La Traviata

 

Musica : Giuseppe Verdi

Libretto : Francesco Maria Piave

 

2002年1月11日

オーチャードホール

 

藤原歌劇団新春恒例の『椿姫』を鑑賞。筆者が前回観たのは、確か1998年で、演出・キャストとも無論一新されていた。

今回の演出(今井伸昭)は、極めてオーソドックス。第2幕2場の「フローラの夜会」などでの群集シーンが混乱気味できれいに決まっていなかったことが多少気になったが、奇をてらわない演出には好感が持てた。

フェルッチョ・ヴィラグロッシによる美術は、秀逸で、視覚的に豪奢な気分を味合わせてくれた。装飾にアールヌーヴォー的な要素も感じられ、19世紀半ばを舞台としたデュマ・フュスの戯曲『椿姫』(原作)の時代設定とは少しずれるが、この程度の自由は当然許されるものだと思う。

さて、音楽に先んじて視覚的なことについて語るのは、若干気がひけるのだが、今回の公演で特筆すべきだったのは、ヴィオレッタを演じたチンツィア・フォルテの容姿の美しさである。若さ、華やかな美貌、すらりとしたスタイル、これほど視覚的にリアリティを持ったヴィオレッタを見るのは初めて。終幕でヴィオレッタがこときれる場面など、あたかも白い椿が落花したかのような優雅な美しさだった。

肝心の歌唱についてだが、こちらも合格点には達していた。いくぶんヴィヴラートがかかった発声が、気にならなくもなかったが、ヴィオレッタという難役(一幕では軽やかなコロラトゥーラ技法が必要とされながら、幕が進むに連れドラマティコな歌唱を要求される)をかなりよくこなしていたと思う。今後が大いに楽しみなソプラノを発見できた。

ヴィオレッタの恋人、アルフレードを歌ったのは、マッシモ・ジョルダーノという、ほんとうにデビューしてほやほやらしい、これまたすらりと背の高いなかなかのハンサムくんである。ジュゼッペ・ディ・ステーファノを思わせるテノーレ・リリコの美声で、やはり今後が楽しみになりそうだ。ただし、声による表現力、演技力ともにまだまだ未熟。ま、よく言えば純朴、悪く言えばあまり賢くない田舎のぼんぼんのアルフレードは、それなりの声とルックスと若さがあるテノールならば、地でいける役なのだが。

ふたりの仲をさくアルフレードの父、ジェルモンを歌ったのは、堀内康雄。バリトンにしては、いくぶん高めに響く音色の声で、ジェルモンの老猾さには、もう少し重みがほしかったところ。だが、表現力は三人の主役の中では一番で、第2幕1場のアリア「プロヴァンスの海と陸」は、印象深かった。

このジェルモンの存在感のおかげもあって、今回の”La Traviata”(既に多くの人々に指摘されていることだが、邦題が『椿姫』のままなのは、やはり問題だと思う。このオペラを通して聴けば、ヴェルディがオペラとしての題名を、原作の戯曲から変更させた意味がわかるはず)では、貧困からはいあがって高級娼婦になりながら、真実の愛に目覚めたヴィオレッタが、中流市民社会に敗れていく物語の構造がかなり明確になったと思う。ジェルモンの「子を思うよき父親・よき市民」という偽善の勝利があるからこそ、終幕でのヴィオレッタの ”La Traviata” 「道を踏みはずした女」という自覚とともにある敗北感が際立つのだ。さらにこのオペラが、ただのメロドラマのように見えて、実はすごみのあるところは、死を前にしてのヴィオレッタの嘆き・悲しみが怒りにさえ、転じる瞬間があるところ。すぐに恋人の将来の幸せを祈る健気な女に戻りはするものの、アルフレードに再会した直後にヴィオレッタが血を吐くように歌う ”Ah!  Gran Dio!  Morir si giovine,  Io che penato ho tanto!” 「ああ、神よ!この若さで死ぬなんて。私はこんなにも苦しんできたのに!」という部分にこそ、ヴェルディがこのオペラにこめたメッセージがあるのではないだろうか。

さて、最後になったが、指揮のステファノ・ランザーニ。ピアノとフォルテにめりはりをつけた色彩豊かな音作りは、評価できる。だが、テンポが速すぎる。時々、歌手がついていけなくなるのではないかと、はらはらさせられる部分があった。くしくもパンフレットに寄せた一文で武石英夫氏が嘆いている、昨今の若い指揮者の傾向をものの見事に披露する結果となったのである。カーテンコールで客席からブーイングもとんでいたが、たぶんこの点においてだろう。

それらの問題点を考慮しても、国内にいながらにして、一定の水準は満たしている歌唱と演奏、それにオペラならではの豪奢な舞台を味あわせてくれて、楽しかった。私立のオペラ・カンパニーでありながら、これだけの上演を提供し続けてくれる藤原歌劇団には、敬服せざるをえない。

 

 

揮 : ステファノ・ランザーニ

管弦楽 : 東京フィルハーモニー交響楽団

演出 : 今井伸昭

美術 : フェルッチョ・ヴィッラグロッシ

 

配役

ヴィオレッタ  チンツィア・フォルテ

アルフレード   マッシモ・ジョルダーノ

ジェルモン    堀内康雄

フローラ     河野めぐみ

ドゥフォール男爵   彭康亮

グランヴィル医師   三浦克次

アンニーナ      小林厚子

 

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