堀田捨次郎全國武者修行記より(香川先生の稽古)

 十月廿五日 此日武徳會臨時大会は縣廰裏の會場で開かれた。四方に舊藩の幕を張り、式場の中央には竿頭高く日章旗を翻し、四隅の天井には無數の小旗を掲げ、野試合場の光景である。此に參集するもの數千人の多に達し、早朝より劍戟の音絶えず、勇壮の感は刻一刻に増し來り、鋭氣頓に百倍し、敵を壓するが如く、或は苦しむるが如くであった。香川善治郎と云ふ大家が居る。私共若手連は先生を大に弱らせようとする野心勃々であった、がさて稽古の段になると、矢も刃も立てられぬ、ぶち掛かつても恰も山の如く、竹刀を拂はれると、身體が何れにか飛んで行く心持がする、實に手も足も出ない、如何に鋭氣が百倍しても、身體目がけてぶつかる業があつても、何の効もない、實に先生の腕前技量には驚嘆した。得意満々の私も之れには心から參つた實に閉口したのである。

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