山岡・西郷会見異聞(新谷道太郎談話)

 私は命によって、伊勢の藤堂藩の六百名の俘虜を始末するために京都に残っていました。ところが急に命令で、駿府の官軍の様子を聞きにゆくことになり、三日間で駿府に着き、お城の前の大文字屋という宿に入ったのです。ここに参謀本部が置いてありました。西郷さんに会って、様子を聞きました。そして、その時、ちょうど山岡鐵舟先生が来られたところだということも聞いたのであります。山岡先生は、私が六年間剣道を教わった師匠であります。
 西郷さんは、
「山岡をこの場でぶち斬るつもりだが、どうか」

と聞くので、私は、
「お勝手になさい」
と答えました。そして様子を窺っておりますと、
「山岡さん、官軍の陣中に入って来るとは不届きだ、軍法に背く。手打ちにするが覚悟はどうか」
「もとより覚悟で參りました」
 山岡先生は首を伸べられました。西郷さんは刀を抜いたのですが、峰打ちでたすけた。
「いかがでおたすけになるのですか」
「山岡君、君は男だな」
「もとより男です」
「男なら話を聞こう」
というので、西郷、山岡の会見がはじまったわけでした。

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