失敗の本質  −東アジア選手権北朝鮮戦の失点シーンに思う−
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  05/07/31韓国での東アジア選手権初戦の北朝鮮戦の失点シーンははDF中澤がゴール前で蹴ったボールが、北朝鮮選手の足下に渡ったことから、パスをつながれ、シュートされたものである。

 この試合の解説者セルジオ越後氏はこのプレーを評して次のように語る。「…中澤がね、思い切ってクリアすればいいのに、ちょっと悩んだ…。」と判断ミスを指摘する。サッカーダイジェスト8月16日号9−10pでは「中途半端なクリアボール」として、判断ミス若しくはキックミス、サッカーマガジン8月16日号12pでは「正確性を期して右足でのクリアを選択したのだろうが、痛恨のミスとなって相手の正面に。」とし、蹴り足の判断ミスとキックミスを指摘する。クリア時のキックミス、蹴り足を含むプレー選択の判断ミスをしてきしているようである。

 たしかに、このとき、宮本は大きく腕を伸ばし、斜め上を指して明かに大きくクリアしろと指示している。また、中澤がボールを受けた時点では、北朝鮮選手に密着されているわけではなく、ワンタッチで蹴り出さざるを得ない状態ではない。かなり余裕があるように見える。このとき、他の選手達はゆっくりと前方に向かって歩き始めており、日本選手には、中澤は余裕があると認識されていたものと思われる。大きくクリアするのに何の問題もないと思われていたのだ。少なくとも選手の間ではそう認識されていたと思われる。

 では、中澤は、なぜ、大きくクリアしなかったのか?

 ここで、中澤のプレーの直前の日本選手のプレーを検討してみよう。DVD録画を見ると、途中で両チームのベンチのアップがあり、一部途切れているのだが、宮本が北朝鮮選手と日本左サイドで競り合い、タッチラインを割ったボールは北朝鮮ボールとなった。北朝鮮選手のスローインは田中が背後から密着マークする北朝鮮選手に渡り、この北朝鮮選手の蹴ったボールを加地がカット。加地はこのボールを前方の小笠原にパス。小笠原は福西にバックパスするが、福西が既に前方に走りはじめていたため、福西の元いた位置に出されたボールは福西の後ろに転がり北朝鮮選手に奪われる。このとき、福西は自身の前方にあったスペースにボールがでてくるものと思っていたようである。小笠原と福西が意志疎通を欠いていたことが直接のミスの原因なのだが、このシーンをDVDで見返してみると、小笠原は、左足でパスを受け、身体を1/8右回転させ、ボールを右足に持ち替えて、右足で福西にパスを出している。この間の一連の動作の中で、私が気に掛かるのは小笠原が左足で、ボールを受けてトラップして、ボールを落とした位置なのだ。DVDで見る限り、右足で蹴るのは非常に窮屈に見えるのだ。むしろ左足のインサイドの方が蹴りやすいように見える。右足で蹴るのならもう少し右側に落とすべきではなかったのか。小笠原はボールを受けてから蹴るまでの間、完全にフリーであり、パスコースは自由に選択できたのだ。小笠原は、はたしてボールを受けるときに、次のプレーを想定してトラップしたのか?思い通りにとラップできていたのか?小笠原と福西の間のパスミスには小笠原の次のプレーに対する判断の遅さ、若しくは、トラップミスが介在していると私は思う。

 このあと、北朝鮮選手の蹴ったボールを中澤がカットするのだが、中澤の直前にボールに触れた加地も小笠原もクリアではなく、PAのすぐ手前にもかかわらずパスを選択している事に注目したい。前方を向いていた加地は大きくクリアするのはさして困難ではなかったと思われるし、後方を向いているが、小笠原の(一週間後の韓国戦で見せたような)キープ力であれば、振り向いて蹴り出すことも十分可能だったのではないか。にもかかわらず、加地も小笠原もパスでボールを繋ぐことを選択している。

 実はこのような代表戦でDFの自陣でのショートパスのプレーをわれわれはよく知っている。パスカットされた事例であるが、例えば、03年のコンフェデレーションズカップ・フランス大会コロンビア戦での失点は宮本が出したパスを、パスが出てこないと思いこんでいた遠藤が取り損ねたことによるものであった。

 また、04年アジアカップバーレーン戦での2失点目は、小笠原が宮本に出した自陣でのショートパスをカットされたことに端を発しているのだが、この直前小笠原から宮本、宮本から再度小笠原へと自陣でのショートパスが繰り返えされている。

 このように、ジーコジャパンでの守備、とりわけDFは、クリアよりもショートパスによる繋ぎを優先する傾向が見て取れる。DFは相手選手とヘディングで競り合ったボールも近くの味方選手に向けて飛ばそうとしているし、大きく蹴り出すことはほとんど見られない。とくに、ヘディングで正確に繋ぐ技術は必須のもののようで、ヘディングを苦手とするトルシエ時代のレギュラーDFがジーコジャパンで招集されなくなっているのも、けだし当然と私は思う。

 話を元に戻すと、北朝鮮戦において、自陣ゴール前でも余裕のあった中澤は、十分パスで繋げると思い、ジーコジャパンでのプレーの優先順位に従って、すぐ傍でフリーだった宮本にパスのではなかろうか。少なくとも、フリーで前を向いている宮本を介しての大きなクリアを選択したと思われる。これに対し、クリアを指示していた宮本は中澤が指示に従うと思っていたのであろう。中澤のプレーはクリアミスではない。パスミスなのである。クリアの指示を出した宮本と、その指示に従わなかった中澤の意志疎通に問題があったと思われる。

 しかしながら、と私はさらに反問せざるを得ないのだ。単にショートパスでの意志疎通だけの問題ではないと思うのだ。中澤のところに転がってきたボールは、緩いものだったので、中澤はボールをカットする前に細かくステップを踏んで、ボールを受ける足をあわせている。余裕があったためこのようなことをしているのだが、中澤は、無理矢理右足でボールを取りたがっている。

 この場面では、宮本の背後にいた北朝鮮の7番は転んでいたので、宮本にパスした中澤のプレーの選択は誤りとは言えないが、この場面は、中澤が身体を1/8右回転させ右足で日本左サイドで完全にフリーだったアレックスにパスすれば何ら問題のないシーンだった。しかしながら、中澤は右足でボールを受けて、あえて、北朝鮮選手のいる方向へ右足で蹴ることを選択した。期せずしてサッカーマガジン8月30日号35pで賀川浩氏が中澤が左足を苦手としていることについて書いている。賀川氏は、この試合の一週間後の東アジア選手権韓国戦での中澤の左足ゴールについて書いているのだが、私は、北朝鮮戦線の失点シーンの中澤は「左足への苦手意識」にとらわれ、プレーの選択肢を狭めていたと私は思う。

 さらに、である。なぜ、中澤は身体を回転させられなかったのか。中澤の右足トラップをDVDでスロー再生してみると、細かくステップを踏んでいるにもかかわらず、ボールは正確に止まらずゴール方向に流れ、中澤はボールを追いかけているのだ。ここにもトラップミスがある。このトラップミスのため、北朝鮮の9番が中澤に肉薄する時間が生まれてしまい、中澤が体の向きを変えアレックスへのパスを出すことはほぼ不可能になり、前方へ大きくクリアするためには、中澤の背後の北朝鮮選手と競りあわねばならなくなってしまった。結果、日本右サイドのタッチラインに向けて大きく蹴り出すという選択と宮本へのパスという2つの選択肢しか無くなってしまった、そして、中澤は、より安全に見えた、宮本へのパスを選択した。

 このように、中澤のミスは、クリアミスではなくパスミス。より根元的には、左足が苦手なことと右足でのトラップミスによるプレーの時間、判断する時間の喪失とプレーの限定に起因しているのである。

 右足でのトラップ選択は間違いではない。宮本にパスしたことも間違いとは言えまい。このプレーでの最も大きな問題はトラップでボールが止まらないことにあると言えよう。

 ここで、あえて、中澤のプレーと対照的なミスの事例を上げよう。05/05/14の長居での大阪ダービーの西澤の2点目である。ロングボールを宮本の当日のTV解説者は、「宮本のクリアミスでしたね。」と語っているのだが、このプレーもパスミスである。宮本はヘディングでも、足でもなく腿トラップで柔らかいボールをシジクレイに向けて出しており、この直前歩いていたシジクレイの出足が遅れ西澤にパスカットされているのである。

 解説者も、宮本が何故腿トラップを選択したのか疑問に思ったらしく、宮本が一瞬ボールから目を離したとして、落下点の読み違えに原因を求めているのだが、スロー再生を見る限り、宮本がボールを見ていないのは、背走しながらセレッソ選手をちらりと見ているときで、宮本はボールの落下点に入る直前からはずっとボールを見ており、この指摘は当たらない。ボールが急激に落下しているようにも見えるが、宮本は足でのタッチも取っていない。むしろ、積極的に柔らかいボールをシジクレイに出すために腿トラップしたものと思われる。このプレーでのミスは、宮本に頭、足、腿を含む身体という複数のボールタッチの選択肢を選ぶことが可能だったにもかかわらず、敢えて難しいプレーを選択し、シジクレイへの腿トラップでの縦パスで、一瞬で攻守を切り替えようとしたことに端を発している。事実、ボールはシジクレイの前のスペースにふわりと落ちている。仮に、西澤の反応が遅く、シジクレイが走り込んでいれば、ガンバはボールを保持したままプレーを進行することが出来たと思われる。

 最後に、SPORTS Yeah 124号18pの増島みどり氏の記事についてコメントしておこう。増島氏は次のように記す。「ちょうど、1週間前の同じ頃、小笠原は北朝鮮の攻撃を回避しようとしてGK川口能活(磐田)へのバックパスを出したが、弱かった。」増島氏は明確にしていないが、文脈から推測するに、この記述は東アジア選手権北朝鮮戦失点シーン直前からについてのものである。しかし、DVD録画を見ると、フリーの小笠原が北朝鮮の攻撃を回避しようとしたとするのは、感覚の違いといわれればそれまでだが、釈然としない。また、小笠原のバックパスの相手は福西であって、川口ではない。川口に出したのであればもっと強いキックになっていたと思われるし、そもそも、位置関係からして、小笠原は川口にはバックパスは出来ないだろう。

 増島氏はさらに続けて「しかし中澤がいつものように鋭い読みで一度はピンチを切り抜けた、と誰もがほっとした瞬間、その中途半端なクリアボールは相手への『アシスト』へと変わる。」と記すのだが、中澤が立っていた位置は、ゴール前で通常DFの一人が位置する場所に過ぎない。いちいち事例を例証する必要もあるのかと思う。このときも、宮本、中澤、アレックスがほぼ等間隔にならんでおり、中澤がゴール前を担当していた。中澤は与えられた仕事を正確にこなして、ゴール前にいたに過ぎない。これを鋭い読みといってしまっては、日本のDFとりわけ当たり前のプレーを当たり前にこなした中澤に失礼だろう。(「鋭い読み」という言葉の意味するところが、危機察知能力をさすのではないといわれればそれまでだが。)

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