二つの1対1 −コスタリカ戦覚書ビデオ確認済−
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この日は日帰りの列車の時間の関係から85分頃までしか実見していない。


試合前の練習ではウクライナ戦とはうってかわって、ロングフィードの練習は影を潜める。
DFがトップ下にパスを送りトップ下はボランチにボールを戻し、ボランチがトップに当てるというジグザグのパスの練習をしていた。実際に試合でも、決定的なスルーパスのチャンスにバックパスをするため、見ていていらいらしたファンが多かったのではなかろうか。しかし、この試合は、そういう練習をする練習試合であったのだ。ロングフィードの回数も減っている。小笠原はこのような基本設定の試合で使われたのは、不運だったかもしれない。


ラインコントロールは宮本7に対し松田3ぐらいの割合。松田の設定した高さに宮本が合わすシーンが再三見られた。特に下がるときの高さは松田に合わせていることが多かった。
松田ラインは基本的に宮本が今まで設定していたラインよりかなり低い、(15分宮本よりさらに低い位置に松田ともう一人の日本選手が相手選手に引っ張られるように下がっている。)かつ、宮本が松田をカバーするように更に低い位置にはいるのでこの日のラインは非常に低く設定された。

例として、前半14分は宮本が相手とPA内まで併走している。いままでならラインを上げるところだと思う。前半16分は宮本は松田より下がりすぎているように見えるが、それよりも一度下がって松田の高さに戻そうとしているように見える。

後半15分も宮本は松田の高さに合わせている。

31分日本右サイドをドリブルされているときにF3はゆっくり下がって行くがこのときラインの高さを決定しているのは松田に見える。宮本と中田は松田に合わせている。
33分も日本右サイドをドリブルされながら松田と宮本の2バックがゆっくり下がって行くが、宮本は相手選手の動きを首を振って確認しているが、松田は一度も首を振らない。明らかに宮本は松田を基準に動いている。宮本は松田から1mほど低い位置を確保しようとしており、ラインディフェンスではない。

21分コスタリカ右サイドからロングキック以降のプレーはこの日のディフェンスの白眉であろう。日本右サイドからコスタリカ2列目が飛び出す。コスタリカFWは日本左サイドオフサイドゾーンを歩いてプレーに関与しない。このとき日本のオフサイドラインはコスタリカ2列目の選手に合わせて設定されており、3人がきれいに並んでいる。ここですばらしいのは右の松田は出足鋭くコスタリカ2列目の選手を追い抜いており、宮本はオフサイドをアピールしつつもプレーに関与しないコスタリカFWの動きを首を振って確認。2列目からの飛び出しをラインを上げて対応する好例である。


このように、宮本と松田のディフェンスがあっている若しくは宮本が松田に合わそうとしているという印象を残すのに対し、中田浩二が常に1,2歩後ろに下がっていた。たとえば前半13分のプレーである。特にPKを与えたシーンではラインを形成していた松田が気の毒に思えたほどだ。

後半6分に中田浩二がPKを与える。このときのプレーは日本の失点シーンに比べると遙かに日本選手のプレーの質が低い。はっきり言ってお粗末である。このとき、この直前の時点で宮本がフォアチェックから中盤に入り、そのかわりに日本右サイドの選手が最終ラインに入り松田と中田浩二の3人でF3を形成していた。プレーはほぼPAのライン上で行われており、ビデオでもはっきりと中田はパスが出る瞬間にも下がり続けており、オフサイドをアピールしている松田より1,2m低い位置に下がってしまっている。そこに生じたギャップに入り込まれているのであって、きちんと守っておれば、オフサイドが簡単に取れ、このPKはなかっただろう。

その次にコスタリカ選手を倒したプレーは00年に香港での香港選抜戦と横浜でのボリビア戦で松田が行ったいわゆるアリキック。レッドカードにならなくて良かったというプレーである。このプレーがPK若しくはレッドカードにつながる、してはならないプレーであることはよく知られているところであって、松田も当時当然の厳しい批判を浴びたのである。私が知る限り、その後、少なくとも代表戦では松田はこのプレーをしていない。プレーの巧拙はさておき、松田は、自らのプレーを厳しく律するという意識を持っていることは間違いないだろう。

中田浩二は、この松田の先例を全く生かすことなく、コスタリカ選手を追い越してしまい、さして上手いとも思えない切り返しにあっさりと引っかかる。中田浩二は足を門にして肩よりも広く股を広げて腰を落として構えるというボランチの選手がしばしば中盤で行う守備をしてしまったのである。この姿勢が左右にほとんど動けないことは考えればわかりそうなものなのだが。(この守備姿勢の癖が抜けないため松田がしばしば代表やクラブでピンチメーカーになったことを中田は忘れたのだろうか。)しかも、左足に体重がかかったところを右から抜かれてしまっている。ここは半身でゴールラインを向いて体を開いてステップしながらゆっくりと下がり、味方選手の戻りを待つべきだったろう。ワールドカップ直前のこの時期に基本を忘れたプレーをし、技術的に1対1に負けた中田選手には猛省を促したい。このワンプレーは1対1は技術力によって決まるプレーシーンであることを教えてくれると共に、中田浩二のサッカーに取り組む姿勢に疑念を抱かされるシーンなのだ。

これに対し、失点のシーンは複数の選手のミスの累積である。
まず、パークスにサイドを破られたとき、ラインを形成していたのは宮本、中田、左サイドの日本選手だが宮本と左サイドの選手はオフサイドだと思ったのではなかろうか。ところが中田浩二が下がりすぎていたためにオフサイドがとれていない。宮本はパスの受け手のパークスを一直線に捕まえに行き、余裕を持って補足できている。この時の宮本の動きは非常に優れていると言えよう。ビデオでは真横から宮本がいきなり出現するように見える。また、パークスとボールとを切り離すことにも成功しているのだが、パークスも宮本に補足されることを予測し歩幅を変えてフェイントを入れている。宮本はパークスの進路を阻もうとしたと思われるが、自らの前進するスピードを逆に利用されて振り切られてしまった。補足するタイミングをもう1歩遅くすべきではなかったか。このプレーで最も攻められるべきなのは松田である。宮本とゴールの中間点に一直線にカバーにはいるべきであった松田がパークスのウェーブにあわせてウェーブして追走した(これはビデオでは非常によくわかる)ため、パークスにすら追いつかず、宮本の背後は誰もいない状態にしてしまった。俊足とされる松田がゲーム中に鈍足に見えるのはこの試合が始めてではない。松田は相手ボールホルダーと同じ軌跡を描いて走るという悪癖を持っている。このワンプレーで宮本と松田のゲームの展開を読む力の抜きがたい落差を感じてしまうのである。

この間の宮本のミスとしては、宮本は背後の味方選手の動きをもっとよく確認すべきだった。(現実に宮本はこれ以降のスロバキア戦、ホンジュラス戦では3mのディレイよりも、激しくボールを奪い合うプレーを選択している。味方選手の判断とプレースピードが信用できないのであれば、ボールを奪い合ってディレイするしかないだろう。スライディングタックルという選択は得策ではない。TVには移っていないが、ホンジュラス戦で松田がスライディングをかわされているシーンがあり、スライディングタックルはかわされると、さらに為すすべがなくなるからである。)また、宮本より低い位置にいたはずの中田がゴール前の走り込む位置を迷ったため、中田もカバーに間に合わない。おそらく中田は松田がカバーにはいれば、自らはゴール前のパスコースを消すつもりだったのではなかろうか。松田がカバーに入らなかったため、一瞬走るコースを見失って出遅れたものと思われる。また、キーパー楢崎はパークスのシュートより先にニアに飛びかけており、キーパーの動きをよく見ていたパークスにあっさり逆を突かれている。

同じ1対1でもかくも大きくプレーの質は違うのである。

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