「あるべき労働者国家像の探求」
『出版ニュース』出版ニュース社、1984年2月上旬号


 このほど『近代国家の起源と構造』(論創社)を公刊した。マルクス主義国家論の定説として伝承されてきたエンゲルス国家論ののりこえを目指し『資本論』に学びつつ、近代ブルジョア国家の本質論的解剖に取組んだ研究書である。

 昨年はマルクス没後100年を迎えたのだが、マルクス主義が実践的にのみならず理論的にも重大な危機に直面していることは、今日ますますあらわになっている。その危機は、国家の問題においてとりわけ著しい。けだし、国家論のスターリン主義的歪曲 − 死滅せざる「社会主義国家」のイデオロギー − にとどまらず、またレーニン国家論の一面性にもとどまらず、マルクスに代わってエンゲルスが概説し、この一世紀間にわたってマルクス主義国家論の通説として公認されてきた国家論そのものが根本的な限界を背負っているからである。少なくとも国家論に関しては、マルクス主義は世界史を嚮導する役割を果す科学的な理論を、今なお築きえていないのである。

 こうした問題意識に立って、経済学での『資本論』に相当する近代国家本質論の創造的形成の作業を、更に進めていく一方、新たに、資本主義から社会主義への過渡期の国家たる労働者国家に焦点をあてて、レーニン以後のマルクス主義国家論の現代的展開の歴史の批判的考察に取掛っている。レーニンによる国家論上の最たる貢献は、コミューン型国家としての労働者国家の理論の展開にある。史上初のプロレタリア革命による労働者国家の建設に、ヨーロッパ革命からの孤立、ロシアの後進性などの予想をこえた厳しい諸条件のなかで立ちむかったレー二ンの悪戦苦闘を追思惟しながら、労働者国家の本来的にあるべき姿を理論的に究明したい。それとともに、その後のスターリン主義の成立過程を辿って、現在依然として支配的なスターリン主義国家論がマルクス主義の原則からの決定的逸脱であることも浮彫りにしたい。

 今日の世界史の現実によって要請されているのは、ユーロ・コミュニズム流の底の浅い”国家論ルネサンス”ではなく、根底的な”国家論の革命”である。こう、わたしは考えている。