イギリス・ロンドンにある国立ヴィクトリア&アルバート博物館(National
Victoria and Albert Museum)で現在(2002年9月)、Cinema Indiaと題された展示会が開かれている。そこではポスターを中心に、本やブロマイドといったインド映画に付随するアイテムが展示されている。
新作封切りの都度壁面に貼られ、終われば剥がされてゆく、いわば一過性の存在であるポスターに的を絞ったこうした展示会は、インド・イギリス共にこれまで例を見ない。非常に画期的な試みである。 展示会の目的を、責任者ディヴィヤー・パテルはこう語る。 「映画の宣伝効果以外に、その時代の空気や世相といったものをポスターは何よりも雄弁に物語るからです」
こうしたポスターを見直す海外の動きとは対照的に、これまでのインド映画産業は、観客動員にあたって監督やスターのネーム・バリューばかりに重点を置く一方、ポスターなどといった宣伝、広報活動は軽視される風潮があった。 「広報をする系統だった方法すら存在していなかったのです」 『DDLJ』、『Asoka』、『Devdas』をはじめ250ものポスターのデザインを手がけたデザイナーのラフール・ナンダは言う。
しかし最近になって、その風潮が変わりつつある。 映画撮影前にスタッフやキャストを集め、作品のコンセプトを聞きながら広報戦略が練られたり、或いはポスター撮影のために海外に行くことまであるという。また、単に外部の広告を請け負うだけではなく、デザイン/CGのスタッフとして製作現場にも参加している。映画雑誌にはベスト・パブリシティー・アワード(最優秀広告賞)も設けられ、『Aks』や『Lagaan』、『Dil
Chahta Hai』を手がけたシムリット・バラールが受賞した。
こうした動きは、MTVやChannel Vといったテレビ局の影響が大きい。 これらのチャンネルで頻繁に流される、主にアメリカ発の質の高いビデオ・クリップと比べて遜色の無いビジュアルが、インド映画にも求められているせいである。才能溢れるデザイナーたちの力により、インド映画のヴィジュアル度数は年々、洗練の一途である。映画のポスターや看板も例外ではなく、ボンベイなどでは徐々にスクリーン印刷になりつつある。とはいえ、インド国中にある映画館は、未だに手書きの看板が大多数を占めている。映画館ごとに微妙に異なるシャー・ルク・カーンの顔を見比べる楽しみが失われてしまうのは、少々寂しい。
参考: ■『Front Line』7月19日号(02') ■『Outlook』9月9日号(02')
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