「学生運動の反省と展望A」
『九州大学新聞』第454号、1960年12月25日、第455号、1961年1月25日
 大藪龍介(前九学連委員長)


「注記
 ブント、全学連の分裂と混乱が深まっていくなかで、福岡ブント、九学連の指導部は、ブント戦旗派を構成したが、「反帝国主義・反スターリン主義」の旗印の下で、革共同全国委員会、マルクス主義学生同盟に接近し交流に踏み出して、新たなる発展の方向を求めていった。」

 1958年全学連14回大会における「学生運動の転換」は、従来の平和擁護闘争第一義主義から「階級的視点に立つ」運動への転換である。そしてその本質は、全学連がそれまで一貫して囚われてきた日本共産党路線からの解放、スターリン主義からの脱却にこそある。まさにこの点にこそ、今日の学生運動が、既成左翼からの非難攻撃の集中砲火を,なかんずく日共から「アメリカ帝国主義のスパイ」「トロツキストの挑発」等々の中傷と組織的弾圧さえも浴び、進歩陣営からつまはじきされる根本原因がある。

 1956年の全世界を揺るがしたスターリン批判、うち続いた東欧の動乱を契機として、レーニン死後の国際共産主義運動の腐敗、堕落の根源をなすスターリン主義と対決し,そのエセ・マルクシズムとしての虚偽性をあばきだすイデオロギー闘争を展開し、国内の勤評反対や警職法反対の大衆的盛り上がりのなかで既成の労働者諸政党の堕落、その前衛性の喪失をまざまざと体験した、革命的インテリ諸グループのなかで、公認の理論と行動にとってかわる「反帝国主義、反スターリン主義」の旗が、高々と掲げられた。日共の理論的支柱をなす一国社会主義、平和共存戦略のスターリン主義に直接敵対する永久革命としての世界革命というマルクシズムの伝統を受け継ぎ、世界帝国主義打倒のための闘いの過程でソ連圏労働者国家の官僚主義的歪曲をも粉砕せんとするトロツキズムを批判的に摂取しつつ、革命的マルクシズムの復活と現代的実現を目指した闘い、この反スターリン主義闘争の組織的体現が、共産同、革共同全国委、革共同関西派等の結成、いわゆる新左翼の登場であ〔……〕る。

 このような既成左翼の堕落、それにとってかわるべき真実の新たな前衛党の創造という焦眉の課題と、全学連がスターリン主義に対する戦いの巨大な前進のための第一歩を踏み出したという事情を正しく評価することなしに、今日の学生運動、安保闘争における全学連を正当に位置付け、また今後の前進を期することは決してできないのである。

 〔中略〕

 現在の全学連は、従来の反主流派、代々木派と革共同関西派との分裂に加えて、主流派が共産同プロ通派(全学連書記局中心)、共産同戦旗派(九学連等の地方学連)、革共同全国委派(マルクス主義学生同盟)に分裂し、これら各派の対立抗争中にある。しかもこれらの分裂の契機が、最も端的に代々木派が全自連を結成したように、自己の政治的党派の拡大のためには大衆組織の原則も踏みにじるという誤った戦術にあるが故に、簡単に「統一」を達成することは不可能である。

 現実にとりうる方向は、従来の小ブル急進主義的偏向を克服し、「反帝国主義・反スターリン主義」の基礎付けによって日本学生運動を主体的に前進させうる部分のイニシアのもとで、主流派の内部で反スターリニズム統一戦線を結成し、行動の統一と内部討論の自由の原則をつらぬきつつ、全学連の運動を進めてゆくことであろう。

 だが、そのためには、新たな前衛党の創造を目指す革命的マルクス主義者にとって、従来の学生運動の厳密な総括に基づき、プロレタリア解放運動と学生大衆運動の区別と関連をあきらかにする作業、すなわち、58年から今再び転機をむかえた学生運動の新たな指導理論の確立が追及されなければならない。

 今日、「前衛党の不在」ということが先進的労働者、インテリの間では、一つの流行語とさえなりつつある。安保闘争や三池闘争のなかで、赤裸々に暴露された社会党や共産党、総評等の既成公認指導部の指導性喪失、ここにこそ問題の一切の核心がある。全学連が、マスコミの「赤いカミナリ族」から共産党の「アメ帝のスパイ」までありとあらゆるレッテルを張られ、罵倒にあい、まったく孤立しながらも、安保闘争の果敢な闘いで明らかにしたものは、まさにこの既成左翼諸党並びに労働運動指導部のエセ革命性であった。

 かくして、全学連の運動は、腐敗堕落した既成左翼と決別した新左翼の登場(共産同や革共同の成立)による日本左翼陣営の再編成への胎動を告げ知らせる旗手として安保闘争に華やかな役割を果たし、文化=理論戦線の分解傾向と革命的左翼の創造への台頭を生み出した一役を担ったことを意味している。

 そして、新左翼のまったくの未成熟の故に小ブル急進主義にとりつかれ、数々の理論的実践的誤謬を重ねてきた全学連は、安保闘争が集結するやいなや分裂と停滞に直面せざるをえなかったのであるが、革命的共産主義者は挫折を単なる挫折としてではなく、日本における「反帝国主義・反スターリン主義」運動〔……〕の前進に不可避的に生じる試練の一つとして主体的に克服しなければならないし、そのことによってのみ、学生運動の真の発展と日本左翼陣営の再編成は切り開かれるであろう。