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日本経済新聞 2001年8月18日(土) 28面
オピニオン解説 (要旨)
●超高層ビルと都市再生  −景観に配慮、細心の計画を−

「都市再生」の追い風を受けて東京や大阪で超高層ビルの建築ラッシュが起きている。
しかし「超高層ビルは低層住宅の街並み景観に似合わない」と考える住民とあつれきが生じる例が増え、自治体の首長や議長らに陳情や請願が相次いでいる。
超高層ビル時代の到来に見合った都市計画制度に練り直す必要がある。
不動産経済研究所の調べによると、計画中のものを含めて2002年以降に完成する超高層マンション(20階建て以上)は首都圏で203棟、都区部で125棟。
都区部ではさらに数十棟のオフィスやホテル、商業施設などの超高層ビルが建ち、全体では200棟前後になる。
 
●相次ぐ建設計画

首都圏白書によると、バブル期を挟んで1984年以降の15年間に都区部に建った超高層ビルはおよそ410棟だったから、今度は、あのころをはるかに超えるピッチで超高層ビルの建設ラッシュが起きていることになる。
ところが東京都建築指導部によると、最近2、3年、建築予定地の周辺住民が陳情書や請願書を知事や区長、議会議長に提出し、建築計画の変更を求めるケースが急増している。「閑静な住宅地に超高層ビルが建つと街並み景観を壊す」「三味線と小唄の街に超高層マンションは不釣り合い」などといった趣旨である。
話し合いがこじれ、建築審査会に諮られたまま着工できないものや、区がデベロッパーに呼応して建設予定地にあった区道を廃止し、それに住民が反対して住民訴訟に発展した事例などもある。
 
●全体図を描き住民の声反映

なぜ、こうしたもめ事が起きるのか。
都市計画法は上地利用に関して用途規制をしている。
ところが低層住宅しか認めていない第一種低層住居専用地域や、低容積率の第一種中高層住居専用地域など、良好な住宅街の形成を想定した地域などに高容積率の商業地域が隣接するところがある。
また、道路幅との関係でビルの建て方(斜線規制)が緩和されたこともある。
容積率500%の商業地域にあっても、一定規模の用地を集約し、公開空地(くうち)を確保する総合設計制度を活用すると、実際には容積率800%の開発もできる。
それでも十分に超高層ビルが建つが、駐車場の大半や廊下、階段を容積計算から除外できる容積不算人制度を使えば、指定容積率500%の街並みに、容積率1000%並みの超高層ビルを建設できる。
こうして料亭の街に超高層ビルが計画され、呉服や履物、料理店のあるじが「情緒のある伝統的な景観を大切にしてきた街に超高層ビルはなじまない」と悲鳴を上げることになる。
都市計画には、都市全体を俯瞰(ふかん)した上でその地区をどういう性格の街にするのか、その場合に建物の高さは地区ごとにどの程度に制限するか..などを住民参加で決める地区計画制度がある。しかし実際に地区計画を導入するには、手間と時間がかかる。
 
●米、条例改正へ

そのため地区計画制度が活用されないままに容積率が緩和され、超高層ビル時代に突入してしまったというのが実情である。
それが陳情,「請願ラッシュの起きる一因になっている。
国際都市東京には自慢できる風景ではないが、国会議事堂を足元に見る位置に超高層ビルが建設されるようなことも、適切な地区計画があれば防げる。
都市計画上、どういう街にするかの意思表示をするのに、容積率制度だけでは不十分なのだ。
「都市再生」を訴える人々には、「摩天楼が林立するニューヨーク・マンハッタンのように東京を改造すべきだ」という主張がある。
その考えの是非に関しては、都市計画や都市経済学の研究者、行政担当者、市民を含めて十分に議論がなされてはいない。
しかし、はっきりしていることは、マンハッタンでも伝統的街並みが残るタウンハウス街や中華街には、摩天楼が天空を仰いで立ち並ぶ風景はないということだ。
ニューヨーク市は、61年以来初めて都市計画に関するゾーニング(用途規制)条例の大幅改正に動いている。
改正提案の趣旨は@高層住宅の建設にブレーキをかけるために、公開空地を使う割増容積率制度を基本的に廃止するAダウンタウン、ミッドタウンなどの摩天楼街以外では建物に高さ制限を設定する..など、容積率制度の大胆な見直しだった。
街並みやビルが描くスカイラインの美を重視することや、地域の個性と都市再開発を調和させることなどに、条例改正のねらいがある。
改正を提案したJ・ローズ都市計画委員会委員長は「容積率制度の想定をはるかに超える高さと規模の超高層ビルが乱立し、制度は時代遅れになった」と述べている。
 
●ツケは開発業者

ニューヨーク市のゾーニング条例改正提案に学ぶとすれば、東京都区部のどこを摩天楼街にするのか、ほかの地区はどういう街並み空間を想定し、それに見合った建物の高さ制限を導人するのかなどを研究する必要がある。
その際、住民が意見を反映できる制度を用意するごとが大切になる。
多くの場合、住民は「再開発に絶対反対」というわけではない。
実際、文京区音羽の高層マンション計画では住民の意向を酌んで地元の都市計画家が、また新宿区神楽坂で進む超高層マンションの開発をめぐっては東京大学都市デザイン研究室(西村幸夫教授)が、それぞれデベロッパーの採算を考慮した代替案を提案している。
突然、再開発計画が持ち上がり、住民が反発して話し合いがこじれて開発許可が遅れたり、最悪の場合、訴訟になって着工できなかったりして工事が1、2年もストップするようなことになれば、結局、デベロッパーの負担が大きくなる。
  
(編集委員 矢作 弘 氏)
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