トゥーランドット

(ベリオ版)

Turandot

Musica di Giacomo Puccini
Aggiunta di Luciano Berio
Libretto di Renato Simonie Giuseppe Adami
dalla commedia "Turandot" di Carlo Gozzi

2005年11月27日 藤沢市民会館・大ホール

よく知られているように、プッチーニは1924年「リューの死」まで書き上げたところでこの世を去り、オペラ『トゥーランドット』は未完の遺作となった。通常、我々が舞台上演や全曲盤として接するのは、弟子のアルファーノがプッチーニの遺したスケッチをもとに完成させた、いわゆる「アルファーノ版」であり、これが『トゥーランドット』決定版として、世界中から愛されていることは、既に動かしがたい。
今回、藤沢市民オペラの手により上演された『トゥーランドット』は、このアルファーノ版ではなく、イタリアの作曲家ルチアーノ・ベリオ(1925〜2003)が2001年に「リューの死」以降を新たに補筆、2002年にザルツブツク音楽祭で発表した、"半新作"ともいえる版であり、装置・衣装・演出付きの上演としては、今回の舞台が日本初演となったという。

そのような意欲的な試みをも併せて、藤沢市民会館で上演された『トゥーランドット』は、充実した、本格的なオペラ体験を味あわせくれるものだった。藤沢市民オペラは、既に20演目近くも制作しているそうで、いち地方自治体が、継続的にこのように水準の高いオペラを創り上げることが日本においても可能なのかと、瞠目させられた。

まず、市民会館のけして広くない舞台を使って、幻想の中国を創りあげた舞台装置・衣装と演出に拍手を送りたい。ステージの奥行きのなさを補うために、段差を効果的に用い、群集を巧みに処理していた。
指揮の若杉弘は力強く色彩豊かな音色をオーケストラから引き出し、しかも放埓に流すことなく、しっかりとまとめていた。合唱もアマチュアとは思えないほどのレベルで、熱唱・熱演を見せてくれた。
タイトルロールの渡辺美佐子、カラフの米澤傑は、このオペラに要求される強靭な喉をいかんなく披露し、繰り返すが「市民オペラ」でこれだけの「声」を聴くことが出来たとは、驚異的ですらあった。特に二幕の謎解きの場面の二人の掛け合いは、迫力十分。ただ、二幕のカラフの"No, no, Principessa altera…"をハイCに上げていなかったが米澤の力量では、十分可能なはずなので、残念に思った。また、リューの丹藤亜希子は、『氷のような姫君も』で素晴らしい歌唱を聴かせ、自害シーンは演劇的にも感動を呼んだ。

さて、「リューの死」に続いて、いよいよベリオの補筆部分に入る。アルファーノ同様、ベリオもプッチーニの遺したスケッチを元にしている為、おなじみのメロディも随所で聞かれたが、最も異なっているのは、アルファーノ版の(悪く言うと)仰々しい音作りが、抑えられたことだろうか。特に接吻の場面の後では、繊細で情景描写的なメロディが奏でられた。 アルファーノ版では、カラフに「敗北」して一気に弱々しくなったトゥーランドットという印象が強いが、ベリオ版ではもっと甘美な音楽が付与されている。今回の上演では、演出の効果もあったが、カラフに胸のときめきを覚えたトゥーランドットの心理描写が加わっている感があった。
フィナーレも、アルファーノ版の(リューの犠牲を忘れたかのようにも取れる)輝かしさとは対照的に、静かな余韻を残すものだった。今回の演出では、リューがあたかも昇天したかのようなイメージでフィナーレに登場し、おそらくこれはベリオが意図したところと一致しているのだと思う。


指揮 : 若杉弘

総監督 : 畑中良輔

演出 : 栗山昌良

装置 : 鈴木俊朗

衣装 : 緒方規矩子

管弦楽 : 藤沢市民交響楽団

合唱: 藤沢男声合唱団、湘南コール・グリューン他

配役

 トゥーランドット  :  渡辺美佐子

皇帝アルトゥム  :  河瀬柳史

ティムール  :  松尾健市

カラフ  :  米澤傑

リュー  :  丹藤亜希子

ピン  :  清水良一

パン  :  猪村浩之

ポン  :  湯川晃


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2006年1月1日

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