ガンバ大阪ユースのファーストタッチ |
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02年のJユースカップ決勝ガンバ大阪ユース対サンフレッチェユースはガンバ大阪ユースの圧勝に終わっが、私の見る限りでは、対したサンフレッチェも弱いチームではなかった。それにしても、02年のガンバ大阪ユースはリーグ戦から飛び抜けて強かった。 かつて、大黒兄弟、二川を擁した西村監督時代には浮き球パスを多用するチームで、グラウンダーのパスの比率が極端に低いチームだったと記憶している。これに対し、高橋監督時代のガンバユースはグラウンダーのパスが主体となっており、西村監督時代とは、かなりチームカラーが変わっている。なかでも、02年のチームは完成度が高かったと、私は思う。 02年のガンバユースが他のチームと大きく、かつ、鮮明に異なっていたのは、ファーストタッチである。今のところ、私の少ない知見では、ガンバユースとよく似たファーストタッチをチームとして組織的にするプロのクラブチームはイングランドのアーセナルぐらいしか思い浮かばない(それすらも、組織化の度合いはガンバユースに劣ると考えている。)。 ガンバユースのファーストタッチはそれぐらい特徴的だが、反面、現在のところ、必ずしも、世界的な趨勢となっているわけでもなければ、必要不可欠なものともみなされていないということである。 それはグッド・ボディ・シェイプに対するガンバ大阪指導陣(おそらくアーセナルの指導陣も)の一つの回答と見なして良いであろう。そして、私がガンバ大阪ユースの試合を実見し、また、アーセナルの試合をテレビ観戦する限りにおいて、組織的に実践されれば、破壊的な武器になると私は考えている。 ガンバ大阪ユースのファーストタッチには少なくとも2つの大きな特徴がある。一つにはボールの出し手がボールを蹴ってから、受け手がボールを受けて蹴るまでの間の時間の使い方である。 一般に、パスの受け手は、パスの出し手と相手ディフェンスを含む攻撃方向を同時に視野に入れるべきとされているため、多くの場合、パスの出し手の方向と攻撃方向に身体を開いている。そして、この姿勢のままで、パスを受け、ワンタッチでボールを持ち直してから、軸足の方向を次に蹴りたい方向に向けて、さらに、体の向きを変え、ツータッチ目でボールを蹴り出す。もし、ワンタッチでパスを出そうとすると軸足はパスが出てきた方向を向いているので、どうしても不自然であり、無理が生じ、パスコースが限定されてしまい、また、精度の低いパスにならざるを得ない。(視野の広い選手であれば、この不自然さを逆手にとってトリッキーなパスを出すこともあるが、これは、個人の天才に頼ったプレーといわざるを得まい。) このようなプレーは教科書的には悪いとはされていないらしく、卑近な例では、03年の高校選手権決勝の国見対市立船橋や02年Jユースカップ出場のユースチームの多くで日常的に見られた。 これに対し、ガンバ大阪ユースでは、パスの受け手は、パスの出し手がボールを蹴るまでは、パスの出し手と相手ディフェンスを同一視野に入れているが、パスが出てから自身がボールを受けるまでに、身体の向きを変え、軸足のつま先を次に蹴りたい方向に向け、姿勢はワンタッチパスを蹴ることができるものになっている。そのためには、ボールをやり過ごして追いかけるように反転することもあれば、一歩後ろに身体を引くこともあり、一様ではない。ただし、このようなプレーをするためには、原則として、パスが出てくる前に、パスの受け手は次のパスの出し所を判断している必要がある。そうでなくては、パスを受けるまでに次の軸足の向きを決定することはできない。パスが出てから、ないし、パスを受けてから考えていたのでは遅いのだ。 ガンバ大阪ユースが、ツータッチ目で蹴り出さない、他チームのようなファーストタッチをしないというわけではないし、他チームがガンバ大阪ユースのようなファーストタッチをしないというわけでもない。しかしながら、プレーの出現頻度が桁違いなのだ。なかんずく、パスの受け手が全くマーカーを背負っておらず、完全に自由にプレーできる場合、他チームではワンタッチしてから前を向いていることがほとんどであるのに対し、ガンバ大阪ユースではパスが出てから受けるまでに、体の向きと姿勢、軸足の方向を変えノータッチで前を向いてしまっている。他チームとガンバ大阪ユースではプレーの優先順位、習慣づけが全く違うことの証左だと言えよう。 ノータッチで前を向くよう習慣づけられたガンバ大阪ユースとワンタッチで前を向くよう習慣づけられた他チームとでは、端的にタッチ数が違い、攻守の切り替えの早さに大きく差が出るであろう。どちらが優れているかは歴然ではないかと思う。 二つ目に、上記プレーの習慣付けの帰結として、ガンバ大阪ユースに特徴的に見られるのは、ワンタッチパスの交換の多さだ。ガンバ大阪ユースのパスは、パスの受け手がマーカーを背をっている時に、受け手のマーカーから遠い方の足に向けられる。受け手は遠い方の足で受けて、身体をスクリーンにしてマーカーをブロックしながらワンタッチで次のガンバ大阪ユース選手に、相手マーカーから遠い方の足に蹴っている。 単純なこの繰り返しにすぎないのだが、正確にキックが蹴れること、ブロックに成功していることという技術を伴って、ほとんどスペースがないと思われる密集の中をワンタッチパスがつながっていく。 ボールが出てくる前にルックアップして身体のどちらかの側がフリーの味方を捜す、自身のマーカーをブロックしながらパスが来るのを待つ、相手選手から遠い方の足に蹴る、受け手はパスが出てくる前にルックアップして身体のどちらかの側がフリーの味方を捜す、自身のマーカーをブロックしながらパスが来るのを待つ、相手選手から遠い方の足に蹴る。この繰り返しで機械的にワンタッチパスがつながっていくのだ。パスの受け手Bが次にパスを出す方向の判断は、すべてパスの出し手AがBにパスを出す前に終わっている。私は、判断のスピードを上げるという命題に対するガンバ大阪の答えがここに示されている考えている。判断するポイントを可能な限り前にするという答えなのだ。 上記の事例は、繰り返し述べるが、現在のところ、ごく一部のチームでの試みにすぎない。また、ガンバ大阪ユースの試合を実見しながら複数のJリーグ幹部が、評価できなかったことも私は実際に間近で見聞して知っている。 にもかかわらず、ガンバ大阪ユースと同様のファーストタッチを試みているチームが存在することも知っている。直近の高校選手権一回戦市立船橋対市立一条戦において一条の選手はキックオフ後、船橋の最初の得点までは、再三、ファーストタッチで、蹴りたい方向につま先を向けるボディ・シェイプを試みていた。しかしながら、スクリーンが不完全であったことと、キックの精度がさらに必要であったため、船橋マーカーに簡単にマイボールをさわられてしまっていたのだが。私が縷々述べるまでもなく、一条の監督が、ガンバ大阪ユースのファーストタッチの特色とその意義に気がついているのは明らかであった |