惨敗の幻影
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 遅ればせながら、モロッコでのフランス戦について書いてみようと思います。この試合は現地観戦ができなくて、テレビでしか見ていないので、テレビ画面で分かることのみ述べてみたいと思います。

 この試合は、フランスがほとんどプレスをかけず、明らかに流しています。テレビ画面でも、ほとんど走っていないことがわかるほどに。実質的には、7対2もしくは10対2と言ってもよいぐらいの惨敗でしょう。日本の問題点はどこにあるのでしょうか。

@中盤でボールを失うことの危険性

 まず、1点目の失点シーンですが、これは、中田のミスパスから始まります。中盤でボールを奪った中田は、中村にパスを出しましたが、フランスにカットされます。これは、中村がパスをもらいに走り込む際にフランス選手にユニホームを引っ張られ後ろに転んだことにより、中田からのパスの受け手がいなくなったことが原因です。そして、フランスのボールはフリーのプティに渡り、1点目のジダンへのパスになりました。

 一般には、1点目の失点は松田のラインコントロールのまずさや森岡の判断ミスがやり玉に挙がっていますが、ここでは、中村のボディバランスをふくめたボールをキープする技術の問題点に注目したいと思います。ユニホームを引っ張られたときに、なぜ、手で振り払わなかったのか。後ろからのプレッシャーに対して体を入れ替えることはできなかったのか。パスがでる前に前に周りの選手の動きを見ていなかったのか等々。この試合のみならず、万博でのセカンドステージのガンバ戦においても、中村はプレッシャーのあるところで、しばしばボールを失います。プレッシャーを受けているときに極端にプレーの精度の落ちる選手ではないかと思います。これはいわゆるフィジカルの問題ではなく、体の入れ方の問題で、技術上の弱点だと思います。トルシエが五輪チームの弱点に左サイドを上げたのも、故無きことではないでしょうし、後半、中村に変えて三浦を投入したのも、シドニーでの采配の原型となっているのではないでしょうか。中村の代表レギュラー定着に向けたさらなる精進を期待したいと思います。

 余談ですが、ガンバは、98年頃、あたりの激しさで有名でした。稲本、宮本、新井場のみならず168cmといわれる小柄な二川までもがプレッシャーのあるところでのボールキープに長けていることは偶然ではなく、ガンバにおける「役に立つ選手を育成する」システムの成果だと考えています。その成果は、この試合でも稲本が、セットプレイの跳ね返りをプティと競り合ってシュートまで持ち込んだプレーにも現れています。稲本は重心を低くして、プティにはね飛ばされないように踏ん張りながら、目はずっとボールを追っています。稲本がミドルシュートを打てたのは偶然ではなく、技術力の高さから導き出される論理的な帰結にほかなりません。

Aスイーパーシステムの問題点

 この試合のシステムは、フォアリベロもしくは2バックに松田を実質的なボランチに使ったトレスボランチシステムだという現地観戦された方の意見がありますが、あくまでもテレビで見る限りの意見としては、スイーパーシステムだと思います。理由は、松田が攻めあがっている時間帯以外は必ず、松田がもっとも低い位置におり、くの字型の守備陣形になっていること。(フラットに近いシーンもあるにはありますが)それと、松田が余っているシーンが韓国戦、中国戦に比べて減っていないと思うからです。

 そして、この試合の守備陣は、開始5分で崩壊していると思います。これは、メキシコ戦以来変わらない感想です。ほとんど成長の跡が見られません。

 いつでも、ボールもしくはボールホルダーにDFの意識が集中しているため、ファーががら空きになっており、フリーのフランス選手がいる。しかも、しばしばその選手にパスを出される。2点目の失点は、ジョルカエフの位置をよく確認していなかったDFラインのミスが最大の原因だと思われます。周囲に対する安全確認(いわゆる首振り)はキリンカップのスロバキア戦ではやや改善していますが、より強い相手と戦ったときにも意識していられるか疑問です。

 セットプレーでリーダーがいないため守備の人数は足りているのに、マークがずれてしまい、フリーのフランス選手を作ってしまう。また、ゾーン感覚に問題があるためか、味方のDF同士のポジションがしばしばかぶっている。

 森岡が前にでているとき、中盤の選手にディフェンスのカバーをさせていないため、DFとボランチの間に広大なスペースとフリーのフランス選手を作り決定的なピンチを招いてしまうなどボランチとの連携が悪い。宮本のF3がDFの攻め上がり時には必ずボランチを呼び戻しているのとは好対照。

 全体に、ラインが低く、守備に中盤の選手を使うため、組織的な攻撃は、ほぼ不可能。最終ラインが、ハーフウェイラインの遙か手前に張り付いているため、中盤の低い位置でボールを失うことが多くなり、恒常的なピンチの連続に陥り、MF・DFの運動量が大幅に増える。スイーパーシステムはよく教科書的には、相手の2トップに対してDFを一人余らせて対処すると言われます。私は、それでは攻撃するときは数的不利になるやんか。えらい守備的なシステムやなーと思っていましたが、やっぱり、守備的なシステムでした。それと、代表戦を見る限りでは、松田はスイーパーとして常に2対1の状況を作り出すことに長けた選手で、いつも無意味に余っているように見えるのですが、むしろ、余っていることが、彼の持ち味であり、プレースタイルなのでしょう。一般の理解とは逆に、守備的なシステムに適したDFであると思います。そして、7人で攻めて3人で守るため、DFが一人も余れないF3には向かない選手だと思います。また、アネルカにフィフティの場面から体を入れ替えられて決定的なピンチを招くなど、1対1での体の入れ方、使い方の技術は、アンリから上手に体を入れてボールを奪った森岡に比べかなり見劣りします。

 これで、ソウルでの韓国戦のように、フランスが日本のことをよくスカウティングして上から落ちてくるロングボールやミドルシュートの集中砲火を浴びせていたら、どうなったことでしょう。10対2もあながち的はずれではなかったかもしれません。

 すくなくとも、このときの日本はキャプテン不在のチームで、だれも積極的に守備や攻撃を仕切っていません。仕切屋がいるだけでもかなり違ったと思うのに。

 また、戦術的にも韓国の日本のスイーパーシステム破りの戦術に対する解決策も見られません。この試合は、セレッソコンビの個人技以外はあまり見るべきものがないだけでなく、2002年の日本の惨敗の幻影を見たような気がしてなりません。

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