トルシエの通信簿
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 昨日、長居で五輪壮行試合を見た。周知のとおり、前半はほぼフル代表、後半は昨年のU-22(BYクレバー・リベロ氏)という形に近かった。そして結果は前半0-0、後半は6-0の日本圧勝となった。これは一体何を意味するのか。

 前半松田システムの日本は、引いているクウェート相手に守備に人手を割いてしまう。森岡や中澤の証言通りF3ではなくスイーパーシステムで2対1を作り、守備をしている。一見攻撃的に見えるのだが、実は守備的で日本選手、特に両サイドの運動量が大きくなり、後半息切れするのがこのシステムの特徴だ。相手が引いていることが幸いして、ラインを非常に高く上げることができ、前半30分くらいまで、攻める日本とのらりくらりとしのぐクウェートという図式で両チームは互角だった。けれど、35分を過ぎる頃からはクウェートの攻勢に変わってくる。そして、同時にクウェートの攻撃パターンに変化が見られるのだ。それは、日本の最終ライン中央をクウェートが突破しようという意図が明確になった点に尽きる。
@日本のオフサイドトラップの意識が低く、かからないもしくはかけようとしないこと。
これは、中田浩がオフサイドを取りに行っているのに、松田がまったく気がついておらず、オフサイドと気がついてふーっと肩で息をするシーンがある。
A明確なマークの指示やゾーンの維持がなく、日本DFの間をあっさりと中央突破できること。
 2回ほど同じような形で、森岡と松田の間をクウェート選手に突破されている。
B日本DFが1対1に弱いため、クウェートの個人技で抜き去ることができること。
松田がフランス戦のアネルカとの1対1と同じような形で突破されていた。あまつさえ、松田はペナルティエリア内でクウェート選手のユニホームをつかみ引っ張り回していた。ホームチームディシジョンが無ければ、PKで前半は0−1で折り返しとなったことだろう。
 つまり、CBが日本の弱点であり、ここから攻めると簡単にシュートまで持ち込めることをクウェートが見破ったからだ。
このため、前半35分頃からは日本選手の意識は完全に守備へ向かってしまい、日本の最終ラインはずるずると下がり、1人で攻め、9人で守っていたクウェートに完全に攻めの形を作らせ、攻めるクウェート、カウンターの日本と言う形に変わってしまった。前半終了直後は0−0のドローもしくは、0−1の敗北も覚悟か、フランスワールドカップの最終予選と同じパターンに陥っているなという感を強くした。

 後半になり、トルシエはシステム変更と言うよりは、パフォーマンスの低い選手を入れ替え、最終予選の形に戻す手を打ってくる。(私は、松田スイーパーシステムのてこ入れに、これ以外の答えを出せないトルシエを非常に物足りなく思っている。)宮本のF3は、開始10分ほどは、不安定だったが、その後は安定し、終了直前まで、まったくピンチがなかった。宮本の守備は、ほとんどピンチがないので、FKをあたえると大ピンチに見える。守備が堅すぎてドラマがあまりないので、DFの評価が軒並み低くなるのが特徴だが、この日もクウェート選手がしだいに攻撃に対する意欲を失っていき、全くボールをおいかけなくなったシーンも散見された。

 ただ、選手全体の意識が攻撃に向き、基本的にオフサイドトラップを援用し、1対1を基本とした人手のかからない守備をしたため、おもしろいように点が入ったのは、試合結果が示している。

 美しいシーンを一つあげれば、後半35分ぐらいだったろうか。宮本が攻め上がるとき、ドリブルで真ん中からスペースをついて上がっていくのだが、日本選手の青のユニホームがさーっと左右に展開し、それに併せてクウェートの選手の赤のユニホームが左右に開いていくシーンは、宮本の攻め上がりは、個人プレーではなく組織としての攻撃力を生かすもので等々の月並みな戦評を拒絶するぐらいに美しく、このチームの王様は宮本だとはっきり分かるほど、威厳に満ちたものだった。(クレバー・リベロ氏も宮本が攻めると観客が沸くことをこのシーンを中心に語っておられました。)

 最後に、ポジショニングバランスについて言及すれば、日本の最終ラインはフットボールネイションズの個人技量に及ばない。フル代表のセットプレーを見ればそれは明らかで、人数が足りていてもマークの割り振りが曖昧なため、かぶってる味方もいればフリーの敵もいる。一見修正可能なミスが幾度と無く繰り返されるのは、守備を仕切る人間がいなければ日本代表ではポジショニングバランスがなかなか保てないことを端的に示しているのだ。個人オートマティズムを前提に、チームのポジショニングバランスを選手各個人が自動修正できるようになるのはまだまだ先の話でしかない。

 この説の有力な証拠がクウェート戦にある。中田浩のポジショニング及びプレーである。クウェート戦での中田浩は、昨年の最終予選の彼ではなかった。前半の松田システムのまま中田浩は中央のCBの後方をケアする意識が強く、反対側の中澤と比べても自陣深くに位置することが多かった。しかし、そうなれば当然オフサイドラインを盾に敵FWを牽制することは難しくなる。 

 実際に、クウェートの幻のゴールとなったシーンでは、中澤と宮本は明らかに、オフサイドを取りに行っており、ビデオを見る限り、どうも中澤はクウェート選手を手で押してオフサイドポジションに押し出しているようだ。してやったりと言うところか。また、後半最後のクウェートフリーキックの直前に、宮本がファールをとられたシーンだが、この直前に宮本は明らかにクウェート選手を押してオフサイドを取りに行っている。しかし、本来、宮本と同じオフサイドラインにいるはずの中田浩はさらに低い位置にカバーに入ってしまっており、オフサイドをとれなかったのが終了直前の守備の混乱の原因だ。おそらく、中田浩は前半の松田スイーパーシステムから切り替えることができなかったのでは無かろうか。

 さて、トルシエは、前半と後半のスコアで選手の通信簿を明らかにしてくれた。そしてこの成績を、オリンピック、ワールドカップにどのようにつなげていくのだろうか。

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