米大リーグに挑戦したヤンキース松井秀喜の1年目が終わった。日米のファンが注目をする中、開幕戦からワールドシリーズまで、中心選手としてプレーを続けた。日本を代表する長距離打者の“ルーキーイヤー”を振り返る。【野村隆宏】
ワールドシリーズの熱戦から一夜明けた26日。閑散としたヤンキースタジアムのロッカールームを、松井は荷物整理のため訪れた。段ボール箱の山に囲まれながら、まだ前夜の悔しさを引きずっていた。
「終わったことは忘れることにしている。でも、まだオフに入ったという気がしない。シーズンが終わって、ホッとしたという気持ちもありません」
マーリンズとのワールドシリーズ。第5、第6戦で、4番に起用されながら無安打に終わった。松井の心に残ったやるせなさは、活躍できなかったという結果のせいではなく、それが敗戦につながってしまったことにあった。チームに貢献できる選手であるかどうかを、自分を測る最大の指標としていたからだ。今季は活躍した試合の後、自分の打撃を「よかった」と振り返る時には必ず、「チームにとって」と言い添えてきた。
松井のメジャー挑戦は、イチロー(マリナーズ)ら他の野手の場合とは違う意味合いを持っていた。昨年は巨人で年間50本塁打。日本屈指のパワーが果たして米国で通用するのか。シーズン前、打率や打点よりも、本塁打数に注目が集まった。
しかし、日本と同じ結果を追い求めても困難であることを、松井は「予想をしていた」という。ホームラン打者というイメージに、こだわりはなかった。「本塁打が一番の貢献になるのかもしれないが、それができないなら、他のことで貢献したい」。無理に背伸びをするよりも、着実にチームの中に存在感を作る道を選んだ。「打撃だけでなく、守備も走塁も、野球のすべてが好き」と話す松井らしい選択でもあった。
不安をふともらすこともあった。7月にマイナーから昇格した耳の不自由な外野手、カーティス・プライドが活躍をした時のことだ。ハンディを克服したプライドを称賛した後「同じ外野手ですから、僕もうかうかしていられない」。日本では考えられなかったような、レギュラー争いへの強い意識がのぞいた。
「1シーズン、最後までベストを尽くした。それだけは自信を持っている」と自らを評価する。公式戦、ポストシーズンを合わせた180試合すべてに出場した。「ヤンキースのMATSUI」として定着できたことに一番の手応えがある。「勝利への貢献」という課題の前では、中距離打者への変身は大きな問題ではなかった。=つづく
◇松井の日米での公式戦成績比較◇
試合 打数 安打 二塁 三塁 本塁 打率 打点 三振02年 140 500 167 27 1 50 334 107 10403年 163 623 179 42 1 16 287 106 86
(毎日新聞2003年10月29日東京朝刊から)