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フィガロの結婚
Le nozze di Figaro

Musica di Wofgang Amadeus Mozart

Libretto di Lorenzo Da Ponte

Opera buffa in quatto atti


2004年6月17日 東京文化会館

イタリア中部ウンブリア州スポレートといえば、ルキノ・ヴィスコンティが度々オペラ演出を担当した「二つの世界」フェスティヴァル Festival dei Due Mondi 、そして スポレート歌劇場 Tearo Lirico Spelimentale di Spoleto が毎年主催する「若きオペラ歌手のためのヨーロッパ声楽コンクール」が名高い。
1947年から続く後者は、コンクールとその入賞者による公演を通して、イタリア・オペラ界に多くの名歌手たちを送り出す役目を果たしている。ざっと名を挙げただけでも、フランコ・コレッリ、レナート・ブルゾン、フランコ・ボニゾッリ、ルッジェロ・ライモンディ、ジュゼッペ・サッバティーニらがスポレートから旅立っている。賞を与えるだけでなく、その後の舞台人としての教育もフォローするスポレート歌劇場の二十世紀後半のイタリア・オペラ界への功績は、大きい。

そんなスポレート歌劇場の「今」がいかなる状況なのか、興味があり、東京文化会館に足を運んだ。今回の公演に参加した若い歌手たちも、いずれは大スターに…?という期待を込めて。

まず、出鼻をくじかれたのは、序曲のオーケストラの演奏のお粗末さだった。私はそんなに多くのオペラ公演に足を運んでいるわけではないが、このスポレート歌劇場歌劇場管弦楽団の演奏レベルは、間違いなく、「最低」のそれだった。モーツァルトの書いた躍動感溢れるメロディはへろへろと覚束なく、あまつさえ、ホルンがとんでもない調子っぱずれの音を出すていたらく。イタリアの歌劇場のオケの水準は、大劇場とマイナーな劇場ではかなり差があるという話は聞いてはいたが…。

しかし、いざ第一幕が始まると、ほとんどが国際的には無名な歌手たちの個々の健闘が光り、若い「声」を聴くという面では、かなりの満足感を味わえた。全般的に、どの歌手もよく訓練された「ベルカント」の歌唱で、さすが年齢が若いだけあり、声が瑞々しい。
特に印象に残った歌手を挙げると、まず、アルマヴィーヴァ伯爵のロドリゴ・エステヴェス。この堂々たる声なら、むしろヴェルディ・バリトンに進んでほしいと思った。
スザンナのロベルタ・カンツィアンは細めの声ながら、第四幕の「早くおいで、美しい喜びよ」は、繊細で愛らしく、私が今まで聴いたこのアリアのベスト歌唱と言ってもよい。
また、脇役のバルトロのルチアーノ・グラツィオージも素晴らしいバスで、一幕のアリアでは客席から Bravo! が飛んだのも納得の立派な歌唱だった。

さて、出演者の中で唯一国際的名声のある若手ソプラノ、カルメラ・レミージョが伯爵夫人を歌ったのだが、彼女が実演では珍しいミスを犯してしまったことを書かざるを得ない。よく通り、よくコントロールされた美声で、ニ幕、三幕のふたつのアリアでは「さすが」と思わせられ、さらに気品のある演技も披露していたのに…。
第三幕、伯爵夫人とスザンナの「手紙の二重唱」で、それは起こってしまった。二人のソプラノが掛け合いのように歌いついでゆくうち、レミージョがトリルで歌う部分がまだ来ていないのに、早めに歌ってしまったのだ。順番が狂ってしまった所為だろう、次の一小節歌声が途切れ、どうなることかとはらはらさせられたが、何とか二人は持ち直し、或いはミスに気づいていない観客も多かったかもしれない。
しかし、はなはだしい失策であることに変わりはなく、聞いている側にとっても、ひじょうに残念なことだった。まだ二重唱が終わっていないのに拍手が飛び出すハプニングもあり、観客の側からもミスが出てしまったのだが…。

最後に演出について。衣装は特に奇をてらわない18世紀風、装置はいたってシンプル。特徴的なのは、「アマデウス」風の衣装を着た「黙役」が随所に現れ、日本の「黒子」のような役割を果たしていたこと。アリアの最中に動かれると少々邪魔なときもあったが、地味な舞台だったので、全体的にはほどよい彩だった。
第四幕フィナーレの歌手たちの動き(群集処理といってもよいかもしれない)が、演技・音楽共にアンサンブルがよく楽しかった。惜しむらくは、私の大好きな第三幕の六重唱がややまとまりに欠けていたので(主に音楽的にだが)、そこもこのくらいのアンサンブルをみせてくれればよかったと思う。

 

指揮 : アメデオ・モネッティ

演出 : ルーチョ・ガブリエーレ・ドルチーニ

管弦楽・合唱 : スポレート歌劇場管弦楽団・合唱団

配役

 アルマヴィーヴァ伯爵   ロドリーゴ・エステヴェス

伯爵夫人   カルメーラ・レミージョ

フィガロ   オマール・モンタナーリ

スザンナ   ロベルタ・カンツィアン

ケルビーノ   サラ・ビアッキ

バルバリーナ   ルチア・カーサグランデ・ラッフィ

バルトロ   ルチアーノ・グラツィオージ

マルチェリーナ   アレッサンドラ・アンデレエッティ

バジーリオ   テゥツィアーノ・アントネrッリ

ドン・クルツィオ   オレグ・ネカエフ

黙役   グルツィアーノ・シルチ


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2004年8月11日

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