激動のロスアンジェルス・最終編

決して自慢できるコトではないが、メーコの思考回路にインプットされた「後悔」という機能は、
30数年間の人生の中でまだ数回しか使われたことがない。 
自他ともに認める「歩く“結果オーライ”人間」だからして無理もないのだが、
自分で思い返せる限りでも、高校の時の世界史のテストで
「前202年の役で勝ったのは項羽か劉邦か?」という問いに対し、
劉邦だったような気がしながらも「項羽」と書いて大バツを喰らってしまい、
その一問を間違えてしまったために赤点になり、
「最初にちゃんと“劉邦”って書いたのに何で消しちゃったんだよ・・・」と、
家に帰るまで悔やみ続けた時と、
銀行員だった時に参加したクリスマスパーティーのジャンケン大会の決勝戦で、
「ぐー」を出すか「ぱー」を出すかで散々悩んだ挙句、
「ぐー」のような気がしていたのについつい「ぱー」を出して負けてしまい、
優勝商品だった香港ペア旅行を逃し、
「アタマでは“ぐー”って言ってただろがぁぁぁぁぁっっっ!!!」と、
翌々日まで悔やんでいた時くらいである。

そんなメーコではあるけれど、今回ばかりは本当に後悔した。 
よく、「歴史に“たられば”は存在しない」とか何とか言うけれど、
メーコの頭の中には今、鱈とレバーしか存在しなかった。
もし、お客さん全員を空港に連れてきてい「鱈」、
お客さん全員が空港にさえい「レバー」、今頃皆、祖国に帰れていたハズだ。 
「空席待ちのチャンスがある」ということに気づいてさえい「レバー」、
「ダメもとでもとりあえずやってみる」という添乗の基本姿勢を忘れずにい「鱈」、
メーコは今頃家でビールを飲みながら、
大好きな「世界不思議発見!」を見ることができたのだ・・・。   
がぁぁぁぁっっっ!!! 
何というミス。 
何という不覚。 
「項羽と劉邦」や「ぐーとぱー」どころの問題ではないではないか。 
一生悔やみ続けても、悔やみきれないほどの大ミスだ・・・。
・・・と、数年ぶりに「後悔機能」を作動させたメーコではあったが、
日の出とともにその機能は停止した。 
]・・・メーコの言う「一生」は、ウスバカゲロウのそれよりも遥かに短いのである・・・。 
うひゃひゃひゃひゃ。

そんなワケで、一晩ですっかり悔やみきってしまったメーコは、
この日から「空席待ち」のチャンスに賭けて、お客さん全員を空港に連れて行く作戦に出た。 
もちろん、確実に乗れる保証などは全くない。 それに、
例え幸運にも席が取れたとしても、メーコを含めた29名のうちの、
たった一人分だけかもしれない。 
正に、「運次第」の賭けである。 
それでも、ダメでもともと。 
上手くいけばラッキー。 
ただ単に指をくわえて待っているよりいいのではないか。 
それに何より、19日までの間にできるだけ、葬式を出す可能性を低くしておかないと。 
・・・と、さすがにそこまでは話さなかったが、
「空席待ち」というチャンスがあることを説明したメーコに対し、
お客さんたちも全員一致で運だめしの賭けに出ることに同意してくれ、
メーコたち一行は、すぐさま荷物をまとめ、一路空港へと急いだ。

ロスアンジェルスの空港は、70席もの空席を残したまま出発したノースウエストの1便だけならず、前日に飛び立った飛行機のその殆どにかなりの空席があったという噂を聞きつけ、
メーコたち同様「空席待ち」のチャンスに賭けようというお客さんたちでごった返していたが、
すかさず顔見知りの係員を見つけたメーコはカウンターへ大ダッシュ。
得意の、「キミとアタシの仲じゃんよ〜」作戦にかかったが、
彼は申し訳なさそうにこう言った。
「メーコ。君の力にはなりたいんだけれど、君も知っての通り、
航空券の優先順位の高いお客さんが先なんだ。
もう既に、個人客が47人も空席待ちをしてるから、
君のグループが乗れる可能性は殆ど無いよ」と。
がびぃぃぃぃ〜んっっっ! が、
ここで引き下がっては添乗員の名が廃る。 
せっかく全員空港まで連れて来たのに、
たった一人も飛行機に乗せられずにホテルまで帰れるか、っちゅーの。 
ンなこと言ったら、薬が切れる前にショックで死んじゃう人だって出てくるかも知れんだろー。 
ジョーダンじゃないぞ。 意地でも一人くらいは乗せてやるーーー!!

・・・と意気込み、メーコはノースウエストのカウンターマネージャーの下へと走った。
「ろーじゃー。 お久しぶりぃ〜。 こぉ〜んな大変で忙しい時に申し訳ないんだけどぉ、
メーコのお願い聞いて〜。 ホラ、あそこで待ってるじーちゃんばーちゃんたち、
みぃ〜んなメーコのお客さんなんだけど、全員ヨボヨボだし、
薬がなくなると死んじゃうかもしれないんだってー。 
だから、何とかして今日の飛行機に乗せて日本に帰してあげたいんだけど、

ろじゃーの力で何とかならないかなー。 
全員とは言わないけれど、何人かでも乗せてもらえたらメーコ、
ろじゃーのお願い何でも聞いちゃうよー」
・・・と、お客さんの中で誰か一人でも英語を理解する人がいたら
殴られそうな説明をしたメーコに対し、マネージャーのロジャーはこう言った。
「メーコ。本当に何でもするか?」と。
「え?? まさか“今日一晩付き合え”とか言わないよね・・?」と、
些かビビってメーコは尋ねたが、彼は笑いながら、
「あはははは。僕にだって選ぶ権利はあるからそんなことは言わないよ。 
君にしてもらいたいのは日本人の個人客への説明係り。 
彼らは英語を理解しないから困ってるんだ」、と答えてくれた。
「なぁ〜んだ、そんなコトならお安い御用だよ」と、
メーコは脳天気に答えたが、よくよく考えたらものすごい失礼なことを
言われていたのである・・・。 気づくのが遅い、って??

そして・・・
ロジャーの力添えによって、メーコを含む残された29名のうち15名が席をもらえ、
めでたく祖国へと帰ることができたのである! 
残されてしまったお客さんには大変申し訳なかったが、
メーコにとっては葬式を出す可能性が一気に半分に減ったことはとぉ〜っても嬉しかった。 
・・・とは言え、やはり残されてしまったお客さんの落胆の色は隠せず、
ホテルへ帰るバスの中で話し合った結果、
「明日もう一日だけ空席待ちをして、それでまた何人かが残されてしまうような結果に
なってしまったら、残りの人たちは全員一緒に19日に帰りましょう」、ということになった。

そして翌日。
残された14名の空席待ち手続きを済ませた後、
ロジャーの言いつけ通り、英語の分からない日本人の個人客との間に立って、
メーコは一生懸命通訳まがいの手伝いをした。
 自分の客ならともかく、見知らぬオヤジから怒鳴られ、
アーパーそうな子ギャルから文句を言われ、
何度ということなく「メーコ火山」を爆発させそうになりながらも、
「葬式の数を減らさなきゃ」という思いで自分を治め、必死で頑張った。 
]そして、そんなメーコの姿をロジャーも認めてくれたのだろう。 
この日、見事に「メーコを除く」、残された13人全員に搭乗券が手渡されたのである・・・。

喜んでいいのか嘆いていいのか分からないまま、
お客さんを搭乗口まで見送ったメーコに、13人の皆が涙を流してお礼を言ってくれた。 
そして、飛行機が飛び立ち、誰もいなくなった搭乗口にボーゼンと佇むメーコの頭の中で、
再び「鱈とレバー」が追いかけっこをしていたことは言うまでもない・・・・。

マジかよぉぉぉぉ〜〜〜〜っっっ!!

「今だから言える、テロ裏話編」へと続く。



メーコの旅かばんTOPへ