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第33回 根付鑑賞時のマナーについて
平成18年2月22日


 みなさんは、根付を仲間に見せたり、逆に見せてもらったりすることがあると思います。そのような時に注意すべきエチケットを提言したいと思います。

 骨董美術品の蒐集家のなかには、より多くの人にコレクションを見て欲しいと思っている人達がいます。その美術品の価値を一番に理解している蒐集家だからこそ、美の感動を共有したいと思っているのです。

 また、日本文化の発展・継承のためには、根付を含めた“国民的な財産”としての美術品を個人が押入れの奥に秘蔵するのではなく、より多くの人の目に触れてもらい、評価してもらうべきだと思われます。明治期には根付は捨てられるように海外に流出しました。17世紀や18世紀の古根付も海外に流出したということは、つまり、古い根付を評価して、明治期までの数十年から100年以上の間、大切に保存していた日本人が一部に居たわけです。しかし、日本人全体としては、根付を“国民的な財産”だと考えるまでのエネルギーはなく、やすやすと流出させてしまったのです。今後そのような過ちを繰り返さぬよう、鑑賞会や展示会などを通じて感動をより多くの人と共有することが必要だと思います。

 ということで、根付が鑑賞される機会が増えることは好ましいことなのですが、一方、蒐集家は、蒐集品を鑑賞してもらうときは、けっして乱暴に取り扱って欲しいとは思いません。鑑賞する時の手つきが怪しく、乱暴な人を蒐集家は内心ハラハラしながら見ています。根付の値段は様々で、数万円の作品から数百万円のものが並ぶことがあります。値札をつけて回覧すれば慎重に扱ってもらえるのかもしれませんが、それはできません。ということで、それ以降、その蒐集家は“今後、他人には作品を一切見せまい。”と決心してしまいます。

 “鑑賞にエチケットが必要なのは常識じゃないか!”と思われる人がいるかもしれませんが、現実問題としてその常識レベルには大きな個人差があります。その人は意図して乱暴に扱っているわけではなく、たまたまエチケットを知らなかったということもあるでしょう。

 以上のことを考えると、美術品に対するエチケットの個人差は、明文化された「共通ルール」で補うしかないのではないかと考え、『根付鑑賞時のエチケット集』として試案を取りまとめてみました。

 特段、難しい礼儀作法があるわけではありません。捉え方によっては不粋なルールですが、もし、ルールがあらかじめ設定されていれば、喜んで貴重な作品を披露したいという蒐集家が増えるかもしれません。また、鑑賞中に破損事故が発生した場合、その会合の運営者の管理責任が問われるおそれがあります。責任を問われないためにも、あらかじめルールを決めておくことが必要なことがあるでしょう。もし今後、研究会において鑑賞の場を設ける場合は、このルールに則って行われることとするなど積極的に活用されることを期待したいと思いますし、より良いルール作りに向けて自由闊達な議論も歓迎したいと思います。



PDFファイル(8.4KB)はこちらからダウンロード

『根付鑑賞時のエチケット集』
(平成18年2月策定、試案第1版)

1.基本的考え方





根付(ねつけ)は、文化的・歴史的に貴重な美術品であり、良好な保存状態で後世に伝え、継承をしていくことが必要であること。

同時に、根付の美術的価値、学術的意義、現代作家による創造活動、根付に対する一般の関心喚起等の観点から、鑑賞や展示、解説等を通じて優れた根付を広く紹介し、理解を深めることも重要である。


2.鑑賞の前に














鑑賞の際、袱紗(ふくさ。お茶道具を拝見するときに使用する布)などの敷布を各自可能な限り用意すること。用意していない場合は、根付が収納されている箱や他人の敷布の上で鑑賞すること。

飲み物の入ったコップなど根付を汚損するおそれのある食器を近くに置かないこと。
鑑賞時は万年筆や毛筆の使用は避けること。

会合の種類又は持ち主の希望によっては、眺めるだけの鑑賞のみを許している場合があるので注意を要する。また、直接触れられる事故を避けたい場合は、持ち主は透明のアクリルケースに入れて展示又は回覧する等の方法を考えることが必要である。

白手袋の使用は根付を落下させるおそれがあるので、避けること(漆芸、金工等の鑑賞時は除く)。


3.取り扱いの方法
















根付を箱から取り上げるときや手のひらに乗せるとき、箱に返すとき、次の人に回覧するときは、いずれも片手ではなく、極力両手を添えて慎重に取り扱うこと。(二本の指でつまんで鑑賞するのはタブー。)

万が一落下させてしまった場合でも損傷を避けるため、鑑賞時は根付を高く持ち上げないこと。目安としては、敷布の上空30cm以上には持ち上げない。

拡大鏡を用いて観察する場合は、レンズの硬いフレームを根付にぶつけないように注意すること。

蓋付きの鏡蓋根付や饅頭根付は、無理に蓋を開こうとしないこと。また、可動部分のある細工は無理に動かそうとしないこと。開いたり、動かしたい場合は、持ち主に相談すること。開いたり、動かされたくない持ち主は、口頭で周知したり、紐などで止める工夫をすること。

破損しやすい細密彫刻の部分、取れやすい象嵌細工の部分、古色がそのまま残っている染めの部分など、決して触れてはいけない部分があることに注意すること。


4.その他



本規程は、適用について鑑賞の前にアナウンスする等の方法により自由に使用することができる。



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