ドイツ戦の2失点 −日韓ワールドカップのセットプレーでの失点との比較−
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日韓ワールドカップでは、記憶に鮮明な宮城でのトルコ戦でのCKからの失点だけでなく、ベルギー戦での1失点目もFKからの跳ね返りを再度、ゴール前に蹴り込まれたものだった。

ベルギー戦は当時、森岡の負傷退場、宮本投入により守備が不安定になり、宮本投入後の2失点目ばかりがクローズアップされ、宮本がラインを上げたことが強く批判された。私には2失点目は、中田浩二がライン操作に遅れてしまったことが失点の原因にしか見えなかったのだが、当時の(とりわけ、ロシア戦で勝利する前の)評価は、宮本に厳しかったのである。

私自身当時は、スタジアム観戦したもののワールドカップの興奮と熱気の中で、この試合を冷静に評価することが難しかったのだが、いま、DVD録画を見返してみると、1失点目は松田の凡ミスといっても良いくらいの個人ミスである。

一旦跳ね返したものの稲本が奪うことが出来なかったボールは、山なりに蹴り込まれ、ウィルモッツのオーバーヘッドシュートになる。シュートシーンでウィルモッツをマークしていたのは上空から落ちてくるボールの落下点を読むことを苦手としている松田。タクティカル映像で見ると、一瞬後ろを振り向きウィルモッツの存在を確認してから、なんと、機関車バックして後方に向かって飛び上がっている。試してみるとよくわかると思うが、このような跳び方で高く飛べるわけもなく、国際映像で見ると、低い高さに飛び上がった松田の頭の上を通過し、落ちてきたボールを、その後ろのウィルモッツは遙かに低い位置で捉えている。

これは、ウィルモッツが低い打点でオーバーヘッドしたため、あまり知られていないようだが、飛び上がるDFの上をボールが通過し、後方の相手選手にさわられる、いわゆるDFの高さ不足といわれるプレーである。

この山なりボールは、DVDを見る限り、変化球とは言い難く、半身になって、ボールから一瞬目を離して斜め後ろに跳び、ウィルモッツの体勢を崩せば容易に防げた失敗に過ぎない。事前の練習・意識付けで十分対応可能であるが、反面、山なりボールを苦手にししばしば機関車バックする松田という選手の個性とも不可分に結びついており、修正は困難と言わざるを得ない。
 後方で棒立ちしている市川はトルシエから叱責されたそうだが、オフサイドでないのにオフサイドを主張して片手をあげて棒立ちしていた市川のミスは確かに存在するが、市川にすれば、松田が一人で守りきれると考えたのであろう。

トルコ戦のCKからの失点は奇妙な失点だ。得点したウミト・ダバラがなぜフリーになっていたのかわからない。スカパーの解説者はゾーンで守っていることに原因を求めているが、釈然としない。もう一つ釈然としないのは、ウミト・ダバラの後ろで松田がしゃがみ込んでいることだ。なぜ、こんな姿勢をとっているのか。

タクティカル映像と国際映像で見ると、たしかに、最初の配置では密着マークをしているように見えない。それでも当初、ウミト・ダバラをマークする役割は西沢のものらしい。西沢は途中でマークをはずしてしまうのだが、タクティカル映像ではウミト・ダバラがゴール前にくると、その後ろから松田が追いすがりかけて不自然に後方によろめいている。国際映像のリプレイではっきり写っているのだが、松田はこのときユニホームを引っ張られ、後方に引っ張られているのだ。おそらく、さらに背中から後方に引きずられ、体勢を崩して飛ぶことが出来ず、逆にしゃがみ込んでしまっているらしい。後方の選手を良く確認して、振り払わねばならなかったのだ。

このように、02年のワールドカップの失点は1.山なりボールの落下点の読み違え。2.ファールされたことにより飛べなかったこと。であった。選手の個人的な失敗とマークミスで、いずれも、事前に対応策をたてることが可能と思われる。

これに対し、ドイツ戦での失点は、やや、様相を異にする。
(ドイツ戦はTV観戦のみなので、TV画面からの情報に基づいている。)

ドイツ戦での2失点のFKは落ちるボールだが単純な山なりのボールではない。共に鋭く落ちてくる変化球である。日本では阿部勇樹のFKがこのタイプで、阿部の球種がよく知られていなかったころには、Jリーグで面白いようにFKが決まっていたと記憶している。中村俊輔も欧州で球種を増やし、鋭く落ちるボールを含む複数の球種をもっているとのことで、大したものだと思っていたが、他の国のFKも多彩なもののようだ。

06年のドイツ戦ではボールの落下点というよりも、球種そのものを読み違えたものと考える。02年当時、私は、FKはゾーンよりもマンマークで守るべきだと考えており、マークがはずれていなければ、失点はほとんどないと考えていた。

ところが、ドイツ戦のセットプレーからの2失点は、共に、マークははずれていない。
1失点目は、クローゼに宮本がマークしている。この失点シーンで奇妙なのは宮本が完全にひっくり返っていることだ。クローゼが左手で引っ張ったのかとも思ったがTVで見る限りでは、引っ張り倒されているようには見えない。スロー再生で観察すればクローゼと競り合っているのは上半身なのに、上半身からのけぞって転んだのではなく尻餅をつくように宮本の身体が沈み込んでいっていた。クローゼと宮本は共にゴール前に走り込んでおり、重心のかかる方向も同一のはずで、それどころか、クローゼは宮本を振り払うよりも、自分自身が速くボールに到達したいはずである。

私は宮本の右足が伸ばされ、下半身から沈んでいることに注目している。おそらく、宮本は(川口も)FKはクローゼが頭でさわれるところに飛んでくると考えていたのではなかろうか。クローゼが移動し始めたときは、宮本は体を当ててクローゼの体勢を崩すことを意図していたのではないか。ところが、ボールは鋭く落ちてクローゼの足元に向かっていたためクローゼの体勢を崩してヘディングを失敗させるプレイでは、全く無意味になってしまった。そこで、宮本はクローゼの体勢を崩すプレイから、不自然かつ低い成功率であっても足を伸ばして先にボールに触るプレイに変更せざるを得ず、その結果体勢を崩してひっくり返ってしまったもののやはりボールに先に触ることは不成功に終わった。

TVで見る限りこのプレーでは、川口が飛び出しても良いように思う。私は、川口もボールはもっと手前のクローゼが頭で触れる位置に落ちてくると考えていたのではないかと思っている。

2失点目は、まず、日本左サイドで宮本が取られたファールがファールだとは気がつかなかった。これは、一般的な見解のようで、現地解説の松木氏もアナウンサーも全くファールに気がつかずに会話を続けている。また、宮本自身も不満であったようで、終了間際に日本右サイドでファールを取られたとき、このファールもファールを取るかな?というプレーだったが、珍しく宮本が判定に対して怒りをあらわにしている。
 
2失点目は鋭く落ちるFKに走り込むシュバインシュタイガーには柳沢がマークしているのだが、TVで見る限りではシュバインシュタイガーより先に、落下点に到達しているのは福西だ。にもかかわらず、福西は自分の前でシュバインシュタイガーにヘディングを許している。福西の高さ不足と言うよりは、ポジション取りの失敗で、その原因は福西が思った以上にボールが落ちたのだ。
 
密集よりもスペースを狙って変化球を蹴るプレーは、日本も前半20分に中村俊輔がCKで行っている。このときは、おそらく中田を狙ったものと思われるが中田が反応しなかったため、スペースに落ちただけに終わっている。

2失点共に、ピッチ上よりもスカウティングで対応すべき失敗だと私は思う。98年大会当時から、国際試合ではリーグ戦よりもFKが決まりやすいのではないかと私はずっと思っている。ひょっとすると生涯ただ一度きりしか対戦しない相手のFKの弾道を予測するのは一流選手でもたやすいことではないのであろう。

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