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第2回 根付の購入方法 =骨董市の考え方=
平成15年1月4日



 みなさんはどちらで根付をお買い求めですか?


 根付は、明治初期の開国直後や1970〜80年代の蒐集ブームを通じて常に価格は上昇してきており、同時に発掘され尽くされています。現在では、いわゆる"掘り出し"に巡り会うことはほとんど期待できず、良質な根付ほど、美術館や蒐集家のコレクションに収まってしまっています。よって、これから良い根付を蒐集するためには、相当のお金を積むか、または、できる限り多くの根付に出会う機会を確保しなければなりません。

 最近では、ヤフーを中心としたインターネットオークションに数多くの根付が出品されるようになりました。また、数は少ないですが根付専門店や街の骨董屋をマメにのぞいてみることも必要でしょう。(日本の骨董市場に占める根付の取扱高は微々たるものですので、専門店や取り扱っている骨董屋の数は非常に少ないです。焼物や刀剣といった他の古美術品と比較しても根付はマイノリティです。)もし、ステータスの高い根付を求めるならば、信頼のある海外のクリスティーズやサザビーズなどのオークションに参加することも可能です。手間暇を惜しまなければ、出会いの機会は沢山あります。

 そのような状況のなかで、一番ポピュラーでかつ基本的な根付蒐集の手段は、なんといっても「骨董市」で探すことでしょう。

 日本全国で定期的に開催されている骨董市は120以上あり、のみの市、ボロ市、骨董ジャンボリー、掘り出し市、アンティーク・フェア、骨董祭りなどと様々な名称が付けられています。また、骨董市も規模に大小があり、神社の軒を借りた数件程度の小規模な市があれば、広大なメッセ会場を借りきって数百店舗も並ぶ大規模な市もあります。骨董市では、思わぬ掘り出し物を見つけることもあれば、海千山千の骨董商の罠(!?)にかかり、とても怪しい品物を掴む危険もあります。

 私は骨董市の雑然とした雰囲気が好きです。最近、街の量販店に「ドンキホーテ」というチェーン店が人気があるようですが、あの雑然とした商品の陳列方法は、実は骨董市にヒントを得ているという話を聞いたことがあります。また、そもそも骨董といった定価のない世界であるので、多少の値引きは当たり前のように行われており、その駆け引きも骨董市の醍醐味の一つです。

 今回は、骨董市を活用した根付蒐集を考えていらっしゃる方のために、骨董市における根付の実態を報告いたします。先日開催された、国内で最大級の骨董市となる「東京平和島・全国古民具骨董まつり」(平成14年12月開催)に行って来ました。この骨董市を例に取り、骨董市で売られている根付の"実態"を明らかにしたいと思います。

 なお、結果に驚かれる方がいると思いますが、必要なのは「賢く骨董市を利用する術」であり、身構える必要はないと思います。後で述べるように、骨董市においても良質な根付は確実に存在します。掘り出し物を発見する醍醐味を味わいつつ、幸運を上手に自分に引き寄せられるよう、研鑽を積むことが重要です。(今回の報告はあくまでも特定の骨董市を観察した結果であり、他の骨董市にも当てはまることかどうかについては分かりません。)



                 
     <全国古民具骨董まつりの看板>         <会場の入り口>



<骨董市における根付販売の実態>

(1)骨董市の概要 =東京平和島・全国古民具骨董まつり」(平成14年12月開催)

 年間5回定期的に開催される骨董市で、国内では最大級の骨董市。出展する骨董商の顔ぶれは毎回大きく変化することはないが、古民具から洋骨董、着物等の様々な種類の骨董商が日本全国から並ぶ。開催場所は、東京都大田区平和島の東京流通センタービル内。

 今回の総出店数は224店。会場の入り口で、店舗配置図入りの「東京アンティークニュース」(全16ページ)の冊子が無料でもらえるのが嬉しい。また、受付で氏名住所を登録すると、次回の開催の案内をしてくれるサービスがあるので活用したい。

(2)根付の取扱いの状況

 224店舗中、カウントしたところ根付を取り扱っていたのは24店舗であった。全店舗のうち、約1割の店が根付を取り扱っていたこととなる。それらの店舗において展示されていた根付の概数を積算すると、合計720個の根付がショーケースや桐の箱、露台に置かれていた。(店舗の奥にしまわれている根付があるかもしれないが、そこまでは確認していない。)

 ある店舗では3点の根付のみがショーケースに並べられ、一方では、桐の区切られた箱に整然と100点以上の根付を並べている店舗もあった。総出店数で720個を割ると、
1店舗当たりの取扱い数は3個となる。このことから、骨董市においては必ずしも数多くの根付に巡り会えるとは限らないことが理解できる。出店が200店を超える大規模な骨董市は稀であり、50店ほどの骨董市が通常の規模であることを想定すると、我々がひとつの骨董市で巡り会える根付の数は、約100〜200個くらいだと考えておいたほうがよい。


 
      <根付を扱っていた骨董屋のひとつ>


(3)根付の質について

 今回確認することができた720個の根付のうち、材質の種類は、黄楊(つげ)等の木刻根付が約150個、鹿角根付が約70点、残りは象牙根付となり、こちらは500個と大半を占めていたことが観察できた。

 根付の質はピンからキリまであり、真剣に購入を検討する場合は、念入りにその"質"について観察をすることが必要であると思われる。その理由は、まず"象牙根付"のうち、本物の象牙の牙から彫られた根付であると確実に確認できたのは、わずか15点程度であったからである。すなわち、骨董市で売られている"象牙根付"のうち、わずか3%のみが本物の象牙であり、残りの97%が炭酸カルシウムなどの練り物根付となる計算となる。練り物根付の大半は香港製のいけないコピー品であった。

 練り物根付を扱う店舗は、それが練り物であると知っていて堂々と販売しているように思われる。彼らが古物商として根付を仕入れる場合は、根付が真性の象牙であるかどうかが価格判断の重要なポイントであるはずであるから、それが真性の象牙であるか、または練り物であるかどうかの”見分け方”を心得ているはずだからである。練り物を"象牙"と称して販売するのは問題であるが、何の表示もない根付を"象牙"であると勝手に思いこんで買い込む客の側にも問題があるかもしれない。骨董市では、自分の目で確かめ、さらに店の人に真性について確認する作業を怠らないようにしたい。

 もし運良く本物の象牙根付を見つけたとしても、まずは根付の材質に関する真贋を確認できただけであり、ようやくスタート台に立っただけである。その後は根付作品としての本来の評価を下さなければならない。つまり、構図や彫刻などの作品としてのレベルの評価である。3%の象牙根付から更に質の良い物を選ぼうとすると、その確率は格段に低くなることとなる。

(4)いわゆる"掘り出し物"について

 怪しい根付が大半を占めるなかで、質の良い掘り出し物も確実に存在する。これらの掘り出しが出来る醍醐味が骨董市にはある。今回は720点のなかから見つけた質の良い作品を3点紹介したい。(なお、"掘り出し物"の定義が案外難しい。個人間で根付の好みの差はあるだろうが、ここで紹介するのは、仮にきちんとした根付ディーラーで正当な評価を受けた場合、その根付の質において相当の価値があり、価格が合理的でお安いと判断されるものを載せる。)


-その1 "オランダ人宣教師根付"

 象牙の形彫根付、根付師は重正、両目には金象眼、若干の使用の擦れ、宣教師が座っている台に時代ひびがあるものの、珍しい構図、江戸後期の根付であり、ディーラー価格は数十万円クラスと予想されるが、売値は16万円。


-その2 "台の上の馬根付"

 象牙の形彫根付、無銘、台の上で馬が首を垂らして立っている根付。象牙の良い飴色が発色しており、時代は江戸後期。売値は3万5千円。値引きが上手くできれば、お買い得の根付。


-その3 "岩に腰掛ける羅漢根付"
 
 象牙の形彫根付。無銘で羅漢が半身をはだけて岩の上に腰掛けている図。18世紀の古い根付。根付の保存状態は中程度であるが、売値は12万円。大きく値引きができれば、かなりお買い得。


 以上より、骨董市において根付の掘り出し物に遭遇できる「確率の計算式」を考案してみた。
 "滅多に掘り出し物は出ない"と諦観をもって受け止めるか、それとも、"確実に金鉱脈(掘り出し)は存在し、私が掘り出すのを待ってくれている"と前向きに受け止めるかは、それぞれのご判断である。また、根付の趣味は個人個人で多様であり、かならずしもディーラーで評価される根付が良い根付であるとは限らない。自分のための一品を是非見つけて欲しい。


<骨董市における"掘り出し物"の存在計算式>
 

   掘り出しもの根付の数(個)=その骨董市の出店舗数×1.5%(〜2%




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