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第1回 木刻根付の偽物(練り物)の特徴
平成14年12月30日



 木刻の根付に見せかけた、いわゆる「練り物根付」の話題です。偽物(イミテーション)の象牙根付は香港産・中国産を中心に頻繁に見かけますが、練り物の"木刻"根付も確かに存在します。滅多に見かけないレアな偽物ですので、予備知識のないままうっかり遭遇すると、色揚げや彫りの良さに惚れ込んでしまい買い求めてしまうおそれがあります。危険を避けるためには練り物の実物をよく見ておいて、その特徴を記憶しておくことが重要です。

 木刻の練り物の場合、炭酸カルシュウムの粉末を高圧プレス機で固めたような偽物象牙とは異なり、材質はプラスチック(のようなもの)となります。偽物象牙の場合は、プレスで粗く型押しして、申し訳程度の彫りを加えてあるため、彫りの荒さですぐに見分けがつきますが、プラスチックの成型の場合は非常に緻密な"彫り"を再現することができますので十分な注意が必要です。

 下の写真をご覧下さい。

 一見したところ木刻の根付のように見え、雛鳥が卵を割って出てきたところを表現しています。柘植の表面に擦れた跡があり、江戸時代に実際に使われていたような使用感が観察できます。約3万円程度で某所で売られていました。

”欲しくないですか? 安くしますよ。1万円程度でどうでしょう?”

と声をかけられたらどうしますか?



      




 そんな文句に心を動かされた貴方、非常に
危険です。

 騙されてはなりません。これは、プラスチック製です。

 非常に精巧に出来ています。プラスチックの茶色の地肌が柘植の擦れのように見えます。墨で汚したような時代付けの埃(ほこり)の付着が、よくできています。プラスチックを成型し、時代付けをしたものと思われ大量に生産されたものです。プラスチックの成型技術を用いているのですから、おそらく昭和以降の時代に作られたものだと推測されます。

 最後に練り物の木刻根付の特徴と見分け方をまとめてみましたので、ご参考にしていただければと思います。


練り物の木刻根付の特徴と見分け方

特徴 その1 写真の地肌の色を記憶してください。不自然な色合いです。
柘植の擦れは更に上品な光り方をします。
特徴 その2 プラスチックの練り物は、本物の木刻のものより若干重いです。
注意していれば最初に持ったときの重さで気づきます。根付に対面するときは、最初に掌に転がすときの第一印象を大切にしましょう。
特徴 その3 プラスチックの地肌は、冷たいです。これは、プラスチックの熱伝導率が木材よりも高いためであると考えられます。唇に当てて温度を確かめる方法もありますが、それをやると骨董屋のオヤジに叱られますので、最初に掌でくるんだ時の印象を大切にしましょう。根付の世界も、一期一会です。
特徴 その4 彫りの面をよく観察しましょう。本物の木刻であれば時代による擦れは滑らかな面になります。しかし、プラスチックは100年経っても擦れが生じないため、鋭利な彫りになっています。もし、時代性と彫りの擦れがお互いにミスマッチであれば、その根付はかなり怪しいです。