1.04年キリンカップに見るジーコジャパンのディフェンスライン (1)スロバキア戦 |
「ただ有明の」トップに戻る |
広島ビッグアーチは遠かった。そして、ジーコジャパンの守備の原則を探る旅も遠かった。 私は、不明にも、02年ジャマイカ戦、アルゼンチン戦では、ジーコのディフェンスラインはさっぱりわからなかった。、長居でのエジプト戦からトルシエジャパンのF3のエッセンスを抽出したごとく、宮本はどのようにジーコジャパンのディフェンスラインの骨格を見抜いていたことであろうかと考えたものだ。 04年に入って、ジーコジャパンの戦績が向上しており、これは、すでに、守備スタイルは完成の域に達しつつあることを示すのではないかと私は期待した。ジーコジャパンのディフェンスラインという設問に対する宮本の回答を見ることができるのではないか… この試合は、日本の気の抜けたプレーから始まった。 開始2分に放たれた遠藤のロングパスをアレックスは日本左サイドで左足アウトサイドでファンブルする。さらに、36分には中澤が宮本からの緩いパスを後逸しタッチラインを割ってしまうという凡プレーをしてしまう。かように、決して日本の戦意は高くなかった。それでも、開始当初は日本が攻め込んでいたのだ。 8分に日本は初めて、スロバキアに攻め込まれる。スロバキア選手が日本右サイドをドリブル突破する。TVで8分7秒の画面を見ると、ドリブルするスロバキア選手を日本選手がマークし、このスロバキア選手の進行方向に日本選手が一人カバーに入っている。その前方では坪井がスロバキア選手をマークしている。しかし、ドリブルするスロバキア選手と併走して中央を走る2人のスロバキア選手はフリー。ただし、この2人の間に日本選手も一人いて、どちらにも対応できるようになっている。日本左サイドにもスロバキア選手が走ってきているが、アレックスはほとんどこの選手を見ていない。この画面では、スロバキア選手5人に対し日本選手7人が写っているが、宮本と中澤は、あきらかに余っている。9分にも同じく日本右サイドをスロバキア選手がドリブルで攻め上がってくるが、その前方にいるスロバキア4番が後退を始め、4番にパスがでないとみるや加地はあっさりマークをはずしている。このシーンで密着マークをしているのは、パスの受け手をマークしている坪井だけである。縦パスが出そうな相手選手に密着マークする以外は、ボールを持っていない選手へのマークは極めてルーズである。 12分のスロバキアの攻撃が日本の中盤で終了した直後、中盤の日本選手はすぐに上がって行くが、最終ラインはすぐにあがらない。最大で約17mボランチとの距離が開く。プッシュアップや速い押し上げが、トルシエ時代ほど必要とされていないことを示すシーンである。この試合では、最終ラインがボールを回すシーンでは、最終ラインしか写っていないTV画面が極めて多い。 22分35秒スロバキア選手が日本右コーナーポスト際まで流れたボールをスライディングでひらう。坪井がこの選手をケアしにいくが、パスが出てしまう。宮本は43秒頃まで、スロバキア選手間で4回パスが交換されるが、そのたびに相手ボールホルダーとそれをマークする日本選手とゴールとの間に位置どりするように移動している。中澤は縦パスが出そうなときは密着マークしているが、相手が後ろを向き縦パスの可能性がなくなると密着しなくなる。この間22分41〜42秒頃に日本選手は5人でラインに並んでいる。宮本は少なくとも3回後方を振り返っている。ファーにスロバキア選手が一人フリーでいることと、ファーサイドは日本選手も余っていることを確認している。宮本は単にスペースを埋めているだけではなく、相手ボールホルダーと日本選手のマーカーのカバーに入っていることが分かるし、ラインになることが禁じられていないこともよく分かる。この試合では、むしろ、ゴール前では逆にラインが形成されているように見える。 30分福西、2人のスロバキア選手に囲まれて、ボールを奪われる。ボランチの位置での予期しないボールのロストである。ボールホルダーを含め3人のスロバキア選手が併走してくる。日本3バックは当初、3対3のラインで下がっていくが、相手に対応しているのはボールホルダーに対する宮本のみ。途中から坪井は右サイドを走り込んでくるスロバキア選手を捨てて、真ん中に絞ってくる。横パスなら、出されてもかまわないとし、相手ボールホルダーに対して数的優位になることを優先していることを示すシーンであり、トルシエ時代とは守備の優先順位が明らかに違うことを示すシーン。トルシエ時代なら、スロバキア選手全員を1対1でマークしていたと思われる。 ジーコジャパンのディフェンスラインでは、相手ボールホルダーに対する数的優位を作り、常にカバーの守備選手がいる状態にして、1対1のマッチアップは極力避ける。ボール奪取のポイントは、ボールホルダーのパスコースを防ぐことによるインターセプトを優先する。このような守備であれば、トルシエ時代に比べ必然的にDFの体のサイズは必要性が低いとみなされていると思われる。 34分日本右サイドを攻め込まれる。宮本は坪井のカバーから、スロバキア選手がパスを出すと、パスを受けた選手をマークする加地のカバーにはいる。このとき、パスを出したスロバキア選手はフリーになるが、宮本がこの選手のマークにつくと、福西が今度は宮本のカバーにはいる。このあと、日本左サイドにパスが出され、スロバキア選手との1対1を中村が制するのだが、映像では、このとき中澤がゴール正面中央で、相手選手のマークを捨て中村のカバーに入り、中澤のしていたマークは後方から来た日本選手が引き継いでいることが分かる。 宮本は加地のカバーに入ったときには、同時にスロバキア選手のマークもしているように見え、1人で複数の仕事をしているようだ。また、宮本、福西、中澤の動きを見ると、マークの受け渡しよりも、カバーが流れるように受け渡しされていることが分かり非常に組織だった守備であることがよくわかる。 後半18分宮本と田中とスロバキア選手2対2のシーン。中澤のカバーへの入りが遅く、カバーのない動きとなっている。田中のカバーは加地が担当している。 CKからの失点シーンは、明らかな宮本の落下点の読み違えである。これをもって、宮本の高さを危惧する向きもあるようだが、それは、試合を見ていない人の単なる勘違いであろう。せめてTVくらい見てほしいものである。宮本のヘディングの打点は得点したバブニッチ(観戦プログラムによれば176cmで宮本と同身長である)より高いことはTV画面からも明らかである。はからずも宮本がジャンプ力の高さを示したシーンとなっている。 後半投入された田中には極めて気の毒な試合となった。前進後退のタイミングがやや宮本とずれていた。しかしながら、坪井と比べると、タッチ数が少なく前線への展開が速い特徴が見て取れた。 |