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第42回 根付の未来世界
平成19年3月22日




                いまから数年後、根付を取り巻く世界はどうなっているだろう。


昨年は、テレビや雑誌といったメディアへの根付の露出がとても多かった。
今後も根付に対する興味は増していくだろうし、
露出が露出を呼び寄せる傾向は続くだろう。

雑誌のインタビューで内田康夫氏が根付愛好家だと初めて知った。
有名人の”カミングアウト”は、今後も続くのだろう。

根付や浮世絵は、江戸時代のポップカルチャー(大衆文化)だった。
これらは既に海外に浸透している。
ポップカルチャーは、大衆文化。根付も、大衆文化。
だって、記録されているだけで2000名以上の根付師がいるんだもん。
一握りのエリート芸術家だけの排他的な工芸分野じゃない。
日本の職人、万歳!

根付は、明治時代からポップカルチャー輸出の先行ランナーだった。
今後は、キャラクタグッズ、アニメ、漫画、ゲーム、フィギュア人形、おもちゃ。
根付の後を追って、ますます海外に浸透していく。
外国に行けば、ドラゴンボールやピカチュウを知らない子供はいない。
ヨーロッパのアニメ番組の80%は、日本製だ。
ニッポンの表現力を侮る事なかれ。





日本の文化外交の強化について、いま、真剣に考えられている。
数年後には、

日本のポップカルチャーを世界に輸出しよう!

なんて公約を唱える政治家が増えているだろう。
ポップカルチャーオタクの総理大臣が誕生するとの極秘情報もある。
もしかしたら、ポップカルチャー推進議連なんて、できてるかも。


日本のポップカルチャーを語るなら、鉄腕アトムやドラえもんでなく、
鳥羽僧正の『鳥獣戯画』 や葛飾北斎の『北斎漫画』から話が始まるのだろう。
浮世絵が世界に影響を与えた話は、絶対にはずせない。

世界の国々で民主化がすすめば、国を動かすのは大衆だ。
その大衆の心に直接触れることのできる日本のポップカルチャーは、
とっても大きな力を持っているに違いない。

例えば、ふつうガイジンが、獏や麒麟、獅子といった動物キャラを知ってるか?
なかには、飛騨の籠の渡し、烏天狗、菊慈童なんていう
超マニアックな隠れキャラを知ってるガイジンもいる。

いい年したオトナのガイジンが、

音満の三人上戸の根付、Wow, it's Cool!!

とか

亮長の蛙、肌がリアルで格好良くてスゲーだろ?

なんていう会話を堂々と繰り広げている。
明治時代以降、根付がガイジンに与えた影響にはすっごいものがあるぞ。


日本のキャラクタ文化が世界に広まるにつれ、
根付に対する海外での高い評価が日本に逆輸入されるだろう。

日本人はいつも行動が遅い。金融投資もルール作りも何もかも。
それに日本人は、なぜかガイジンの評価に弱い。

うおっ!根付はこんなに面白いものだったのか!

みたいな感動を日本人に与えるに違いない。
ブレークの予感さえある。
ということは、コソコソと蒐集を楽しんできた人は、覚悟すべし。
ライバルが増えてくる。


良い根付は、どんどん海外の美術館に入っているだろう。
大英博物館、メトロポリタン美術館、エルミタージュ美術館、ボストン美術館、
ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館。
世界の超有名どころは、みんな、根付コレクションを収蔵している。
ガイジンのコレクションにもスポスポと納まってしまう。

日本の美術館は、完全に出遅れモード。
外国にキャッチアップしようとする日本の機関が出てくるかもしれない。
現代根付コレクションで勝負しようとする私設美術館も出現しているだろう。





ポップカルチャーとは、大衆による大衆のための文化。
個人が個人に向けた情報発信。
個人が表現したいことを自由に表現する。
アマチュアやファンが参加するもの。
遠く離れたどこかで、見ず知らずの誰かがそれを受け止める。
いま大流行のSNSやYouTube、ブログ、アバターも同じ。

根付に関することは、インターネットを通じて今後もっと情報発信されるのだろう。
プライベートコレクションを掲載した私的な出版図録も出てくるだろう。
比例して、雑多で怪しい情報や掲載物も増えてくる。
インターネットは便利だけど、すぐに情報が霧散しちゃうなんてこともある。

百の主張より、一の真実。
百の偽物より、一の江戸時代根付。

情報の編集担当が登場して、何が正しく、何が疑わしいのかについて
ちゃんと評価して、整理する仕組みが出現しているかもしれない。


コレクターは、もっとたくさんの情報や図録にアクセスできるようになる。
他人の色メガネの評価、先輩の指南、オークション価格に惑わされることなく、

これはいいね!

と個々人が素直に受け止められる作品が、好まれるようになっているだろう。

名工による百の作品より、一のこだわり根付。
今後も、18世紀京都スクール、浅草スクール、霊獣根付を中心に
注目が増していくだろう。マイブーム、万歳!





インターネットを中心としたデジタル技術が発展している。

根付研究の場は、リアル会議からバーチャル会議へと移行するのかもしれない。
会則やリアル会議に縛られる研究組織は、限界を迎えるかもしれない。

根付に関心を持つ人は、確実に増えている。
でも、スポーツもやりたいし音楽もやりたい。会社もあるし育児もある。
根付だけに精力を傾けられる人は、確実に減っている。
様々な趣味をちょっとずつアラカルトに触りたい人が増えている。

愛好家のための組織か、作家や業者のための組織か、研究のための組織か。
目的をフォーカスして、受け止める仕組みを考案しないと、苦しいことになる。

少子高齢化社会。

これは、人間が大切にされる社会。
人口が減るから、子供を増やすか外国人労働者を入れなければならない。
それができないなら、人間ひとりあたりの生産性を向上させる必要がある。
根付研究の生産性も、デジタル技術を活用して伸ばす必要があるだろう。





数年後、現代根付は、今まで以上の需要を獲得しているだろう。

タカラトミーの陶芸体験入門セットがバカ売れらしい。

今日からあなたもそば職人!

なんていう用品セットもホームセンターで売れているらしい。

根付製作の技術や道具も、もっと容易に手に入るようになる。
根付を作ることへの敷居は低くなっている。
根付師を目指す者は、今後ますます増えるだろう。

退職後はプロの根付師になろう!

なんていう人、どんどん増えてくる。
まさに根付はポップカルチャー!


今後はライバルが増え、競争は激化するだろう。
愛好家のテイストに合致しない根付師は、淘汰される。
型抜きの大量生産品は、難しいかも。
進歩しない作家は、飽きられる。
根付師の序列崩壊。
根付師の人格も観察されている。

これ全然つまらないね!

なんて評価、悪びれもなくブログに書かれる時代になる。

逆に、情報発信・収集の拠点を活用して、
切磋琢磨するスクールや作者は、どんどん評価されるのだろう。
インターネット上での自作根付の情報発信も、もっと一般化する。
他のクリエイターの作品を尊重できる作家は、尊敬される。
逆もしかり。

根付製作の敷居が低くなるということは、偽物も増加するだろう。

数年後には蒐集家をアッと欺くような、ハイレベルの偽物が出現するだろう。
フェイクへの監視を強化する必要がある。
チャイナ方面への『根付技術拡散防止条約』を締結する必要がある。
ニッポンの根付師も道を誤って偽物をつくらないよう
よくよく監視しとく必要がある。





ケータイ電話のデザインは、今までは画一的だった。
魅力の全然ない、素っ気ないただの電話箱。

でも、

他人とは違うものを持ちたい!

そんな欲求が、ケータイのデザインを劇的に進化させた。

今は店頭で、数十種類のカラフルなケータイが選べる時代。
auのケータイが、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションに入った。
すごい快挙。今後も進化は続くのだろう。

ケータイ電話のストラップも、ブレークした。
大のオトナが、キティちゃんのご当地シリーズのストラップをぶら下げている。
そんなケータイ文化が、日本から世界へ伝搬した。

他人とは違うことを、見せびらかしたい。

そんな欲求があったからこそ、ストラップは売れている。


日本人は、カラフルなラインナップのケータイで満足してしまうか、
それとも、もっと高級な”ケータイストラップ”が求められるようになるか。
個人の欲求は止まらないとしたら、次は現代根付の出番かも。

がんばれ、根付師!

なんて声がわんさと出てくるだろう。

ということで、
現代根付は、高額なものから普及版まで、幅広く提供されるだろう。
普段使いできる、手頃な価格が普及する。
古根付の無限の題材や江戸時代からの各種のエピソードが知れ渡れば
現代根付の付加価値も高まる。ブランディング戦略が重要になる。
セールストークにも使われる。


結局、日本人は、ケータイするものに“個性”を求める国民なのだろう。
携帯電話端末、財布、ストラップ、提げもの、根付。

ケータイするものを通じて、メッセージを発信する。
干支や吉祥題材、職業シンボル、願い事、蘊蓄、珍奇なものをさりげなく見せびらかす。
モノを通じて、他人とのコミュニケーションのきっかけとする。

ホンダのアシモ、しゃべる自販機、プリクラ、アニメのキャラクタグッズ。
日本人は、モノを介在させて他人とコミュニケーションすることが得意なのだ。
江戸時代の提物や根付も同じ。
日本人の能力は、歴史的・文化的な土壌に深く根ざしたもの。
今後もこの国民性は変わらない。

人間同士のコミュニケーションがうまくいかないから、世界で紛争が起こっている。
ならば、モノにしゃべらせればよい。
ロボットや、自販機、アニメ、キャラクタグッズがしゃべってくれる。
コミュニケーションの大切さに、今、世界が気づき始めている。
日本のモノの出番がやってくる。





明治時代に入ると、根付の目的が変わってしまった。
他人に見せびらかす対象から、個人の鑑賞対象になっちゃった。

3mの距離から見せびらかすキャラクタアイテムから、
30cmの間近で鑑賞する写実的な細密工芸。
表現力よりも、技巧主義。
しゃべりかけてこない超絶技巧細工。

今後は、もっとケータイのストラップや財布につけられる。
江戸時代のように、再び使用される時代がやってくる。
今度は、帯で提げものをぶら下げるのでなく、根付自身がぶら下げられるのだ。
ケータイと財布と根付、どれが主役か? なんて議論してる場合じゃない。
主役は人間なのだ。


もし、そんな時代になったら、根付誕生の秘密が解き明かされる。
根付は、使用者の個性を表現するキャラクタグッズ、ということ。
帯の上に鎮座することによる滑り止めとしての機能は、
江戸時代から、そもそも二の次ということ。

江戸時代に150年間続いた根付文化は、明治以降150年間のお休みだった。
江戸時代に普通にやっていたことを、現代人はようやく再開するようになる。
根付にとり、愉快な時代がまたやってくる。





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