「日本の社会主義100年を研究集会のテーマに」
 『社会主義理論学会会報』第57号 2004年10月24日


 他の事柄についてもそうですが、年に一度の研究集会のテーマついては特に、会員のなかで案を出したり意見を交わしたりすることがあった方が良いと思われます。

 実は、日本の社会主義の歴史が100周年を迎えていたので、一昨年、昨年と、日本の社会主義100年を研究集会のテーマにという意見を、事務局の山口さんに伝えたのですが、委員会で具体性に乏しいとして却下されたとのことでした。

 今回は会報に投稿して、あらためて、このテーマを提案します。

 昨年は、多くの社会主義者が協力して社会主義の啓蒙と非戦論の唱道をおこなった平民社が設立されて100年だったので、それを記念して、関係者ゆかりの各地で集会・講演会が催されたようです。私が住んでいる福岡でも、堺利彦出身の田舎町で講演集会が開かれました。一昨年には、日本最初の社会主義政党、社会民主党結成100周年で、社会政策学会がシンポジウムをおこなっています。

 社会主義の理論的研究を主題としている当学会としても、わが国の社会主義思想・運動が100年の歴史を刻んだ今日、タイムリーな取り組みがあって然るべきだ(った)と考えます。

 しかも、東欧・ソ連「社会主義」崩壊の衝撃をうけて、現在、日本の社会主義はかつてなかったほど凋落し、深刻な危機的状態に陥っています。昔日のような国家権力による徹底的な弾圧を被ってではなく、思想・運動の根幹の破産による自壊として。

 こうした社会主義の自壊的凋落の根本的な原因を歴史的に考察するという点からも、このテーマは刺激的で興味をひきます。

 日本の社会主義100年というのは、大変広大なテーマですので、取り上げるべき題財も数多く、人により問題関心は様々でしょう。いろいろな案があって当然ですが、今回は、T、社会民主党や平民社の初期社会主義によって日本の社会主義の原像を明らかにする、U、1920年代のコミンテルンの介入による日本共産党創立にともなう社会主義の分裂の歴史的意味を問う、といったところに論点を絞り、具体的な論目を定めたらどうでしょうか。キリスト教社会主義の流れ等、他にも取り上げたい題目があります。何回かのシリーズにすれば、充実した企画になるでしょう。

 いずれにしても、日本の社会主義に関する従来の通説の大幅な見直し、書き直しは必至になっています。

 講師・研究発表者については、学会の内外から適任の方を見つけるのは、難しいことではないでしょう。私案としては、上記のTに関しては、山泉進、辻野功、田中正人といった方たちのなかのどなたかに、Uに関しては、加藤哲郎さんにお願いしたいものです。

 省みると、日本の社会主義についての研究の欠落傾向は、当学会の弱点の一つをなしてきました。それを克服するということでも、このテーマを設定する意義があるでしょう。

 会員諸氏の意見と委員会での議論を期待します。

(大藪 龍介)