RETAIN
雨の降る夜 1人で海沿いの通りを歩いていた
1つだけ 自分に言い聞かせていた事がある
苦しい時は 苦しいって思っていいんだよ
それは間違ってなんかいない
生きていくのに大切な事なんだから
歩きながら そう自分に呼びかけていた
港に船が繋留されている
今はもう 何処へも行きたいと思わない
ここにいる その事の大切さを思う
出来ない事を 出来ないと言う事
嫌な事を 嫌だと言う事
そして 好きな事を好きだと言う事
それは とても難しい事かもしれない
でも とても簡単な事かもしれない
部屋に戻り パソコンを起動させると
デスクトップに南の島が浮かぶ
アイコンに触れ メールをチェックする
今はもう 何処へも行かなくていい
1人でここにいる でも1人きりじゃない
その事を知り始めている
晴れた朝 高層ビルの間を縫って歩く
青空に向かって伸びる 磨き上げられた立方体は
いつ見ても とても美しい光景だけど
昨年 海の向こうの都市で
同じような場所に旅客機が飛び込んだ事を思い出し
心が痛み 眼をそらしたくなる
何故人は 人を殺す事を止めないのだろう
でも 僕自身にも 同じ心が潜んでいる
人を憎む心 差別する心 傷つけ 苦しめる心
もしかしたら いつか誰かを殺す銃を持つかもしれない
そのような心も 潜んでいる事に気付いている
眼をそむけたい でも そむけてはいけないと思う
Retain one's rights
―権利(自尊心)を保有する―
辞書に 短くそう書かれていた
Retain one's rights
自分自身を大切にする事
他の人々を大切にする事
1番大切な誰かを 心から愛する事
それは とても難しい事かもしれない
でも とても簡単な事かもしれない
今ここにいる その事の大切さを思う
今ここにいる その事の重さを見つめる
もう何処にも行かなくていい
ここに自分のいる場所がある
その事を知り始めている