その一撃 −07年ゼロックススーパーカップガンバ対レッズ戦における安田理大−
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 その一撃が試合を決めた。と言っても過言ではない。

試合を決した決定的な一撃が放たれたのは、前半32分マグノ・アウベスゴールが決まったわずか4分後、1−0でガンバリードの前半36分。 浦和左サイドにいた浦和DFネネからFWワシントンにロングパスが出たときからこのシーンは始まった。

 ガンバ守備陣は浦和から見てワシントンの左側に山口。右側に安田がいる。シジクレイは浦和側から見てワシントンより左後方にいるもう一人の浦和選手(TV画面からでは誰か確認できない。)をマークし、山口もこの浦和選手の方に視線を向けている。テレビのアナウンサーは、あたかもワシントンのマークに2人のガンバ選手がいるように実況しているが、ネネからパスが出るタイミングではワシントンのマークは実は安田一人である。

 ネネのロングパスは、ガンバのマークが集中していたこの「もう一人の浦和選手」の頭上を越えファーサイドにいたワシントンをねらったものだった。「もう一人の浦和選手」とワシントンの間、ガンバゴール正面にいた山口は完全に逆を突かれ、ワシントンに駆け寄ることができず、ニアの位置でジャンプしているがボールは山口の頭を通過し、ワシントンのコントロールするところとなった。

 このとき浦和から見てさらに右側にいた安田は、ワシントンに先にボールの落下点に入られたため、後追いになってしまい、シュートの瞬間にワシントンの右斜め後ろからタックルしている。

 ワシントンは安田のタックルを受けながらも、完全にキーパーと一対一でボールも完全にコントロールしていた。ガンバの絶体絶命のピンチ、ここでワシントンのシュートが決まれば、前半36分の時点で1−1。試合の帰趨は分からなくなってしまう。ところがワシントンのシュートはゴールの遙か上を通過し、ワシントン自身はたたらをふんでしゃがみ込んでしまうのである。

 ワシントンのシュートをはずさせた安田のその一撃は、まさにこのシュートの瞬間に放たれていたのだ。スロー再生でシュートシーンを見てみるとよくわかる。ワシントンに振り切られ完全に後追いとなった安田は右斜め後ろからタックルすると同時に、自らの左足をワシントンの蹴り足の後ろから同じタイミングで蹴り上げているのだ。このためワシントンのシュートは遙か上方に跳ね上がることとなったのだ。

 斜めからのタックルなのでファウルになることはないのだろうと思うが、後方股の間から蹴っているのだから、すれすれではなかったか。わたしは、よくここでこういうプレーを選択したと思う。ここがこの試合の分岐点だという戦術眼。ここで絶対ゴールさせてはならないという判断。ファウルすれすれのプレーでもかまわないという判断はテクニシャン揃いのガンバ大阪ユース出身の選手には逆に希有のものだ。私は、マリーシアあふれる安田のこの一撃でこの試合は決まったと思うのである。

 この試合で、安田はガンバの左サイドバックなのだが、前半10分のワシントンとヘディングで競り合ったシーン。後半11分ワシントンの早いリスタートから前線へのパスをインターセプト。後半15分浦和のロングフィードに山口と共に対応した場面。後半32分ディフェンスラインの裏に出されたスルーパスに反応した山田を制しながらボールにゴールラインを割らせたプレイ。安田はこの試合で、ディフェンスラインでの好プレイが目立つ。

反面、前半42分、後半11分、後半31分など相手にパスしてしまうミスが目立つ。さらに、評価の高い前半4分のガンバ左サイドでの飛び出しからのドリブルシュートにしても、後半10分にもほぼ同じシーンがあり、安田の前のスペースが空いているときには安田にドリブルさせるという約束事に沿ってプレイしているに過ぎないように思われる。なお、このときは平川に潰されており突破に成功していない。

 私は、この試合は安田の試合だったと考える。それは、安田の攻撃力によるものではなく、ガンバ大阪ユース出身の選手では宮本しか持っていなかった戦術眼、激しい守備によるものである。

 ユース時代に相手選手の顔面をスパイクし一発レッドを貰った選手は、それ相応の成長を遂げていたのである。

 さらに、私は、安田のタックルを受けて全く抗議していないワシントンにも注目したい。この選手にとってこのようなタックルもサッカーの内であり、持ちこたえられて当然、このような新人に近い選手のタックルに持ちこたえられなかった自分が悪いと考えているのであろう。この態度にワシントンという選手の「格」を私は感じてしまうのである。
TV観戦のみ



 付記

 今年のゼロックススーパー杯で、サッカーファンに耳目を集めつつある安田だが、ウェブ上での一般的な評価は「攻撃、とくにドリブルに見るべきものがある反面守備に課題がある」というところで、それは本人のコメント『守備が課題だけど、ガンガンいきます』(なにわWEB:http://osaka.nikkansports.com/soccer/jleague/p-oj-tp0-20070302-163997.html)とも合致する。しかしこの試合全体をとおして平川との勝負をつぶさに見返すと、安田の攻撃のは早い時期にJリーグで、一度頭打ち状態になるのではないだろうか?安田に対して対戦チームが対策を事前に立ててくれば、という条件付きだが。そしてむしろ楽しみなのがJリーグに出場することで、彼の守備センスにトップでの試合出場により経験値が付与されることだ。
 ところで、安田のゼロックススーパー杯での先発出場は、家長が五輪代表にかり出されたことによるのが直接の原因だろうが、西野監督は守備センスも見こんで安田を起用したのだろうか?

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