「“Hello,world.”」



(内包されたニトロの“牙“)

 本作品は、「Phantom of Inferno」「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」に続く、ニトロプラスの第4弾作品です。それ迄の作品で、ニトロは18禁PCゲーム業界にあるまじき「萌え」よりも「燃え」に重きを置いた作風で、コアなファンを獲得して来ました。明らかに他社とは一線を画し、「漢のニトロ節」「硬派のニトロ」路線を図らずとも貫いて来ました。そして、すっかりそんなイメージが定着した最中、ニトロフリーク達の前に突如として突き付けられた新作発表、それがこの「“Hello,world.”」だったのです。

 熱心なニトロファンのみならず、あらゆるPCゲームファンが驚いたものでした。「これが今度のニトロの挑戦なのか?!」と。そこにあったのは、これまでの作品群と明らかに差別化された萌え絵の数々。中には「裏切られた!」と早計したファンもいたんだとか。「あのニトロが今度は学園恋愛ADVに手を出した!」と衝撃を覚えたのは私も同じでしたね。あの初期情報ではそれも無理はなかったかも。まあ、それも徐々に公開された続報で大方のファンはそれだけではない事に気付いたのですが。

 ……前置きはこのくらいにして結論から述べますと、「ニトロゲームでしかありえなかった」のです。こんな作品、ニトロプラスにしか作れませんよ!つーか、ニトロプラスにしか許されない作品です。突如として繰り広げられる戦闘機同士のドッグファイト、プレイ中の私は「あれ?これって何のゲームだっけ?」と思わず我に返ってしまったほど。相変わらずファンすらはるか彼方に置いてけぼりにするほどの暴走っぷり。ニトロフリーク垂涎のカーチェイスやマニアック極まりない銃撃戦ももちろん完備しているのでご安心を。まるで士郎正宗の作品がごとき専門用語の洪水です。マゾッ気を兼ね備えたニトロファンには何よりのご馳走ですよね?

 一見しただけでは凡百の萌え学園恋愛ADV、しかし一皮剥けばやっぱりお約束の濃くて熱いニトロがギラリ。まんまと騙された人も分かってたけどあえて乗せられた人も、そろいもそろってニヤリ。やっぱり企画スタート時の意図はどうであれ、ちょっとやそっとでニトロの魂はその色を変えないようで。


(システムとかハード的な事)

 修正パッチ&修正インストーラーを当ててからでないとお話にならないのは、もはやお約束。度重なる発売延期を乗り越えた結果だけに、これは仕方ないのかも知れませんが、出来れば必要なくなってくれたほうが嬉しいですが。何もこれはニトロに限った事ではありません。ですが、発売後間もなくでVersion1.06にまで行ったのはさすがにどうかと。

 BGMやSEの完成度はやはり特筆物。物語の場面場面を盛り上げるのに一役も二役も買っています。やはりメディア作品における聴覚神経への訴えかけの重要度に、改めて気付かされました。この作品をプレイした人間なら、サントラが欲しくて堪らなくなるのは当然の現象。そちらも2枚組でたっぷりと楽しませてくれます。

 本作品はCD-ROM4枚組。当然そのシナリオボリュームは膨大。次から次へと大事件、全編山場の怒涛の展開なので「あっ」と言う間に時間は経過という中毒性ですが、やはり台詞送りは面倒なのものです。その点この作品はマウスホイール対応なので楽チンです。細かい点ですが、こういう気配りが出来てこそ名作が生まれるというもの。メッセージスキップもなかなかの速さなのですが、どうも既読と未読の部分が曖昧な所なのでは、「おーい、ここも飛ばして良いだろう?」と多少のストレスを感じてしまった。台詞ごとというよりは、シーンごとに判定しているのでしょうか?

 キャラの立ち絵のパターンもなかなかに豊富。ですが、それが切り替わる速さが少々ぎこちなくプレイ開始当初は感じてしまいました。そのために最初の内は何だか作品自体のテンポの悪さまでも危惧したものでした。今でこそ全く気になりませんが、「これで長いこの先大丈夫か?」なんて心配したり。所々で立ち絵ではなく、キャラのアイコン(ウィンドウ?)になるのですが(遠近法か?)、これが台詞を一区切りする度に消えてしまう。これはいただけなかった。そこにいるんだし画面スペースにも余裕があるんだから、消えないで台詞を表示して欲しかった。シナリオボリュームが長いからこそ、テンポには過敏なまでに気を遣ってもらいたい。

 声優も非常に豪華。海原エレナ栗林みな実鳥居花音こおろぎさとみ等々。演技力も折り紙付きのメンバーなので、違和感なく物語に没頭させてくれます。が、実は完全フルボイス仕様ではありません。男性キャラは一切喋ってくれません。こういった完成度抜群の作品だからこそ、完全を求めて完全フルボイスを実現して欲しかった……。


(僕はロボット)

 プレイしたみなさんはもうすっかりお馴染みですが、主人公・友永和樹はロボットです。プレイ開始当初は、それはもう、本当にロボットロボットしてまして、「この先ずっとこんな調子なら、テキスト読むの苦痛だなー」なんて勘繰ったり。ですがそれも絶妙なバランスでいつの間にか、すっかりそれにも馴染まされてる自分がいるのに気付かされるのですが。それはそうと、その最初の内のロボット臭さに関してもそうですが、「あー、自分がロボットになったら本当にこんな感じかもー」なんてしみじみ思ったりしました。こういう所も、上手いなー。

 最初は本当に赤ん坊のような主人公、周囲の事象のあらゆる事をスポンジが水分を吸収するかのようにどんどん憶えて行きます。感情の薄い無機質極まりない主人公が、段々と人間臭く(エロゲーの主人公向きな)なって行く過程もこの作品の大きな見所ですが、何ら面白味のなかった時の主人公も、実はADVの主人公向きだったのでは、とか思ったり。ADVゲームの主人公というのはあくまでもプレイヤーの代役であり、自らの意思をあまり要求されませんからね。こういった所まで計算されて「主人公=ロボット」が用意されていたのだとしたら、そこもまたやってくれたなー、と感心する事しきり。

 無機頭脳を持ち、「電覚」という能力でコンピューター及び電脳世界を自在に泳ぐ主人公。ですが、主人公は人間としてはまだまだアレなので、電覚を使ってピーピングしてますけど。や、別にエロゲー向きのネタでもないのですが、それはちょっとねえ。それでクラスタがまた活性化してるし。

 そのクラスタってのが面白い。“クラスタ”は人間で言う所の感情や本能のカケラみたい。それをいくつも同時に働かせる事で、主人公は同時に様々な事を処理出来たり考えたり出来るわけだ。主人公クラスタが活性化するという事は、興奮しているという事であり、「情報価値がさらに高くなった」とか生真面目に語ってるのは、「もっと彼女の事を好きになっちゃいました」って事。何だか微笑ましいなあ。ちなみにクラスタの最上級位は“論理クラスタ”で、人間で言えば“自我”に当たるのだとか。うん、哲学的だ。

 それにしてもプレイが進めば進むほどに主人公に感情移入してしまう我々プレイヤー、その主人公「人を破滅に導く」存在だったとは。主人公の衝撃と慟哭にシンクロしてしまいました。すっかり世俗を意識外に隔離するまでにこの作品に惹き寄せられていたのか、とそんな時に実感したり。何から何までニトロの掌の上で見事に踊らされてるなあ。


(とってもSFなんです)

 この作品の舞台はA.D.2020年。……結構近いですよね?それにしては現実の今に比べてかなーりSFです。どこかの某社の「さよらなエトランジュ」とは、エライ違いです。あっちの方がSFを意識してた割りには非常にこじんまりとしてましたが。あっちの作品が本当に目指していたのはこんな感じじゃなかったんじゃないかなー、とか。

 ハロワの世界はペットロボットが愛玩の主流となっている世界。それは携帯電話の代わり以上の性能で、生き物では利点も上手く機能しているよう。主人公も猿型のペットロボット「エテコウ」を持っています。このエテコウがまた愛らしい。猿嫌いの私もすっかりエテコウが欲しくなる始末。しかも物語の主人公のピンチの実に良い場面で活躍してくれたりします。思わず「エテコウ、キターッ!!」と絶叫してしまう。あ、でもその携帯電話機能ですが、どうやらこれは現代よりもなぜか退化しているらしい。だって、相手に通じたのに、どうやら全てが非通知みたい。「はい、○○ですが。どちら様ですか?」とか素で言われてしまう。今の携帯電話だって登録さえしてれば相手がわかるのに。何でだろ?これはさすがに確信犯じゃないですよね?

 庶民のお手軽娯楽乗り物としては、モバイルステッキがある。これは今で言うキックボードのモーターエンジン付きか?どちらかと言うとセグウェイ(ジンジャー)に近いのかも。あまり残念ながら効果的に作品中に使われる事はなかったが、映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のホバーボードみたいに印象的な小道具だった。こういった小さなアイテムへのこだわりが集まって、魅力的な世界観を生み出すのだろう。

 現代のインターネットは「グローバルネットワーク」へと進化し、世界はネットワークの恩恵なしには全くと言って良いほど機能しなくなった。これが後に物語中に大変な悲劇をもたらすわけだが、この事は現代社会が進もうとしている1つのルートへの警鐘なのだろうか。きっと、そうだろう。あまりに便利だからといって、その便利さに全てを頼り切っては末路はこうなりますよ、的な、ね。この作品中には、実はそういった感じのファクターが他にもいくつか内包されている。占いサイトに頼り、マインドコントロールの道具である“占い君”に人生を左右される人々の姿は、新興宗教に入れ込む人々の姿のようだ。バーチャルペットに心を奪われ、人間を愛せなくなったVIFCの連中もまた然り。ある意味ニトロプラスが自分で自分の首を絞めている気がしないでもないが(特にVIFCなどは)、伝えたいメッセージはプレイヤーにもきちんと響いて来た。

 オシリスが推し進めた“グローバルイルミネーション”「人類抹殺計画」だった(元々は「人類再生計画」だったらしいが)。主人公はその尖兵として作られたわけだが、人間社会への足掛かりとして送り込まれた主人公、この辺りのエピソードは、何だかかの名作「スナッチャー」を思い起こさせた。果ては火星を第2の地球とし、生身のオシリスまでもを生み出す壮大な計画。この世の終わりと始まりを告げる、考え、自己進化し、どんどんと賢くなって行くプタハ型ウィル、それがオシリス。人間が道具としてさらにさらに便利な物を作り上げて行く事は良い、しかし、その道具が人間を逆に道具にしようとした時、その時にこそ人間としての真価が問われるのかも知れない。


(サブキャラ達の事をいくつか)

 神田川代議士=悪の小物。なのだが、相当しぶとくて鬱陶しい。ちなみに名前は「むねお」。それだけ。やっぱりその元ネタはあの人か?

 純子さん=実はこの作品で一番私が好きなキャラ(ヒロイン?)が純子さん。とにかくカッコ良い。声が物凄く永島由子なのは気のせいか?あー、何で純子さんエンドがないんだろう!!トゥルーエンド以外では全く幸せな結末を迎えられない純子さん佐知美さんもだが)、特に久我山姉妹エンドでは悲惨過ぎ!!えちぃイベントが欲しいとは言わないが、あー、どうしても彼女と幸せになりたかった!!

 遥香=最初はただの店先のコンパニオンロボットだった彼女が、まさかここまで物語の中枢にまで絡んでくるとは、正直全く予想していなかった。やられたなー。ちなみに声優は栗林みな実、あの「君が望む永遠」役です。やはりよれん、その繋がりですか?車椅子だし。ルートによって武器が違ったり、スタッフに愛されている割りには遥香エンド以外では扱いが酷い物ですが。彼女と戦わなければならなかった主人公の苦悩は痛いほど分かります。3倍速で動く遥香“赤い彗星”か?!


(各エンド&ストーリーについてのコメント)

 奈都美エンド=ラストは和樹&奈都美の2人だけで宇宙に出発。いわゆるアダムとイヴエンド。あとは地球丸ごと全滅。「2人さえよければ全て良し」ではないが、何か釈然としない。とは言え、そんな2人にもこの先は不安しかない。

 奈都美トゥルーエンド和樹は死亡。他のみんなは大成功を収める順風満帆の人生。突如天才として覚醒した奈都は何と首相を目指す事に。後日談的には最も明確且つ大団円なラスト。さすがはメインヒロイン。

 薫エンド=何と個別エンドなのに和樹死亡。さすがは不幸を呼ぶ女。どうあっても幸せになれない人生のようだ。通「北斗の拳」エンド。荒れ果てた地球で人類は細々と暮らす。薫というキャラは、本当に各所でキレさせてくれた。特に後半の独断専行っぷりは目に余る。ハッキリ「嫌い」と言える。このルート、まさか野田にこんな見せ場があるとは思わなかったが、結局は彼女も佐知美さんも死亡。何のこっちゃ。

 薫トゥルーエンド和樹は死亡。にも関わらずはスカートをはいて心機一転、芸能界デビューを目指す事に。勝手にやってくれ。つーか、たかがそこそこの水泳選手でしかないがここまで各所でカリスマ視されているのはなぜだろう?そうでもしないと誰からも愛されないからか?

 千絵梨エンド帯刀の最期にグッと来た。いつの間にかせっかく生き残った両親も姿をくらましたのには心境複雑。最初は「愛欲アダム&イヴエンドか?」と思わせながら、イキナリの遥香率いるロボット軍団の襲来。勝算のない特攻を仕掛けつつも、和樹の脳内では千絵梨との結婚式が。個人的に、ニトロ史上最高のエンディング。これを観ただけでもこの作品をプレイした甲斐があった。これだからニトロファンはやめられない。

 千絵梨トゥルーエンド和樹は死亡。千絵梨は両親&執事とこじんまりとした暮らしを開始。やっぱり画家を目指すらしい。それしかないからなあ。やはりお嬢育ちらしく、かなり性格が悪かった千絵梨。声が鳥居花音でなければ愛せなかったかも。あの全く琴線に触れない駄洒落はキャラを立たせるためか?ハッキリ言って失敗だったな……。

 深佳エンド=かなりのクソエンド。生き残ったのは何と深佳ジャンク屋のオヤジのみ。直前までいた若佳菜を死なせた意味が理解出来ない。このラストで一体誰が納得する?!ジャンク修理屋になった深佳に修理を受ける和樹。いずれは復活出来るのか?実は和樹的にはトゥルーエンドよりよっぽど幸せかも。つーか、このルートでの純子さんの最期が脳裏に焼き付き過ぎ!純子さん、やっぱり貴女が一番佳い女でしたよ。

 深佳トゥルーエンド和樹は死亡。めでたく母・は復活を遂げ、勢い余ったのかまで誕生している。ここでの深佳は大人っぽいのだが、なぜかその後の集合絵ではまたロリっぽい。深佳ルートは実はメインヒロインの奈都美ルートりもえちぃシーンがずっと多く、3つもあったりする。スタッフの愛の差ですか?

 遥香エンド=愛の力で遥香の体内のオシリスを駆逐。これもちゃんとオシリス遥香“女”にしていてくれたお蔭です。地球上の生物は全滅。世界にはロボット兄妹が2人だけでぶらり二人旅。でもなぜスリランカを歩いてるのでしょう?

 若佳菜エンドハロワ最大のクソ&鬱エンド。和樹の隠し事によって若佳菜は撃たれて死亡。とんだトバッチリで深佳まで死亡。2人を「生命の電子化」するも、地球人類は滅亡。これでは2人がいずれ復活してもなあ。純子さんはロケット弾の一撃で物凄くあっさりと爆死。あとで生きていてまた助けてくれるのだろう、と期待してた私は憤慨しまくった。

 若佳菜トゥルーエンド=世界中に和樹がばら撒いた無機知能があふれ、これからの世界に期待させるエンド。めでたく復活し、新しい家族が誕生しているのだが、若佳菜「家族4人で」と非情なコメントを残す。過去にレズだった事が判明し、私の若佳菜への愛情は激減。裸エプロンのみの存在として落ち着いた。結局「年上の男」って誰だったの?着メロが「ヴェドゴニア」のOPなのはセンス良し。私と同じです。


(私の中のハロワの位置は)

 今回はえちぃもがんばってましたね。と、そんな事はどうでも良いんですが、「Phantom of Inferno」「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「鬼哭街」に続くさすがは第4弾作品。以前の作品を確かに昇華した上で超えていました。出来る事なら、この作品をプレイする前に、ニトロ作品を順番にプレイして来て欲しいところ。そうするとちゃんと進化の跡が見えるから。「あっ、ここ『鬼哭街』のあのテイスト!」なんてコアな楽しみ方も満喫出来たりします。こういった点から鑑みても、ハロワ脱線した作品ではなく、ニトロの正統なる継承者だった事が判明します。

 ホント、時間を忘れて楽しみましたね。途中までは「最高の作品を見付けた!」と狂喜してましたね、エンディングを観るまでは。ハッピーエンド至上主義を唱えるつもりは毛頭ありませんが、この作品のエンディングはどれもこれもそろいもそろって酷過ぎます。これがスタッフの回答ならば我々はそれを受け入れる事しか出来ませんが、余りにも悲劇的に過ぎます。後味が、悪過ぎます。これでは、私の最もお気に入りリストに加えるわけには行きません。確かに作品全体の出来は究極に近い物がありますが……「好みではない」、確かに私個人のワガママに過ぎないのでしょう。しかし、私はどうしても和樹を含めたみんながみんなで幸せになっている姿が観たかったのです。

 各トゥルーエンドのラストに出る一枚絵、「和樹に会いに行く」と言って集まったヒロイン達の集合CG。そこに和樹いませんでした。最初、その一言にどれだけ希望を覚えたでしょうか。しかし、裏切られました。「これのどこがトゥルーエンドなんだ?!」、今でもそう声を大にして言いたい。真のトゥルーエンドを無駄とは知りつつ探したいですよ。和樹の存在は早過ぎたのかなあ。ああ、こんな所で妙に現実的でなくても!「“Hello,world.”」と言うよりは、「“Bye−Bye,world.”」なんだもの、まるっきり。

 そんなわけで、私にとってのハロワは、「出来としてはとてつもなく素晴らしいけれど、何だかモヤモヤした物が残った作品」いう現段階での評価です。ああ、出来る事なら、「“Hello,world.”」の一言は、最初ではなくラストに聴きたかったよ。次に和樹が新生した時は、今度こそみんながみんなで幸せになれる世界を作っておくれよ。頼むから。



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