「思うこと」
昭和36年九大法学部卒業30周年記念同窓会『松原に』 1991年


 長いようで、またたくまに過ぎた30年でした。同期の多くの諸兄とは少し違った経絡を辿ってきたと思いますので、近況をしたためます。戦後復興の最終的な局面、反戦平和運動や労働運動の大衆的昂揚期に、われわれは学生生活を送りました。1980年の安保闘争、それに三池闘争がとりわけそうでしたが、わたしなどは学生運動に明け暮れ、わが青春に悔いなしの日々でした。

 それから30年、国内の状況も世界の構造も一変してしまいました。わが国は、驚異的な高度経済成長を続け通して「豊かな社会」となり、国際的にも経済超大国の地位に昇るまでになりました。他方、世界最強国にして日本のパトロンでもあったアメリカ合衆国は、70年代以後衰退が著しく、アメリカに対抗して戦後世界を二分してきたソ連も、特に昨年来急激な凋落と分解をあらわにしています。

 大きな夢を抱き理想に燃えて、当時勃興してきた反帝国主義、反スターリン主義の新左翼運動に加わっていったわたし自身についていえば、多くの苦難が重なるなかで挫折し、7年程前からは一大学の教官におさまっています。旧左翼から決別して新しい革命政党の建設を掲げる新左翼の諸セクトは存続していますが、内ゲバに象徴されるように、無惨な破産をとげたと断じるべきでしょう。

 理論研究に転身したのは30才をこえてからですが、この20年間の一貫したテーマは、スターリン主義によって歪められてしまったマルクス主義を再生させる一環としての、エンゲルス『家族、私有財産および国家の起源』に代表される従前のそれをのりこえた国家論の創造的建設です。マルクス主義の大きな弱点をなしてきた政治理論を根本からつくりなおすことです。安保闘争の数多くの集会でいつも呼びかけをしていましたが、その当時培った初心を今日にいたるまで、なんとか貫いてきたというところでしょう。これまでに、『マルクス、エンゲルスの国家論』(現代思潮社)、『近代国家の起源と構造』(論創社)、『現代の国家論』(世界書院)の諸著を公刊しています。 なにかのはずみに一覧してもらえると、嬉しく思います。

 すでにこの10年来、マルクス離れが時代の思潮でしたが、昨年からのソ連、東欧の「社会主義」の崩壊によって、それは奔流と化しています。白日のもとにさらされた「社会主義」諸国の圧制、特権、腐敗や停滞は、既存の「社会主義」の虚妄牲を見抜いて厳しく批判してきたわたしなどにとっても驚くほどでした。エセ社会主義としてのスターリン主義を最後的瓦解させたことにおいて、ソ連、東欧の革命は歓迎すべきものです。また、歴史の復讐として、抑圧と貧困の体制が社会主義と称されてきた反動で資本主義化の方向が強まるでしょう。しかし、現代資本主義が、したたかな生命力を保っているにせよ、地球の生態系を破壊し、巨大な南北格差を構造化し、いびつな豊かさのなかで新しい貧窮を生んでいるのも、事実です。資本主義体制も噴出するひずみを抱えこんで前途は暗く、行き詰まりが避けられないでしょう。マルクス主義そのものではなくとも、それを発展させた人間解放の新しい思想、運動、体制が新世界をひらく時代が、われわれの幾世代か後には必ず到来するでしょう。その折に受け継がれることを願いながら、国家論に領域をとってマルクス主義の新革命に微力を尽くそう、夢を追い続けていこうというのが、現今の心境です。

 堅いことを記しましたが、生活も結構楽しんでいます。40才になってテニスを始めましたが、年100回のペース、この年齢でなお、勤務する大学でトップの腕前です。同好の諸兄、テニスを楽しみませんか。

 大藪龍介