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第45回 “根付のききて”の開設5周年を記念して
平成19年12月16日




 “根付のききて”と題するウェブサイトを立ち上げて、今月で5周年を迎えました。

 五年間にわたりウェブサイトを運営することができたのは、根付に関係してお世話になったみなさまのお陰であり、感謝を申し上げたいと思います。


 ウェブサイトを立ち上げた当時、世間は根付に関する情報が非常に少ない状況にありました。今でもそんな面がありますが、根付は一部の愛好家のみが秘やかに楽しんでいた、隠れた美術の世界でした。当時のインターネット・オークションでは、名品とチャイナフェイクが玉石混合で出品されていて、初心者にとっては辛く、また蒐集家や業者にとっては美味しい時代が続いていました。

 初心者にとっては、どの文献を手がかりに知識を取り入れたらよいのか分からず、また、根付を取り扱う美術商へのアクセスも分からなかったことから、必然的に、最初はフェイクを掴んだ人が大半だったと思います。日本では、根付の目利きであって世界で通用する価格観を持っている業者は、わずか片手くらいでしょうから、その業者にたどり着くのに苦労します。


 そのような状況のなか、参考文献やチャイナフェイクの見分け方に関する情報について、インターネットを通じて常時掲載できないものか、と考えていました。根付の世界では某熊本県在住の方が運営していらっしゃる老舗ウェブサイトがあり、熱心な愛好家であれば、数日に一度は訪れる有名な掲示板があります。所有作品の写真を掲示板に貼り付ければ、「根付作品集」として整理され、記録してもらえます。

 ただその一方で、書き込みの内容がウソかホントか分からず、また、時間が経過すれば消去されてしまう一過性の掲示板情報や匿名のブログ情報でなく、内容が正確で長年の閲覧に耐えられる情報も根付にはあるはずだ、と思っていました。それを思いのままに編集して常時掲載したいと考えて、生まれたのが“根付のききて”です。老舗掲示板と上手に棲み分けながら、根付の面白さについて、世の中に広く伝えることができたのではないかと思います。


 根付に関して伝えたい情報は、5年前も今も全く変わりません。

 重要なのは、根付の文献情報とフェイク情報です。特にチャイナフェイクは近年、技術が格段に向上してきていますので、最新情報が必要だと痛感しています。これらをコンテンツの中心として、根付のデジタルギャラリーや研究成果を書き記した「コラム」、リンク集などを載せています。

 お陰様で、5年間のウェブサイトのアクセス数は17万を超えており、一日あたりに換算すると、約100人弱の方にご覧頂いている計算になります。また、近年ではグーグルの“根付”のキーワード検索では、常に上位にランキングされています。根付を初めてお知りになった方の道しるべとして、お役に立てたのではないかと思います。


 ただ、5年前から変わらないことが他にもあります。

 愛好家は情報を受け取るばかりで、自ら発信しない層が圧倒的に多いことです。蒐集した作品は自分だけの秘やかな楽しみとしてしまい込み、表には出しません。根付に関して発見したことや疑問に思うことは、情報発信しません。なんともMOTTAINAI!

 ひとりの人間が頑張っても、発信できる情報量はせいぜい5割増しが限度で、2倍や3倍に増えることはありません。しかし、仲間が増えれば、容易に5倍、10倍に増えます。公開情報が増えれば、新たな発見や疑問点が等比級数的に増加して、根付に関して学会が成立するほど情報交換が活発になると思います。近年になってNHK番組や美術雑誌で根付が頻繁に取り上げられるようになってきましたが、受け身で与えられるだけではなく(そのような人を“ROM”(Read Only Member)と呼びます。)、自らも感じたこと、思ったこと、発見したこと、疑問に思うことを是非とも情報発信してもらいたい、と願うばかりです。


 さて、留学先の美術館で偶然に根付を見てしまったため、根付のことを知るようになりました。もし、根付に興味を持たなかったら、江戸時代の風俗や文化を勉強することはなかったでしょう。もし、骨董市に通わなかったら、骨董業者をよく観察することもなかったでしょうし、骨董・美術業界や博物館に関する書籍を100冊以上読了することはなかったと思います。

 これらに加え、根付に関する書籍やジャーナル、美術一般や江戸文化に関する書籍を加えると、ひとつの固まりの分野を自分のものにすることができたと思います。このようなきっかけは、美術館の東芝ギャラリーの展示であったり、根付専門ディーラーの助力であったり、先輩の指導であったり、仲間の励ましであったりと、助けられるところが大きく、感謝を多とするものです。

 今後、取り組みたいことは沢山あります。

 ウェブサイトの別館が作れるほどアイディアがありますが、自由になる時間が限られており、なかなか実行に移せません。国際的なコレクターの橋渡しができるあんな資料作り、根付に関する取引を円滑にするあんなシステムなどなど。某予備校の有名なキャッチフレーズに“継続は力なり”とあります。大好きな言葉です。ウェブサイト更新に時間を要する場合がありますが、この言葉どおりコツコツとやっていきたいと思います。




正一 玉獅子 19世紀中期 大阪
 

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