<クイズの答え>
この根付は贋作です。私は完璧に騙されました。恥ずかしながら、買ってから長い期間、これが贋作だと気が付きませんでした。本歌だと長い期間思い続け、掌で転がして眺めて楽しんでいました。
贋作だと気が付いたきっかけは、”根付にしてはサイズが大きいな”とある時ふと感じたことです。写真を見てサイズはどれくらいだと思いましたか?
実はこの根付、高さが6cm、長さが5.5cmもあります。掌の中には収まらないジャンボな大きさです。写真ではサイズが書いてありませんので、分かりにくかったと思います。根付の大きさとして、一回りも二回りも大きく、これはあり得ません。通常の本歌根付の平均的な大きさを知らない頃の購入でした。これ以来、インターネットオークションで入札する場合は、普段は見落としがちなサイズに気を配るようになりました。
サイズの異常さに気が付いて、更によく観察すると、亀の顔の部分の作りが下手で、単純な三角形の形の中に両目と口を切っているだけです。手が滑ったのでしょうか。時々、彫刻刀がオーバーランした彫り跡も残っています。本歌の根付には、このように注文者をガッカリとさせる不良品はあり得ません。根付に関する書籍やカタログを眺めて勉強し、本歌根付の彫刻技術のレベルが分かるようになってから、これは確信的に分かるようになりました。
非常に驚かされるのは、慣れの出た、色艶の良い着色技術です。着色は人間が手作業でやっているのでしょう。着色した後、甲羅の端の部分などを磨いて”慣れ”を表現しています。手が込んでいます。裏面をよく観察してみると、「一貫」銘は電気コテで焼くか電動工具で書いたような形跡があり、また、甲羅の線も鋭さがなく、ひっかいたような線になっています。決定的なのは、親亀の腹の部分の甲羅模様で、非常に稚拙です。正面からしか見られないカタログや展覧会の写真から本歌の根付を写した証拠と言えるかもしれません。
最後に言うまでもないことですが、一貫の彫銘も本歌のものと全く異なります。銘(作者)も嘘ということになります。
とある骨董商で全く同じ贋作を見かけたことがあります。8万円くらいでした。
同じようなモノが大量に作られているのだと思います。
長い期間騙され続けたことと、高度なテクニックに呆れるばかりで、このときだけは贋作に対する怒りはなぜか起こりませんでした。
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