撫など忘れて互いの肉体を貪る。リシュアが打ち付けるように腰をつかうと、リディアがリシュアの背中で美脚を交差し、腰をもちあげもっと深く、もっと激しくと催促する。

魂が解け合うような恍惚と、獣欲の狭間で、師弟は番いお互いを求めて愛し合う。

限界に達したリシュアが、膣中で射精すると、愛液のまざった大量の精液が二人のつながった場所から流れだし、シーツを濡らすが、二人は動くのをやめない。

二人の激しい息づかいとベットの軋む音、それに二人の粘膜のぶつかり合う音だけが部屋を支配する。

すでに何度も達したリディアだったが、自分の愛する少年が満足するまで抱かれるつもりで、唇を血が滲むくらいに噛み、快楽の洪水に耐え、何度も少年の精液を子宮で受け止めた。

彼女は息も絶え絶えになり、意識が朦朧となりながらも、少年の与えてくれる愛と快楽は麻薬だと思った。

もう離れることができない絶望のような歓喜、同時に失うことへの恐怖も感じたが、今は長年失っていることすら忘れていたものが補完され、冷笑していたはずの人生に意味を感じて、心が満たされていた。

転生は呪いではなかった。むしろ祝福だったのだとリディアは思わずにはいられなかった。




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