1.04年キリンカップに見るジーコジャパンのディフェンスライン
(2)セルビア・モンテネグロ戦
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 9分セルビア・モンテネグロ(以下セルビアと略)8番のドリブル。マーク(福西?)とカバー(田中)が一人ずつ。中央のセルビア選手に宮本と中澤がルーズに着いている。日本右サイドのセルビア7番はフリー。セルビア7番にパスが渡ると田中がマーク。田中が振りきられ7番が中央に切れ込むが、ゴール前で中澤が密着マークしている選手を除くとセルビア選手はフリーに見える。中澤がマークしていた選手にパスが渡り、更にフリーのセルビア8番にマイナスのパスが渡るが日本選手インターセプト成功。

 日本は縦パス以外は基本的に密着マークをしない。ニュートラルな位置に立って、ボール奪取のポイントは明らかにインターセプトであることがよく分かる。


 10分日本右サイドで田中、セルビア7番とのマッチアップに敗れ、日本右サイドをセルビア7番がドリブル。後方をカバーして余っていた宮本と、その更にファーにいる中澤はラインを保ちながらゆっくり7番を見ながら後退。後方から走ってきた福西がセルビア7番をケアにはいり、宮本はゴール前でカバー。結果的に7番のパスはファーに流れるが、宮本の選択は明らかに7番からのパスのインターセプト。

 さらに、その後コーナーキックのこぼれ玉を玉田とセルビア2番が奪い合う。玉田が股間を抜かれ、セルビア2番はゴールに向かってドリブル。このとき、後方でセルビア4番のマークに着いていた加地?がマークを捨て2番のドリブルコースに駆け込む。4番はこの後フリーだが、後方ゴール前の田中と中澤はラインに並んでいる。このとき田中は余っている。結局ゴール前に出た浮き球のパスは宮本のヘッドでクリア。余談ながら宮本のジャンプ力に注目していただきたい。

 この一連のプレーで明らかになるのは、ボールホルダーへのマークは徹底されているのは当たり前だが、ゴール前であっても、ボールを持たない選手のマークよりボールホルダーに対するカバーの方が優先順位は高いようだ。(ただし、この優先順位は絶対不変のものではなく場合によっては逆転するのではないかと思われるが、その判断の基準の的確さ度合いがこのチームのDFの最も重要な要素なのであろう。)そして、ラインは禁止されているわけではなく、むしろゴール前では出来うる限り形成しようとしている。


 15分日本の最終ラインはラインを形成したまま、日本中盤に対して14m程後方に位置している。キリンカップでの2試合は最終ラインでのボール回しの時に典型的に見られるが、速い押し上げがほとんど見られない。このことは、トルシエ時代に比べ、ジーコが中盤をコンパクトにすることを求める度合いが低いか、あるいは、ほとんど要求していないことを示すのではないか。むしろ、中盤をコンパクトにしないようにという要求が出ていてもおかしくはない。ディフェンスが、カバーを義務づけられているとするならば、すくなくとも3バックではトルシエ時代に比べディフェンスに参加する人数は増えていることになり、逆に中盤の人数はへるから、したがって、中盤はコンパクトになりにくいはずだ。むしろディフェンスのカバー優先とルーズな中盤は表裏一体であって、ジーコジャパンの大きな特徴なのではなかろうか。キリンカップは、まさに中村のチームといっても過言ではなく、ざっくりと表現すれば、中村は大活躍だったと私は思う。その中村が、コンパクトな中盤よりもスペースのたっぷりある中盤に適合する選手であることも考えておくべきだろう。


 19分中村のマークする選手から縦にパスが出る。縦パスの受け手7番?には宮本が着いているが、ワンツーを通されてしまう。中村はワンツーを受けた選手のマークを継続しており、その後方で、宮本は壁になった選手のマークを継続しながら、中村のカバーに入っている。その更に後ろには、中澤が余っている。右サイド側にはセルビア9番がいる。セルビア9番は田中がマークし、この選手へのパスコースへは加地が立っている。そのためセルビアのパスコースは一瞬なくなるのだが、このため、日本右サイドをフリーで駆け上がるセルビア2番にパスが渡る。加地が2番のマークに着くと、その後ろを中村がカバー。宮本はセルビア9番のカバーに入り、セルビア7番?はフリー。2番と7番?の壁パスが通り再び2番がボールを持つと、また、7番?は日本右サイド側でフリーになる。最終的には、日本がスライディングタックルでこぼれたボールを奪う。この守備では、カバーが連続し、局所的には、非常に強固な守備であり、次から次へと日本選手がでてくるので、相手ボールホルダーへのプレッシャーは強いものの、反面、相手チームのフリーの選手も連続して発生するので、弱点はあるのだ。


 22分コーナーキックのこぼれ玉を中村がセルビア選手と競り合って奪われる。日本右サイド側ではセルビア2人に対して日本5人。うち、後方で余っているのは中澤。日本左サイド側にはセルビア選手が一人おり、日本選手は2人。カバーは宮本である。このチームの守備では、ボールホルダーだけでなくパスの受け手にも、可能であればマークとカバーをつけるようにしていることが分かる。


 31分日本右サイドの混戦からセルビア選手が抜け出し、宮本と1対1となる。この後方にセルビア選手がおり、そのマークには中澤が着いている。更に後方にアレックスがいて、その後ろ日本左サイドにはセルビア選手がいる。アレックスの位置は、日本左サイドのセルビア選手のマークとしてはルーズで、マークしていないわけではなかろうが、むしろ、中澤の後方でのカバーの役割が大きそうである。


 34分日本右サイドで田中がかわされ(田中は右サイドでの1対1に負けている局面が数回あった。この試合のDFの中では田中は1対1に弱い方だと思われるが、事例を集積するとどうなのだろうか?)セルビア選手が日本右サイドから中央へ斜めにドリブル。田中が追走し、後方で余っていた中澤が対応することになる。もう一人のセルビア選手がほぼ、中央をボールホルダーと併走しており、この選手をケアしつつ遠藤がボールホルダーとこのセルビア選手の中間を併走している。宮本は日本右サイドにもう一人いるセルビア選手のマークに着いている。

 中澤と遠藤の間を斜めにパスを出され、遠藤のマークが間に合わず、中央を走っていたセルビア選手にシュートされる。このシーンは1対1になってしまった場面だが、このような場面はジーコのチームでは作ってはならないシーンなのか許容されるのか?トルシエ時代では当たり前のシーンであったのだが。


後半開始1分セルビア選手が日本のボランチの位置でドリブルを開始し、日本右サイド側に進んでくる。田中と中澤はゴール前で1対1でマークについているが、加地は右サイドのセルビア選手を見つつも中央に絞って余っている。ゴール前に宮本がセルビア選手のマークをしながらもどり、セルビア4番が後方に下がると田中は着いていかない。ボールホルダーとセルビア4番が横に並び、横パスしかでなくなると、4番をマークしていた田中の役割は、マークをはずし、福西のカバーに入ることになるのだ。この後4番はフリーである。今マークからカバーへの移行のタイミングがつかめるかつかめないかがジーコのDFに選出されるか否かの分かれ目かと思う。


 4分セルビアの縦パスを遠藤がカットできない。パスの受け手のセルビア9番には田中のマークと中澤のカバーが着いているが、ボールはこの選手を通り越して更に日本ゴール前にいるセルビア7番に渡る。この選手には宮本が後ろから着いているがセルビア7番がボールを受けてしまう。中澤は、セルビア9番のカバーから宮本を助ける形でボールを持ったセルビア7番のマークにはいる。ゴール前に走り込み、7番を追い越したセルビア9番には田中が付き、田中はセルビア7番からセルビア9番へのパスコースに位置する。セルビア9番の背後にはアレックスが走り込む。日本左サイドにはセルビア選手がいるが、フリーであり、アレックスは全く気にしていない。


 5分にも中央をドリブルされるが、田中、宮本は相手選手の背後に位置し、アレックスは日本左サイドのセルビア選手のマークより、宮本がマークする選手のカバーに入っている。

 マークは原則として相手の背後につく。そのため、パスの受け手がボールを受けてしまうこともあるのだが、それは良しとされているようだ。また、カバーは必ず相手ボールホルダーの縦ベクトルのあるパスコースに立つことになっているようで、このチームでやたらにインターセプトが目立つ原因をなしているようだ。カバーの選手はボールホルダーと縦パスの受け手となりそうな選手のマークを同時にしている瞬間が頻繁に現れ、マークとカバーのどちらを優先するか常に判断を迫られることになる。

 後方から個々の選手の判断を助けるコーチングは絶対不可欠だと思われる。ナンバーの小野のインタビューから推測するに、コーチングは宮本、小野(この試合では遠藤か福西が代行しているのか?)それと、高い確率でGKといった選手がコンダクターの役割を担っているようだ。マークとカバーの流れ作業が的確に行われているならば、1対1の局面は限りなく少ないはずで、このチームのDFに必要な資質は、第1に判断力、次に走力とハイボールをヘディングでクリアする能力となるものと思われる。1対1のマッチアップでボールを奪取する能力はさして重視されていないと思われる。すくなくとも、長身で体格の良いDF(そういった選手が、ヘディングに強くボール奪取能力に優れているという見解はかならずしも私はとらないが、)をずらりと並べなければという発想からは、対極に位置することは疑いようがない。


 10分ほぼPAライン上の日本ゴール正面にセルビア選手7番がおり、宮本がマーク、田中がカバー。それより6,7m日本ゴールから遠い位置の日本ゴール正面で中澤がマークしている選手から、日本右サイド側のフリーのセルビア選手に横パスが出ると、宮本がマークを捨ててパスを受けた選手のマークに着きに行く。何と田中までカバーに走っていく。宮本と田中がケアしていたセルビア7番には、中澤がマークに行くことで、マークの受け渡しは完了し、7番にパスが出ると、急遽田中がカバーに戻る。おそらく、役割分担は正しく遂行されたのだろうが、7番が一瞬フリーになっている。7番へのパスコースを塞がなかった田中のミスなのか、許容される動きなのか明らかではないが、トルシエ時代にはう考えられなかったDFの動きである。


 15分セルビア縦パスからゴール正面で宮本とセルビア選手が対峙、もう一人のセルビア選手が併走しているがフリー、その後方に田中がいるが明らかに当初はカバーを優先している。田中が併走するセルビア選手のマークに走るのはパスが出てからである。


 22分にも横パスの受け手はフリー。ただし、フリーの選手にパスが出る直前に、宮本が、田中に手でこの選手の前方の空間を指し示しており、パスが通ることを見越して、このフリーの選手の前方のスペースに入るように指示しているようだ。おそらく、まだ、田中がジーコジャパンの守備の優先順位に習熟していないことを示すシーンであると思われる。今後の田中の精進が期待される。


28分にもPA外でゴール正面での横パスの受け手とファーの選手はフリーである。このケースでもパスが出てから対応しており、結局ゴール正面からのミドルシュートを打たれている。相手選手のシュートの精度とゴールからの距離、シュートコースの限定、GK川口の技量から導き出される確率に基づく守備である。


 後半38分日本右サイドをセルビア選手がドリブル。日本は田中、宮本、アレックスが併走して下がる。ファーで手をあげるセルビア選手のパスコースに入る目的で宮本はラインからはずれ、より、ゴールから遠いオンサイドの位置でカバーしている。ファーで手を挙げるセルビア選手についているのはアレックスと中澤。より、ゴールに近い位置にいるアレックスはあきらかに、右サイドのボールホルダーと1対1になっている田中とのラインを気にしてギャップを作らないようにしている。オフサイドラインが無視されているわけではないことがよくわかる。ゴールと田中とボールホルダーとの間にはカバーの日本選手はいないが、ボールホルダーはPAすれすれの位置にいるので、ドリブル突破はゴール右で阻止できる位置に宮本は立っている。


 40分にも、ラインから、一瞬中澤の位置が深くなるがすぐにラインを修復している。

 このチームの守備システムはさして複雑でも、難しくもない。一人で、2人の相手選手のマークとカバーをすることがあるとしても、局面で2方向を意識するのみで、広い視野は必ずしも必要とは思われない。DFがボール奪取に飛び込むシーンが少ないので、1対1の強さも、あるに越したことがないと言う程度だと思われる。しかし、その運用のタイミングは極めて微妙だ。チーム戦術として運用できるようなタイミングの習熟と連携には長い時間が必要だと思われる。このようなチームには新しい選手は入りにくいし、また、特異な個性には極めて相性が悪いと思われる。

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