Musica : Wolfgang Amadeus Mozart
Libretto : Lorenzo Da Ponte
2001年11月20日
新国立劇場
ウィーン国立歌劇場との共同制作の、ロベルト・デ・シモーネ演出の「ドン・ジョヴァンニ」を観るのは、初演の2000年1月に続いて2度目。前回代役でタイトル・ロールを歌ったナターレ・デ・カロリスNatale De Carolisが今回はレポレッロにまわり、ドン・ジョヴァンニはフェルッチョ・フルラネットFerruccio Furlanetto。再演にもかかわらず、よくぞ大物を呼んだものだ。現在、世界的に決定的なドン・ジョヴァンニ唄いはいるのだろうか???状態だと思えるのだが、とにかくフルラネットが現役で最良のひとりであることは確か。
しかし、大物をひとり呼んだからといって、プロダクションが飛躍的によくなるわけではないということが、よくわかった。17世紀から始まって20世紀にまでドン・ジョヴァンニが時代を架けていくという演出のデ・シモーネのアイデアは悪くないのだが、衣装をとっかえひっかえすればよいものではないと思う。美しく描かれた書割を多用するのは、視覚的に楽しませてくれたが。
はっきり言って、フルラネットの巨大な声が突出してしまっていた。日本人歌手たちの水準がどうこういう前に、タイトルロールだけ別世界から来たような・・・。ま、ドン・ジョヴァンニを日常的な世界を撹乱する「訪問者」ととれば、それでもよいのかもしれないが。また、近年ヴェルディを歌うことがとみに増えてきたフルラネットは、モーツァルト歌うには、もう声が重くなりすぎたのでは?今年4月のサントリーホール・オペラでの「ドン・カルロ」フィリッポ二世役の素晴らしかったことを思い出すにつけても。
ナターレ・デ・カロリスの声の弱さは相変わらず。容姿はいいんだけどね〜。今回、ドン・ジョヴァンニより従者レポレッロの方が誘惑者に見えてしまったらどうしようと心配していたのだが、フルラネットはさすが貫禄を見せたし、カロリスは道化に徹していたので、杞憂に終わった。とにかく二人とも演技が巧いので、よい主従コンビでした。
他は全員日本人キャスト。全体的に日本の若い歌手たちのレベルが上がったのには感心させられた。もちろん前述したようにフルラネットの声が突出してしまうことは避けられないにせよ。初演に続いて、ツェルリーナを歌った高橋薫子が特によかった。カラヤン指揮の’87ザルツブルクの「ドン・ジョヴァンニ」のビデオで観られるキャスリーン・バトル以来のベストのツェルリーナだと思う。
それから、重ねて文部科学省に要求したいことは、一刻も早く新国に専属オケを置いてくれ!ということ。この迫力のなさでは、モーツァルトの音楽のデモーニッシュな感じが表現し切れない。
等々、思いつくままに勝手に感想・文句を並べたが、最後にクライマックスの地獄落ちについて。このプロダクション、この肝心のシーンがなかなかの迫力でよいのだ。もちろん、フルラネットの熱唱、熱演が大いに貢献しているのだが(昨年のデ・カロリスは演技力で乗り切っていた)、ここはもう文句なし。永遠なるものと真っ向から対決して、自らの欲望に忠実な自由人としての尊厳を守って地獄落ちするドン・ジョヴァンニに、心から共感せずにはいられなかった。
指揮 : ポール・コネリー
演出 : ロベルト・デ・シモーネ
管弦楽 : 東京フィルハーモニー管弦楽団
合唱: 新国立歌劇場合唱団/二期会合唱団
配役
ドン・ジョヴァンニ フェルッチョ・フルラネット
騎士長 彭康亮
ドンナ・アンナ 小濱妙美
ドン・オッターヴィオ 櫻田亮
ドンナ・エルヴィーラ 山崎美奈・タスカ
レポレッロ ナターレ・デ・カロリス
ツェルリーナ 高橋薫子
マゼット 久保田真澄