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第16回 分解!! 香港練物根付
平成15年10月12日



根付の真贋にトコトンこだわります。    

中国方面の外国製の偽物根付は、注意が必要です。氾濫しています。  
イミテーションならば、そのように正しく表示して、製造・販売すればよいのです。  
しかし、往々にして製作者は、”本象牙”として売られることを前提として模造し、偽銘を模刻します。  
さらに、卸や小売りの側も、素人が騙されることに期待して、嘘の表示で販売します。  
まず業者の側に一義的な責任があります。  
知っている人から言わせれば、これらは”空港土産”と呼ばれ蔑まれています。  

今回はその根付を解剖します。  

ただし、グロテスクです。  
根付を扱う心は、健康です。進んで壊したのではありません。  
手元にある香港ニセモノ根付が一つ。  
この堆積固化させた練材が、層の境目で剥がれてきたのです。  

自然に剥離してきたものはどうしようもありません。  
ネリモノの実態を知る絶好の機会です。  
我々根付コレクターのため、献体となってもらいましょう。  



                                                                  
大黒天が袋を持っていて、鼠が袋の入り口にいる図です。  
よく見かける図です。  

正面の遠目ではよく分かりませんが、、、  


、、、背後を見ると、典型的な香港根付の紐通しや  
香港根付特有の二色着色、香港模様が見て取れます。
  
底面です。
以前からひび割れは入っていました。
一見したところ、
象牙特有の時代性を証明するもののようにも見えます。
あるとき、大黒天の右足の内側が欠けてしまいました。 
白い部分がそれです。  
ひび割れに沿った欠けです。  
そして、、、
そのひび割れは突然大きくなりました。
象牙のような細いひび割れとは違います。
パックリと大きなものを飲み込むような地割れのようです。
象牙のひび割れではあり得ないことです。
  
と、触っていたら、突然剥離して、割れてしまいました。  
緑色のカビのようなものが見えます。
相当昔からヒビは入っていたのでしょう。  

それにしても、ひび割れにしては何か変です。  
ボンドのようなものでくっつけたような黄色い跡があります。  
それから、何か部品のようなものが見えます。  
何でしょうか。
  
”部品”を取り外してみたら、見事に分離しました。
時計のボタン電池のようなパーツが二個、 
きっちりと嵌め込まれていました。
  
別の角度からです。
写真で分かるとおり、パーツは大黒天の袋の円形の模様です。  
香港根付に見られる円形の模様は、なんと別のパーツとして作って、  
全体のカラダのパーツに嵌め込んで接着していたのです。  

流れ作業方式で作業効率が良く大量に生産できるのでしょうか。 
それとも、大きなパーツ同士を接着させる”つなぎ”の  
役割がこのボタンにはあったのでしょうか。
    
組み立て直した底面の図です。
最初の方の図と見比べてください。
袋の円形の模様のパーツが綺麗に抜けていることがよく分かります。  
香港の練り物根付の実態は、  
なんとパーツの組み立て式だったのです。 

このような円形の模様をパターンとして覚えましょう。 
同じ模様を持つ根付は、ほぼ100%練り物根付です。
  
他にも割れ目を見つけたので、剥がしてみました。  
こちらも接着の黄色い跡が見えます。
大黒天の体と袋をまるで病院の
三次元CTスキャンで断面を眺めているようです。  

面白いのは、紐通しの部分の断面です。
紐通しを加工するのは、機械を使用したとしても  
手間がかかるものです。しかし、このパーツ方式ならば  
ドリルで二カ所穴を開けて張り合わせれば一丁上がりです。
最後に分解されたパーツを組み合わせてみました。  
本象牙ではこのような分かれ方はしません。 
練り物を組み合わせて作った証拠と言えます。  

レジンなどの材料を圧縮固化させる練り物のため、  
圧縮層が剥がれてきたのでしょうか。  
それとも、一度剥がれた跡をボンドで補修したのでしょうか。 

あまり美しいものではありませんね。 
日本の本歌根付を模造した、敬遠すべき工業品です。

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