Les Contes d'Hoffmann

ホフマン物語

音楽 : ジャック・オッフェンバック

台本 : ジュール・バルビエ&ミシェル・カレ

ギロー補筆(エーザー版)

 

2003年12月3日

新国立劇場

 

プロローグ〜オランピア

幕が開くと、青白い蛍光色のビールのジョッキの群れが暗い背景に浮かび上がり、酒の精の歌を歌い踊りだす。この「蛍光色」というのが、このプロダクションのビジュアル面でのキーで、以降も何度か衣装などに使用されることになる。なかなかファンタジーに溢れ、好調な出だしだった。
その酒の精を背景にミューズが登場し、友人ニクラウスとなり、恋に身を焦がす詩人ホフマンを彼女の側(芸術の世界)に取り戻す決意を歌う。
ミューズ=ニクラウスを歌う若いメゾ、エリナ・ガランチャはしっかりとした歌唱で、この上演に一本筋を通していたと言えるだろう。

彼女に見守られて、三つの恋を物語るホフマンを歌ったのは、ヤネス・ロトリッツ。よく声が出ていて健闘はしていたが、いかんせん長丁場の主役を張るには、一本調子。そして「詩人ホフマン」という個性的でいながら、ある種の象徴にまで高められた役になり切るには、表現力、演技力に欠ける。この役を歌うテノールが、ただ高い声が出ればよいというものではないことを痛感させられた。

同様に、顧問官リンドルフ他、各幕での悪魔役を歌ったゴードン・ホーキンスも、まったくの役不足。白いスーツに身を包んだ彼の巨体を見たときは、これはなかなかの悪魔ぶりになるかと期待したが、まず声が軽すぎる。パンフレットを見ると、バリトンだという。やはりこの役の悪意を表現するには、表現力に長けたバスでないと無理だろう。

ところで不思議でならなかったのは、ルーテル親爺の酒場の客達がピノッキオのような「つけ鼻」をしていたこと。私は3階席から見ていたのだが、何度も目をこすった。今でも見間違いだったのではないか思うほどなのだが、まったく意味不明のアイデアだった。
また、どたばたとしたバレエが全幕通じて、興ざめ。

さて、ホフマンの第一の恋、オランピアの幕。
演出のフィリップ・アルローのアイデア、デザインが一番光ったパートだった。ここでも蛍光色が多用され(特にパーティの招待客の蛍光イエローの衣装がファンタジック)、曲線を使った舞台装置も視覚的に面白かった。
オランピア役の幸田浩子の人形ぶりは、徹底的にキッチュ。円形の台に乗り、巨大なペチコートを広げ、くるくるとよくまわる。それより何より、彼女の軽やかなコロラトゥーラが実に見事だった。テクニック的に余裕があり、コケットもあり、まず申し分のないオランピアと言えただろう。
最後は、煙を上げ、がっくりと上半身を折り、カツラをとばしたが、これが衝撃的。今まで私が見たオランピアの「壊れ方」では、一番迫力があった。


アントニア

舞台は一転して、ダークな基調で、特に奇抜なアイデアもなかった。
この幕のヒロイン、アントニアは善良で家庭的な娘でありながら、心に芸術のデーモンを棲まわせるという、なかなか表現の難しい役どころ。アンネッテ・ダッシュは優等生的ではあったが、大健闘だった。よく通る美声で、歌を止めることの出来なくなるアントニアを熱唱していた。
この幕で、各幕で召使役を演じる高橋淳がピティキナッチョの滑稽なアリアを披露し、なかなかの喝采を浴びていた。私も楽しませては頂いたが、いささか悪ノリして品位を欠いていたのでは…?
アントニアの父親役のバリトン、大澤建の深々とした声が印象に残った。


ジュリエッタ〜エピローグ

この幕には幾つか問題点があった。
まず、演出が破綻をきたしていたのではないかと思えたほど、ごちゃごちゃと、まとまりがなかった。巨大なゴンドラが入ってくるところだけは、目を見晴らされたのだが、他はどうも雑然としているワリには平面的で、これといったコンセプトが感じられなかった。
そして最大の問題は、ジュリエッタを歌った佐藤しのぶの不調。他の女声陣がよかっただけに、彼女の声の響きの悪さが目立ってしまった。そしてこれは彼女の咎ではないにせよ、衣装があまりに悪趣味!

三つの恋を語り終わると、いったん幕が下り、舞台はプロローグと同じルーテル親爺の酒場に戻る。
飲んだくれて酔いつぶれたホフマンの前に、ニクラウスがミューズの招待を顕し、「男としてでなく、詩人として蘇えって」と壮大なフィナーレを歌いだす。ここといい、ジュリエッタの幕でのホフマンの傷心を歌い上げるコンチェルタートにしても、オケ、合唱共に厚みがあり、よかった。
幕が閉じるまでホフマンは倒れたまま不動で、三人の恋人達が彼に花を捧げていたが、これはホフマンの死を表わしていたのだろうか?演出家の意図は多様だろうが、ホフマンは恋と涙を糧にして、芸術家として生きてゆくはず、と思うのだが…。

指揮 : 阪 哲朗

管弦楽 : 東京フィルハーモニー交響楽団

合唱 : 新国立劇場合唱団

演出・美術 : フィリップ・アルロー

衣装 : アンデレア・ウーマン

 

配役

ホフマン : ヤネス・ロトリッツ

ニクラウス/ミューズ : エリナ・ガランチャ

オランピア : 幸田浩子

アントニア : アンネッテ・ダッシュ

ジュリエッタ : 佐藤しのぶ

リンドルフ/コッペリウス/ダペルトゥット/ミラクル博士 : ゴードン・ホーキンス

アンドレ/コシュニーユ/ピティキナッチョ/フランツ : 高橋淳

ルーテル : 康亮 


クレスペル : 大澤建

シュレーミル : 青戸知

アントニアの母 : 中杉知子

2004/01/02

 

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