紙 芝 居
アリゾウ

作 溝部京子 2002年8月


宮里新一の歌と生き方に心を動かされた大分県の小学校の先生が子どもたちのために紙芝居を作りました。
さあ、森の中の素敵なお話のはじまり、はじまり〜!


1.
南の島に、かわいいかわいいありさんが生まれました。
名前は、ありんちゃん。

ありんちゃんは、歌が好きで、お父さんとお母さんと歌を歌って、楽しく暮らしていました。
そして、ありんちゃんは、すくすくと育ちました。

ところが、

2.
9才になったありんちゃんは、突然病気になりました。
病院の先生が、こう言いました。

「これは、あらら病という病気です。ほとんど人にうつることはないし、いい薬もできて治るんだけど、傷口から、たまにうつることもあります。あらら病院に入れば、治す薬もありますよ。」

そのころ、あらら病になったものは、みんなとは離れて暮らさなければならないという決まりがありました。また、この病気のことはみんながあまり知らなかったので、とても怖い病気だと思われていました。

ありんちゃんは、よくわかりませんでしたが、ほかのあらら病のアリたちと同じように、病院に入ったのです。

3.
病院にはたくさんのアリたちがいました。中には、あらら病が恐ろしい病気と思われていたので、家族や親せきの人に迷惑がかからないように、名前を変えたアリもいました。

ありんちゃんの病気は、他の人よりも軽かったので、幸い12歳のときに治りました。
家に帰ったありんちゃんは、うれしくてうれしくてたまりません。だって、病院での生活は、さびしくて、つらくて、悲しい思い出ばかりだったのです。

4.
それから10年、ありんちゃんは、誰にもあらら病のことは言えず秘密にしていました。もし、自分の病気のことが知られてしまったら、いじめられるのではないかといつも不安だったのです。
そんなありんちゃんは、病気のことを隠して無理をして働いたため、また前と同じあらら病になってしまいました。
病院に戻ったありんちゃんの生活といえば、1つの部屋に8匹のありさんが暮らし、部屋の障子は破れ、とてもきれいとはいえませんでした。
ごちそうも食べられず、入院しているありさんの包帯を洗ったり、看護婦さんのお仕事まで手伝っていたのです。
ありんちゃんは、病院の中で、ときどき好きな歌をうたったり、うたをつくったりしました。
「私は、早く元気になって好きなところへ行きたい。好きなことをしたい。」

5.
仲間のアリが言いました。
「なぜ、ぼくたちは、外へも自由に出られないんだ。自分のことは自分で決めたいよ。ゾウに決められるなんておかしいじゃないか。こんなおかしい決まり変えようよ。みんなで力を合わせて、きまりをつくったゾウに会いに行こう。」

この森では、ゾウの決めたことはみんなが守らなければいけませんでした。ゾウは、大きくて、力も強く、とても怖かったのです。
でもアリたちは、自由になりたかったので、勇気を出していったのです。
ところが、ゾウは話も聞かず、長い鼻でふう?っとアリたちを、吹き飛ばしてしまいました。

6.
次の日、ゾウに吹き飛ばされたアリの友だちが集まってきました。

「みんなくやしいじゃないか。ぼくたちが何をしたって言うんだ。ゾウは自分の都合のいいことしか聞かない。小さな虫たちの言うこと、いつも聞いてやらないじゃないか。なのに、ライオンやとらの言うことなら聞いてやる。このまま黙って我慢するのか?」

「いやだよ。このまま我慢したらぼくたちは、ずっと我慢を続けなければならない。みんな、それでいいのか?」

「そうだそうだ。もう我慢するのはよそう。間違っているのはゾウの方なんだから。」

7.
アリたちのいかりを聞き、森の動物たちも集まってきました。

かめが言いました。
「ゾウは自分が一番えらいと思っているようだけど、ぼくたちの気持ちはあまり考えてくれないよね。そういえば、これまでぼくもおかしいなと思ったことがあったよ。ぼくたちも協力するよ。いっしょにゾウの所に話に行こう。」

森の動物たちは、あらら病のことをアリたちから聞いて、ゾウのおかしさに気づいてきたのでした。
さすがのゾウも今度は知らん顔をするわけにはいきません。みんなが聞いているからです。

8.
あれから4年、アリや森の動物たちが何度も何度もゾウのところに話に行き、やっとゾウも決まりを変えました。
それで、あらら病のアリたちは、病院から出てもよいことになりました。

ありんちゃんの友だちが言いました。
「ねえ。ありんちゃん、ぼくは、自由になれてとってもうれしいけど、今までいっしょに応援してくれた森の友だちができたこともうれしいよ。」
『そうだね。わたしもよ。』

他のアリたちも言いました。
「よかった。よかった。なんども死んでしまいたいと思ってきたけど。生きてて良かった。」

アリたちは涙を流して喜びました。

9.
さて、自由に森に出てよいことになったありんちゃん。でも30年も病院の中に入っていたので森での生活の仕方がわかりません。森でえさを集めたり、家を作ったりできるかな?自信がないな。怖いよお。森の動物たちがわたしのことを変な目で見るかもしれない。笑うかもしれない。いやだ。
ありんちゃんは、悲しい気持ちを歌にしました。

「わたしは小さな小さなアリ、
 わたしはいつも地面ばかり見てきた。
 でも、空が見たい。空が見たい。」

その歌を聞いた友だちが言いました。
『ありんちゃんの歌って、なんだか胸に響くよ。私まで、勇気が出てくるよ。みんなの前で歌ってよ。私が、コンサートを開くから。』

10.
そして、ありんちゃんは歌を歌った。
これまでの悲しい気持ち、迷っていた気持ち、苦しい気持ち、嬉しかった気持ち。
森の動物たちは、静かに聞いた。

「ありんちゃんの歌、素敵だね。素敵だね。これからも歌を歌い続けて。」

ありんちゃんは、みんなの言葉に少し勇気が出てきました。

「あきらめたら終わりだな。もう少しがんばってみよう。もう少しがんばってみよう。」 

おしまい



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