WISH
壁の外では 既に世界は存在していないかのようだ
忙しい日々に追われた挙句 寝台の中で時を過ごす
灼けつくような 喉の痛みは
医師が与えてくれた 呆れる程多量の薬と共に
次第に薄れてはいくが
身体の何処かに まだ熱を帯びた感覚がある
苛立ちと 性への渇望にも似た焦りが心を占めていく
囚われ 閉じ込められているような感覚
生きながら 葬られていくような感覚
自分にとって日常であった筈の世界から隔てられていく
高く 小さな天窓から 冬の陽が射し込むギャラリー
アートと並べてドラッグ、タトゥー、ピアシング、
セックス・ワークの本まで置かれたブック・ショップ
そして 今の自分に必要がある訳でもないのに
種々様々なコンドームが取り揃えられた店の中を歩く
片隅の棚に 奇妙なオブジェのように並ぶディルドー
HIVに関するパンフレットを痛む心と共に手にする
時を経て 身体の重荷は取り除かれる
トルコのポップ・スターが歌う甘ったるい声を聴く
苦味の強いコーヒーを飲み 辛いソースのパスタを食べる
日常の 1つ1つが蘇り 自分を取り巻く世界を取り戻す
しかし 癒される事の無い病と共に生きる
多くの友人達が存在する事も 知っている
信じる事を失いたくない
今もなお 希望と呼べるものが存在している事を
外の世界に向かって開かれた力が存在している事を