今年のキリン杯を宮城と横浜で見たものの言い分
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 ボリビア戦をスタジアムで俯瞰した人なら分かるべきだと思うのだ。前半と後半とでは日本は明らかに違うチームだった。それはF3の中央が交替したことに起因していた。
 日本対スロバキア戦を見たのなら更に考えてほしいことがある。誰が統率するでもなく、最終ラインは同じ高さに位置し必要と思われる間隔を保ったDFが均等に並んでいた。だが、これは我が国の代表ではなく対戦国スロバキアの最終ラインの話。欧州では特に意識せずにこんな事が出来るのかと改めて知らされた。日本と欧州では今までに培った歴史がサッカーにおいても違う。それだけでなく環境、ストックが違っていてそういう差がこういうところに顕れてくるのか。

 ボリビア戦で明らかになった事実は、カールズバーグ杯以来ハッサン二世杯までの代表が少なくとも守備の上では99年のカテゴリー別代表の進化の上にあったものではなく、選手の個性に依存した別系統のチームであったことだった。そして、高いフラットなラインを維持することが望月に正当な評価を与え、DFによる攻撃のビルドアップに実態を与えていた。もう、言葉を尽くして論争で証明する必要などない。宮本がいるかいないかで組織は変わる。F3の中央を務められる数少ない特別な人材。彼がいないとサッカーが変わる。フォアリベロがトルシエの組織の画竜点睛であるとか、F3が形成できないが故のたわみがブレイクへの進化であるとかいう説は幻想でしかなかった。
 むろん、我が国のフル代表において見られるオートマティズムなぞ選手個人が獲得しているものは少なく、局面局面において仕切る選手がいてポジショニングバランスが保たれていたことも明白となった。スロバキア戦までの試合で人数が足りているのに味方同士がかぶってしまい、危険なスペースを産んでいた場面はTV画面でも確認できる。相手のCKに対して曖昧なポジションをとってしてしまい、ファーががらあきになっていたケースもボリビア戦後半ではなりを潜めていた。

 TV画面にはほとんど映っていなかったが、ボリビア戦では前半と後半はラインの高さと精度が全然異なっていた。重要なのは日本が攻撃をしているときのラインの高さである。後半は最終ラインがハーフウェーラインをこした状態で不可視の壁を形成していた事実を無視してはいけない。そして刮目して見るべきなのはアウトサイドやボランチのポジションバランスまでも、ゲームが止まるたびに宮本が細かに指示を出していたことである。宮本は単なるラインの統率者ではなくゲームの演出家であり指揮者であった。

 トルシエの無謬性を前提として理論を構築しようとしたら陥ってしまう迷路にはまってる人をまま見かけるが、トルシエにも事情もあれば寄り道だってあるのだ。日本におけるF3の人材不足や、協会その他との権力闘争、或いは宮本の手術という事情を考えればやはり今年に入ってからボリビア戦の前半までの代表はやはり、トルシエの現実的な選択であって理想型ではなかったと位置づけることができよう。

 私は4月にはまだ宮本はフル代表の任が負えないと書いた。その理由は
1)術後の違和感からフィジカルコンディションが悪い。
2)フル代表では宮本が仕切る事が難しいと思われる。
3)クラブの成績不振から精神的に余裕がない。
というような理由があったからである。これらの各例がクリアできて五輪本戦を経てアジア杯にはフル代表入りするのではないかと期待していた。(無論、五輪前の強化試合には五輪代表に復帰すると推測していた)ゆえにキリン杯での召集はいささか時期的には早いかと思われた。しかし、キリン杯が五輪本戦へのひとつのテストであるならば宮本の召集は当然であると思われた。試合を見たところ、いまだ100%のデキではないと思われた。その80%の状態でもF3の中央のCBとしての技量は松田を大きく凌いでおり、やはり宮本は日本におけるF3の必要欠くべからざる存在であることを知らしめた。ボリビア戦までの松田のパフォーマンスをもってF3に適応している、或いはよくやっている等と評した専門家は不明を恥じるべきではないだろうか。
 そもそもトルシエの発言を鵜呑みにする必要はない。彼はタフネゴシエイタアであるのだから、はったりに交渉上の作戦だって含まれるのだ。例えばトルシエが宮本を他の選手に変えた場合システムが違ってしまうと本心は思っていても、そんな選手層の薄い状態を正直に話すわけにはいかないだろう。NZ戦の競争原理発言だって意図があってのコメントととってしかるべきである。宮本のバックアップがいないことは昨年来ずっとトルシエのアキレス腱であることは衆目の一致するところであった。トルシエのコメントに限らず報道を読むときには、背後の事情を斟酌することが必要だと私は考えている。

 守備の安定感という曖昧な評価ではなく、ボリビア戦の後半をもう少し具体的に解体して見よう。明確な差異として目に付いたのは

あ)ラインの高さ
い)味方DFのマークが役割が常に明確だったこと
う)効率的な守備
え)守備陣がひとつのラインとして機能したこと
か)攻撃の活性化
などF3の本質的な部分であり、その波及効果は攻撃の決定機を作るところに及んでいた。

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