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第21回 ウニコールとセイウチの見分け方
平成15年12月20日


牙彫根付といえば象牙材のものが大半ですが、変わったところではウニコール(一角鯨の角)とセイウチ(海獣、海象牙)の牙彫(げぼり)もあります。それぞれ材質の特長を活かした面白い根付ですが、両者が混同されている例が非常に多く見受けられます。

ウニコールは上田令吉の『根附の研究』で紹介されているためでしょうか、”高価で貴重な物”というイメージが定着しています。このため、骨董屋やインターネットオークションでよく見かける間違いは、セイウチのことを"ウニコール"と称しているものです。彼らに知識がないのか、それとも知っていて意図的に虚偽表示をしているのか、まぁどちらかでしょう。

我々初心者であっても、材質の違いを一度踏まえてしまえば、両者の区別は容易につくと思われます。今回のコラムでは両者の見分け方について整理します。それぞれの材質に妙のある根付を楽しんでください。


ウニコール材とは

ウニコールは、一角鯨(イッカク、Narwhal)というクジラ類の角です。

ここでは”角”と書きますが、正確には雄の左上顎の長い牙です。左の牙が発達して伸びたものです。右側にも小さな牙が生えており、非常に稀ですが右側の牙も発達して両方から長い牙が生えた鯨が見つかることがあります。

ウニコールは、象牙や黄楊よりも大変貴重で、江戸時代には毒消しや難病の漢方薬として同じ重さの金以上の価格で取り引きされていました。そのような薬を根付として携帯することで、同時に薬を携帯するという一石二鳥の意味もあったようです。

江戸時代のウニコールに関する話や文献を集めたサイトがあるので参照頂きたい。

"ウニコール"とは、ユニコーン(=伝説の一角獣)から命名されています。ヨーロッパにおいても、ユニコーン伝説を元にして、北洋の船乗り達が持ち帰った一角鯨の角は、貴重品として王侯貴族に献上されたようです。現在でも欧米のオークションで一角鯨の角は、置物や美術品として高値で取り引きされています。
(写真に掲載した2.5mのもので約100万円値が付いています。)

角の長さは、成獣で1.5mから大きいものでは3m近いものがあるようです。直径は数cmから10cm以上になるものがあります。ただし、象牙の中心部の神経芯と同じようにウニコールにも中心を大きな空洞が貫いています。このため、象牙よりも形彫りのためにとれる部材は少なく、彫刻のためには直径が大きく、肉厚な部材が必要となります。

ウニコールの最大の特徴は、表面にあるその左まき螺旋状のひだ模様です。ウニコールをまねたフェイク根付には、このひだ模様を巧みに真似たものがありますが、その味のある独特の模様は人工的に彫刻して再現することは困難です。簡単に見破れます。よって、江戸時代の根付師には、材質がウニコールであることを証明するため、このひだ模様を意匠の中にわざと一部分残して彫刻した者もいます。

ウニコール材は貴重ですが現在でも手に入れることができます。カナダの原住民・イヌイットが政府の許可を受けて生活のために少数ですが捕獲を続けています。日本では居間の鑑賞用や彫刻用に切断して用いる方々が居ます。



一角鯨の牙(長さは約2.5mで根元の直径は約10cm)

セイウチの牙(頭蓋骨の骨格と牙)


両者の見分け方

両者の区別は簡単です。一度実物を見て観点が分かれば、間違えることはないでしょう。

まず、ウニコールは表面に左まき螺旋状のひだ模様があるか否かを確認してください。人工的なひだ模様を付けた象牙又はセイウチのフェイクをよく見かけます。江戸時代からそのようなフェイクはありました。明治時代に作られたフェイクもありますが、逆に明治時代には海外貿易により豊富に一角が輸入されたため、大量にフェイクがあるという状態ではありません。一度、実物のひだ模様をみてしまえば、それを人工的に作ることは難しいことが分かるでしょう。

一角は内部が中空構造であるため、四角い大きな彫刻材はとれません。根付を彫刻する場合はサイズに制限があるため、大きな根付は彫りにくい特徴があります。どうしても皮の部分を使用した平べったい根付か、または人物の長根付ということになります。

一方、セイウチ材は、結晶質の組織が内部にあるか否かで判断してください。一角の内部にはこのような組織はありませんので、一部でもそのような結晶質があれば、その根付はセイウチということになります。

なお、鯨類は象牙のような縞模様がないため、材質の内部だけでは判断が難しいです。一角の角、鯨の歯、セイウチの牙は、上記のような特徴がない場合にはお互いの識別が非常に難しいです。


一角(ウニコール)のひだ模様 一角の根元の部分
内部は中空構造となっている


ウニコールを使用した獅子根付
幅3.6cm 高3.6cm

(根元の部分を四つ割りにして使用している。ウニコール
であることを証明するためひだの部分を残している。)
ウニコールの輪切り根付
(一角の先端部を使用している)

ウニコールの輪切り根付
直径6cm
 非常に大きなウニコールを使用したもの


ウニコールを模したフェイク根付
(骨材のようなもの加工したもので、フェイクとしてはまだ簡単に見破れるレベルもの)


セイウチ牙を輪切りにしたもの
(中央部にセイウチの結晶質が見える)
セイウチ牙を使用した根付
(18世紀以前の古い狛犬根付で真ん中にセイウチの結晶質が見える)





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