二つのアルゼンチン戦と二つの反転 |
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食い足りない。評価しにくい。それがこの試合の最も一般的な感想であろうか。 ひるがえって、私たちは、1対0で勝った4年前の21歳以下のアルゼンチン戦の衝撃を覚えている。面白いように決まるオフサイドトラップ。試合開始直後は華麗なドリブルやパスを見せていたアルゼンチンが、どんどんやる気をなくすのが手に取るように分かる。あの試合で、私たちは、キャプテン宮本、ボランチ稲本を強烈に脳裏に印象づけられた。(すでに、Jリーグでは良く知られた選手だった稲本を「発見」したサッカーマスコミやファンがいたことは今ではお笑いぐさである。) この試合の決勝点はスター中村だったことも、この試合に鮮烈な印象をもたらしたものであったろう。 この試合以降の宮本のディフェンスが、我が国のサッカーに与えた影響がいかに巨大なものだったかは、今年の天皇杯の数試合を観戦してみてもよくわかる。中盤をコンパクトにする早く高い位置への押し上げ。細かい上下動。ラインをできる限り維持しようとする試み。90分を通じて継続することはできないながら宮本のディフェンスの特色は容易に見て取ることができるのだ。 では、02年11月20日のアルゼンチン戦で私たちは何を知ったのか?この試合では、目から鱗が落ちるような衝撃はなかったし、一人の稲本や宮本すら発見できなかった。スターとしての中村俊輔すら発見できなかった。(徹底してボール奪取の標的にされたジャマイカ戦とは違い、アルゼンチンは俊輔相手に肉体的な接触をほとんど試みていない。たとえば前半7分のプレーなど囲んでバックパスを出させれば良しとしている。)このアルゼンチン戦はあまりに、98年の長居でのエジプト戦に似ている。 あの、なんだかよくわからないエジプト戦の井原のディフェンス。そこからF3のエッセンスを抽出し得た宮本であれば、この日のアルゼンチン戦の意義をどのように解説してくれるのだろうか。その答えは、宮本の勇姿を代表戦で見る試合まで、私たちは待たねばならないのだ。 この日のFWが中盤でプレーする(前半39分など)ことが多かった日本を、アルゼンチンは怖いとは思わなかったであろうし、また、後半とくに目立った福西と中田の両ボランチの間にぽっかり空いたスペースをベロンに有効に使われたことが敗戦の原因と考えている。 この試合の中で、私の興味を引いたのは前半19分の高原のシュートシーンの反転と後半1分のアルゼンチン3番ソリンの得点シーンの反転、この二つの反転に見られる越えがたい日本とアルゼンチンとの技術格差である。両プレーとも、ターンといわれるプレーなのだが、ビデオでスロー再生してみると実は回転動作ではなく、足の踏み替えと体重移動による方向転換なのだ。社交ダンスでピボットターンといわれる軸足の後ろに送り足を引き、送り足に重心を移して方向転換することによって回転するステップのバリエーションと見なしていいだろうと私は思う。ピボットターンは最少の動作で素早く反転するためのステップと、私は、考えている。 ソリンは、左足に重心を乗せ、右足でボールを受け、そのまま右足を引き右足に重心を移して反転し、左足でシュートしている。ボールを受けて反転しシュートするまでの体重移動は、左から右の1回にすぎない。 これに対し、高原はゴールに背を向けて右足に重心を乗せ左足でボールを止めて、次にボールに乗る形で左足に重心を移し右足を右に少し引く。さらに右足に重心を移して自由になった左足を右足の後ろに引き、左足に重心を移す。なんと、その上、右足を小さく後ろに引き、右足に重心を移して右足の踵で踏ん張り、また、左足を小さく前に出すと同時に上体は反転し今度は左足に体重を乗せて右足でシュートしている。ボールを受けて反転しシュートするまでの体重移動は、右から左、右、左、右、左の5回である。ソリンより4回も体重移動が多く、その分当然の事ながらソリンより遅いのだ。 なぜ、このようにプレーの遅さが生まれるのか。ソリンのトラップは同時にボールを蹴りたい位置に置く動作であるのに対し、高原のトラップは単にその場にボールを止める動作にすぎず、同時に蹴りたい位置にボールをおく動作になり得ていない。よって高原は、ボールに乗って右足を少し後ろに引くことで自らの体を移動させざるを得ず、それでも、ボールの位置と自分の位置が調整しきれず、細かくステップを踏んで微調整しているのだ。 この4歩の差の中に日本選手の基礎技術の未熟さを見ることができよう。ファーストタッチで蹴りたい位置にボールを置けない。良いボディシェイプをとることができず、蹴りやすい体勢に自分の体をコントロールできない。これが、日本代表のFWなのだ。ことほどさように、まだ、日本では、ボールを受けてから蹴るまでの技術が低いままなのだ。 私は、高原がボールを止めるという動作を同時に蹴るという動作の予備動作とできないところに、我が国のサッカー界の基礎技術に対する意識の薄さを見てしまうのだ。いかに次の動作を迅速に行うか。そのために身体をどう使うか。指導者はちゃんと認識しているのか。 よいボディシェイプとはどういうものなのか。我が国のサッカー選手は常に考えているのだろうか。海外の選手に比べて考えが甘くないのか。 たとえば、迅速に攻撃に移るためには、後ろを向いてボールをいったん受けてからボールを蹴りたい位置に移動させるよりも、次に蹴りたい位置でボールを受ければいい。そのためには、相手選手からボールを守るため、ブロックする動作が必要だし、次に蹴る先を確認している必要があるからルックアップしている必要がある。それから、それから…。 そのためには手をこう使うべきだ。ヘッドはこの位置に来ざるを得ない。体重移動はこう行えば最少回数で済む。さらに…。 こういった思考を我が国のサッカー選手や指導者、ファンは果たして持ち得ているのであろうか。 |