動のロスアンジェルス・その2

金運にも幸運にも上司運にも見放され、
さらなる一週間をロスアンジェルスで過ごさなくてはならなくなったメーコの悲運は、
ロスで迎えた2日目の朝から「雪ダルマ」式に加速を増していった。

この日の朝、「9月19日にならないと帰れない」ことを沈痛な面持ちで伝えたメーコに対し、
「メーコさんのせいじゃないし、19日になれば帰れるんだから」と、
理解があり且つ協力的なお客さんたちは、動揺の色を隠しきれないながらも一生懸命言ってくれた。
・・・うるうるうる。 
何て優しいお客さんたちなんだろう。 
金運にも幸運にも上司運にも見放されたメーコだけど、
「お客さん運」にだけは恵まれたよ・・・。 
と、ドン底の中で一縷の光を見つけたかのように感じていたメーコだったが、
次の瞬間、やっぱり奈落の底へ突き落とされた。

今回、参加者29名の中で最高齢の老夫婦が、
「薬がもうない」と言い出したのである。 
そして、その発言をきっかけに、
誰もかれもが「そう言えば私も、僕も」と言い出したのだ。
確かに、そう言われて思い返してみれば、
このツアーの参加者の平均年齢は「70歳を下らないだろう」というとぉ〜っても高いものだった。
 そして、サンフランシスコでもラスベガスでも、
食事が終わる度に全員が一斉にカバンをごそごそと弄り、
誰からともなく「メーコさん、悪いけど薬を飲むから水もらってくれるかい?」と
言われ続けていたではないか。 
さらに、その全員が見事に揃って上を向いて薬を飲み始め、
その姿を見たレストランの従業員たちが、
「ヘイ、メーコ。今回のツアーは何かの宗教団体かい?」と、
毎回口を揃えてフシギそうに尋ねていただろー。

その事実を、メーコが思い出した時には遅かった。 
29名のお客さんは、ホテルのロビーで大パニック。 
自分たちの血圧がいかに高いかを発表しあい、
狭心症には何が効くだの、リウマチには何がいいだのと、
医科大学の研究発表会でもここまでは白熱しないだろう、
というほどの騒ぎになってしまった。 
・・・イカン。 このままではこのロスアンジェルスで、
29回も葬式を出すハメになりかねないではないか。 
とりあえずリトルトーキョーに「西本願寺」の分院があるから
問題はないが(←今考えると、そーゆー問題でもなかったように思うけど)、
一日に2組葬儀をしたとしたって、単純計算で2週間はかかってしまう。
 ・・・イヤ〜ん、ジョーダンじゃないわ。
そんなんじゃメーコの帰国はますます遅くなってしまう。 
と、「薬物談義」の勢いに押されて動揺してしまい、
「とにかくでき得る限りの努力はしますから、
皆さん落ち着いてくださぁ〜いっっっ!!」と、
ロビー中に響き渡る大声で叫んでしまったメーコの血圧が、
今回の参加者の中の誰よりも高かったことは間違いなかったであろう・・・。 
マジ、血管切れるかと思ったよ・・・。

でも、その後一旦解散し、部屋に帰ったメーコは気が付いた。 
チョット待て。 そもそも「薬がなかったら明日にでも死んでしまうような人」たちが、
4泊6日のアメリカツアーに参加できるワケがないではないか、と。
そう気が付いた途端、メーコは元来の「地上最強の無責任野郎」に戻った。 
そして、「“でき得る限りの努力をします”っつったって、
何度も言うけどメーコは飛行機も飛ばせないし、
薬の処方だってできないもんねー」と、独り言を呟き、
お客さんには「支店で再度交渉をしてきますから」とか何とか言いながら、
同じくロスで足止めを喰らってしまっていた同僚の
Y加が泊まっているホテルに、意気揚々と遊びに行ってしまった。 
・・・図々しさも、ここまでくればホンモノだろう・・・。

が、しかし、この「お遊び」が思わぬ朗報をもたらした。
 たまたま、Y加が泊まっているホテルに詰めていた顔見知りのガイドさんから、
「ロス支店からの連絡で、たった今、
バンクーバーに停まっていたアリタリア機が離陸したらしい。 
そして明日は、90%以上の確率で、ロスの空港も再開されるだろう」という情報を聞いたのである。 
そしてさらに、「メーコさんのパソコンが使えなくなってしまったので
本人に直接連絡は取れませんが、どーせアナタたちは一緒にいるでしょうから」、
というご丁寧な前書きの後に、
メーコのお客さんの中で「最重要人物」であるA村の村長さんを、
明日のノースウエスト便で帰国させます、
というメールがY加のパソコンに届いていたのだ。
ハウ・ワンダフル!(=何て素晴らしい!) 
再び、一縷の光が灯ってきたではないか。

依然として、残された28名は19日にしか帰れない状況ではあったが、
とりあえず葬式の数が一つ減ったことに喜びを隠し切れなかったメーコは翌日、
意気揚々と村長を空港まで見送った。
 そして、全ての手続きを終え、残された28名の再予約の交渉をしようと
カウンターに戻ったメーコは、
予想だにしなかった更なる悲劇に突き落とされたのである・・・。
彼は、興奮気味にこう言った。
「メーコ!キミの残りのメンバーは今どこにいる??」と。
「へ?? みぃ〜んなホテルにいるよ。
だって、“19日でないと飛行機に乗れない”って言われちゃったも〜ん。
 でも、何でそんなこと言うのさ? 
そんなコトよりさー、何とか19日前に予約入れられないかなー?」、と
ノー天気に答えたメーコに対する彼の返事は、
足掛け10年に渡るメーコの添乗史上で、「絶対に忘れられない一言」の一つとなった。
「メーコ。 キミが今手続きをした1便には、70席の空席があるんだ」と。

70席の空席を残したまま離陸したノースウエスト航空1便を見送り、
空港からホテルに戻るタクシーの中で、
メーコが「28回の葬式を出す前に、自分の葬式を出してもらおう」、
と思ったことは言うまでもない・・・。
・・・何で全員連れてこなかったんだよ〜っっっ!!!

この夜、メーコは「本当に眠れない夜」を過ごした・・・。

さぁ! いよいよクライマックスだぁ〜!




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