マイアミ・キーウエスト<その2>



「キーウエスト」。 
スペイン語の「カヤ・ヴェスト(=岩礁と人骨の島)」が英語読みされて
「キーウエスト」と呼ばれるようになったこの島は、
マイアミの先、フロリダ半島を離れて南西に点在していく
「フロリダ・キーズ」と呼ばれる島々の一番奥に位置し、
かの有名な文豪、アーネスト・ヘミングウェイが
こよなく愛したことでも知られるアメリカ最南端の島である。 
パパたちの帰国まで「あと4日」に迫った今日の行程は、
朝一番でこの島の観光を済ませてから再びマイアミに戻り、
さらにその先にある「ボカラトン・リゾート」なる高級リゾートに泊まる予定。

朝8時、モーテル出発。
 まずは「サザンモストポイント」へと向かう。
「サザンモストポイント」は、その名の通り、「アメリカ最南端の場所」。 
でも、「場所」といっても、「日本最北端」の稚内や
「ヨーロッパ最西端」のロカ岬(←ちなみに、これはポルトガルにあるのでごじゃる)
みたいな立派な公園ではなく、海に面した道の曲がり角に、
「キューバまで90マイル(約120km)」って書かれた石塔が置かれているだけ。 
周りに土産物屋も一軒もないし、
モチロン、「アメリカ最南端到達証明書」なんつーものも存在しない。(←これまたちなみに、
稚内でもロカ岬でもしっかり売られている) とは言え、
ここはキーウエスト観光では欠かすことのできない「記念撮影スポット」。 
「最〜」が好きなのは洋の東西を問わないらしく、
日中はいつもツアー客などで混雑してるから、写真を撮るなら朝一番がオススメなのだ。 
でも、実際には、その先にある軍事基地が本当の最南端。 
「サザンモストポイント」は、あくまで「民間人が入れる場所」としての最南端だからね、念のため。 
仕事の時は、写真など撮っている余裕のないメーコも、
今日はパパ・ママと一緒に記念撮影。 
満面の笑顔でカメラに収まり、お次の見学地、「ヘミングウェイハウス」へ。

「ヘミングウェイハウス」は、アーネスト・ヘミングウェイの4番目の奥さん、
ポーリンと、2人の子供の4人が、1930年から1938年までの8年間暮らしていた家である。 
ポーリンがパリから取り寄せたシャンデリアや、
釣り好きだったヘミングウェイが使っていた釣竿、
愛用していたタイプライターなどが展示されており、
こちらもキーウエスト観光では必ず立ち寄る場所。 
ツアーに参加せずに個人で入っても、
「英語の分かる人」だったら係りの人が無料で案内してくれるよ。 
ちなみに、「入居料」は一人9ドル(約1000円)。
決して安くはないお値段なので、メーコはちゃっかりバッジを見せてガイドになりすまし、
「今日は3人ね」って言って自分の分は踏み倒しちゃった。 
これ、会社にバレたら当然「懲戒処分もの」だけど、
課長は直行便で行かれるとこしか行った事ないから、
ここまでは追いかけてこられないのだ。 
うひゃひゃひゃひゃ。

ダーリンの案内の下で30分ほどの見学を済ませた後は、
メーコが待ちに待っていた「世界で一番美味しいキーライムパイ」のお店へ向かう。 
「キーライムパイ」は、フロリダ・キーズの島々で作られているライム、
「キーライム」を使って作られたパイで、酸味の強いクリームがたっぷり入っている。 
甘いものは苦手のメーコだけど、キーライムパイは大のお気に入り。 
キーウエストの街中だったら至るところで売られているけれど、
ダーリン曰く、世界で一番美味しいキーライムパイは、
この「クロワッサン・ドゥ・フランス」なるお店のものなんだって。 
「ここのお店はね、キーライムパイはもちろんだけど、
焼きたてのクロワッサンも美味しいんですよ」ってダーリンが説明してたにもかかわらず、
パパったらまたまたいつもの調子で、
「おい!マサル! エクレアが美味そうだな!おい!」って言って、勝手にエクレアを買っちゃった・・・。 
あのねぇ、パパ。
エクレアは日本でも食べられるけど、キーライムパイはここでしか食べられないんだよ。
・・・って言おうと思ってたメーコの真横で、今度はママがフルーツタルトを買っていた・・・。 
突如として「聞こえないゾウ」に変身する課長といい、
パパ・ママといい、どーしてメーコの周には、こんなにも「耳の悪い人」がたくさんいるのかなぁ・・・?。
結局、「世界で一番美味しいキーライムパイ」はメーコ一人で堪能し、
ダーリンは、今日も朝から不機嫌になってしまった。 
黙ったまま車に乗り込み、来た道を再び通ってマイアミへ。 
さっきまでは曇り空だったのに、走り出したら一気に嵐のような大雨になってしまったお天気は、
紛れもなくダーリンの心理状況そのものであったのだろう・・・。 
「あと4日」だよ、ダーリン!

2日目の宿泊先は、マイアミから70マイル(約100km)ほどオーランド寄りに北上した場所にある、
「ボカラトン・リゾート」なる高級ホテル。 
マイアミでお昼ご飯を食べた後、当初の予定では、
世界遺産の「エバーグレーズ国立公園」に寄ってからホテルに向かおうと思っていたのだけれど、
余りのお天気の悪さに予定を変更し、
途中の「ソウグラス・ミルズ」にあるアウトレットでお買い物。 
ずっと探していた仕事用のベルトを見つけ、ダーリンのご機嫌もどうにか回復。 
・・・のハズだったのに、
ママとパパが買い物をしているのを待っている間に
食べようと思って買ってきたダーリンの大好物のソフトクリームを、戻ってきたママが、
「ママも食べたいわぁ」って言って横取りしちゃったんだよねぇ・・・。 
これ、メーコも経験あるけれど、
「楽しみにしていたもの」を食べられちゃった時の怒りって、ハンパじゃないのさ。 
ダーリン、余りの怒りに声も出なくなっちゃった。 
車の中で、パパが「ナイキ」のTシャツを1枚9ドルで買ったことを何度も何度も繰り返し話してたけど、
ダーリンには何も聞こえてなかったみたい・・・。 
はぁ〜っっ、また一人、「耳の悪い人」が増えちゃったよ・・・・。

「ボカラトン・リゾート」に着いたのは6時半過ぎ。 
ここ、普通に泊まったら1泊5万円近くするんだけれど、
今回はダーリンの知り合いのセールスマネージャーにお願いして、
ジュニアスィートを1万5千円にしてもらっちゃった。
しかも、「レイトチェックアウト」のオマケ付き。 
・・・プライベートの旅行をする際、持つべきものは「バッジ」と「知り合い」だねぇ・・・。
でもね、メーコも前に一度、ここにお客さんを連れて来たことがあるんだけれど、
一般的日本人観光客って、「究極のリゾート」に慣れてないのだ。 
このホテルも、プールはもちろん、敷地内にプライベートビーチありーのゴルフコースありーのと、
何でも揃っているのだけれど、周りにはなぁ〜んにもナシ。 
要は、「ここにいるだけで楽しめるリゾート」なのだけど、
「快適なホテルライフ」を楽しむのが苦手な日本人にはとぉ〜っても不向き。 
案の定、翌朝パパたちは時間を持て余し、朝ごはんを食べ終わった途端に、
「ここにいてもつまらないからもう帰ろう」って言い出しちゃった。 
「色んなお店も入っているし、せっかくレイトチェックアウトもできるのだからのんびりしましょう」って
言ってひとまず部屋に戻ったんだけど、1時間もしないうちに電話の嵐。 
よっぽど電話線抜いちゃおうかと思ったけれど、
部屋まで迎えに来るのは目に見えてたから諦めたよ・・・。

せっかくの「高級リゾート」だったのに、「ただ泊まっただけ」でチェックアウト。
 あ〜あ。 
ダーリンじゃないけど、もしパパとママがメーコのお客さんだったら、
絶対にもう二度と連れてこないね。 
それでもさ、パパが「早めに帰って家でのんびりしよう」って言ったから
何処にも寄らずにまっすぐ走ってきたのに、
「家まであと10分」ってとこになっていきなり、
「おい!マサル!そーいやオーランドの中心街をまだ見てなかったな!」って言い出した。 
眉毛を引きつらせたダーリンが、
「別に何もありませんよ」ってムッっとしながら答えたけれど、
「“何もない”っつったって、何かはあるだろう! せっかく来たんだから、
一度は見ておかなくちゃな!」って言って聞いちゃ〜いない。
そりゃー「何か」はあるさ、パパ。 
「一応」オーランドの中心街だからねぇ。でもね、パパ、ダウンタウンを見る前に、息子の顔を見てごらん・・・。
って、メーコは言いたかったね。 
・・・この時のダーリンの顔、「ママにソフトクリームを奪われた時」と同じくらいコワかったよ・・・。

人口150万人ほどのオーランドのダウンタウンは、マイアミのそれと比べると本当に「こじんまり」。 
ガイドブックには、「“チャーチ・ストリート・ステーション”とか“レイク・エオラ・パーク”が見ものです」
なんて書いてあるけれど、ダーリンの言葉通り、「これ!」といって見るべきものはないんだよねぇ。 
とりあえず、パパのご要望に応えて街中を一回りはしてくれたけど、
ハンドルを握るダーリンの顔には、
「早めに家に帰ってのんびりしよう」って言ったのは誰だよ・・・、
って怒りがありありと伺える。 
・・・お願い、パパ。頼むから、もう何も言わずに家まで帰ってね・・・、と願ったメーコがバカだった。 
街中のベトナムレストランで食事を済ませ、
車に乗り込んでから僅か5分。 
車内にパパの声が響き渡った。
「何かなぁ! マサル! “ダウンタウン”って言っても大したことないんだなぁ!  
さしずめアレか! 日本でいったら“地方都市”っつートコだなぁ!!」

「最後の一本」の血管が切れてしまったダーリンは当然無言。 
息子からの反応が得られなかったパパ、今度は後ろを振り向き、メーコにも同じ言葉をかけてきた。 
・・・パパ。 「さしずめ」でも「すし詰め」でも何でもいいよ・・・。 
お願いだから、パパのその口に詰めるものを探してきて・・・。 

成田を出発してから早7日。 
パパの言葉を、「寝たフリ」で無視してしまったメーコは、気がついたら自分も「耳の悪い人」になっていた・・・。

パパたちの帰国まで、「あと2日」である。


                                                              つづく



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