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三穴型のちょっと変わった紐通し
三穴の紐通しが開けられている珍しい根付です。実用上紐通しを使い分けていたのか、それとも一旦開けた紐通しの位置が悪く別の紐通しを後に開けたのかよく分かりません。このような三穴の紐通しがある根付が時々あるそうです。
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無銘 大森彦七 5.3cm 18世紀 |
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金具の紐通し
紐通しは根付に穴が開けられるものとは限りません。写真の根付のように金具を付けて紐を通す方法もあります。
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紐通しの別の目的
私はこれを発見して、目から鱗が落ちる思いで頭がクラクラしたことがあります。
私は人物があぐらで座る一郎の根付を二体持っています。二体の底面はあぐらを組んだ足が描かれるどちらも同じ構図です。ある時、ふと両者の紐通しの位置や配置が異なることに気がつきました。
面打ち師の方はお尻の中央寄りの場所に、左右に分かれて開けられています。一方、猿回しの方は、おしりの縁の方に一穴と背中の側に一穴が縦の方向に置かれています。同じ構図であれば、紐通しも同じ位置に来るはずです。なぜでしょうか。
疑問は、猿回しの方の紐通しの中を照明付きのルーペで覗いてすぐに解けました。猿回しの方には象牙の黒い芯が垂直に通っていたのです。芯の部分を紐通しにそのまま利用し、黒い部分を穴の中に隠していたのです。それでは黒い芯はどこに突き抜けているのだろうかと猿回しの背中を見ると、なんと背中の上(紐通しの真上に位置します)には貝の象嵌がありました。象嵌で芯を巧みに隠していたのです。猿回しの衣装のデザインの一部と思っていたら、実はそんな工夫があったのでした。
面打ち師のように穴を左右に配置しても象牙の芯は隠せます。しかし、そうすると、紐通しの左右のバランスが悪くなると判断したからこそ、縦方向に穴を開けたのでしょう。何とも凄い一郎の技だと感心した発見でした。
(注)象牙の芯は、台上の玉獅子の底面でも観察できます。
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染めの前か後か
根付師の技に関してもうひとつ。紐通し穴の中を観察すると、染めの染料が付着しているものそうでないものの二種類があります。これは根付師の製作工程に由来します。紐通しを先に仕上げて染めを行った場合は、どす黒い染料が付着しています。逆に染めの後で紐通しを開けた場合は、真っ白な象牙や黄楊の表面が残っています。このように紐通しは、根付の作業工程を証言してくれるタイムカプセルでもあるのです。
なお、紐穴内部が新しい場合はちょっと注意が必要です。贋作者の中には18世紀型の紐通しに見せかけようとして、穴の形状や大きさを細工する人がいます。古い根付に見られる大きめの紐穴に似せたような彫った様な跡があったら、気を付けましょう。
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偽物香港根付の場合(形状、位置)
香港根付の紐通しには一定の法則があります。これに当てはまる根付は、九割以上の確率で外国製であり、しかも、材質は練り物であるおそれがあります。特徴をしっかりとおさえておくことが肝要です。
【香港根付の特長】
1.紐通しは背中の上部に開けられている。
揚げ物を提げるのではなく、携帯ストラップのように、
根付自身が釣り下げられるために開けられている。
2.穴の周辺は輪っかのような二重の円が彫られている。
一見したところ紐穴補強型の根付を模したように見える。
3.穴の形状や開け方は品性に欠ける。
”紐通し穴がちゃんとあるでしょう!これは本物の根付です!”と、
いかにも本物の根付を装うが如くアピールしているようです。
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偽物香港根付の場合(内部)
本物の根付には紐通しの中にも気配りがあります。ニセモノにはありません。
実用上の損傷を防ぐために、根付師は紐通しの構造に意を尽くしました。二方向からの穴が内部で「∧」状に交差すると、交差の部分が鋭利となり、紐が切れやすくなる原因となります。低級な根付は「×」状に穴を開けています。このような紐通しは、大量生産によりドリルで簡単に開けられた証拠で、論外です。
最も丁寧な紐通しは、内部で滑らかな「n」状になっていて、穴の奥で紐が擦り切れないように曲線構造とします。きちんとした根付師は、優秀な日本製品のように実用上の配慮をきちんとしています。作品にどれだけ意を尽くして製作を行ったかを知るには、隠れた紐通しの裏側の世界を観察しましょう
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